愛知県豊橋市にある江戸時代創業の和菓子店の「水羊かん」は、スッキリしながらも上品な甘さが魅力です。水羊かんの絶妙な触感と味わいを生み出すのは、10代目の手間暇を惜しまない丁寧な手仕事です。

■300年以上続く老舗…看板商品はスッキリとした甘さが魅力の「水羊かん」

 愛知県豊橋市の旧東海道沿いにある「御菓子所 絹与(きぬよ)」は、江戸時代中頃に創業し300年近く続く老舗和菓子店です。

【動画で見る】スッキリしながらも上品な甘さ…300年以上続く老舗の看板商品『水羊かん』10代目の手仕事

 看板商品は暑い時季に食べたくなる、キンと冷やした「羊かん」。

 定番の「小豆 羊かん」(一棹1296円)に、香り高い抹茶を練り込んだ「宇治 羊かん」(一棹1296円)など6種類ほどが並びます。

 この時季人気の水羊かん「む羅さき(むらさき)」(一棹1188円)は、6月から8月までの夏季限定商品です。

女性客:
「急に暑くなったし、季節的には水羊かんじゃないですか。家に帰ってすぐいただきたい」

別の女性客:
「つるんと滑らかな水羊かんなので。舌ですっと溶けて、すっきり」

 作るのは、10代目の杉浦隆仁さん(36)です。

 1時間半もかけて手作業で練り上げた餡を、寒天と合わせて炊き上げ、ここにしかない水羊かんに仕上げます。

■父親考案のレシピに忠実に…10代目が生み出すスッキリとした食感

 絹与の水羊かんは、隆仁さんの父・敏二さんが考案しました。

父の敏二さん:
「夏菓子を何か商品にしたいと水羊かん(を考案)。小豆の風味をちゃんと生かしたものを」 

 父がつくったレシピを元に、父の思いを受け継いだ隆仁さんが再現しています。

 水羊かんづくりは、まずはふっくら炊き上がるのが特長の北海道産の小豆を大釜で煮ます。

 沸騰すると水を加えました。

隆仁さん:
「びっくり水っていいまして、煮えムラがないようにする方法。50度近くまで温度を下げるのが目安」

 豆をふっくらさせつつ柔らかくなり過ぎないように、小豆の状態を確認しながら20分ほど煮て一旦ザルに上げ、「渋切り(しぶきり)」を行います。

 小豆のえぐ味や渋味を洗い流す工程で、軟らかく煮過ぎて渋切りをするとおいしさまで流れてしまうため、豆の顔を見て煮え具合を見極めるといいます。

 渋切りを終えたら、弱火でコトコトおよそ2時間、小豆の芯まで柔らかく炊き上がりました。

 皮を取って細かく砕いた後、麻袋に詰め圧力をかけ水気を切ると、あんこの素となる「生餡(なまあん)」の完成。この生餡に、すっきりとした甘みの砂糖、「白双糖(しろざらとう)」と水を加え「こし餡」を作ります。

 砂糖が溶けたら少しずつ生餡を足し、ダマにならないように丁寧に練っていきます。この工程は機械を使う店が多いですが、絹与では1時間半かけて手で練り上げます。

隆仁さん:
「『餡は自分で作れ』が(店の)一番のポリシー。機械ではなく手でやってきた(店の)味があるので」
 
 長時間かけ手作業で練ることで、小豆特有のニオイを取り除き、スッキリしながらも風味豊かな味わいを引き出していきます。手間はかかりますが、これこそ“小豆本来の味”を引き出すために欠かせない店の伝統です。

 1時間以上練り続けると、餡がまとまり始めました。

 そして熱をどこまで入れるか。手にズシリとした重みを感じたら糖度計で狙いの甘さに達しているか確認し、最後は手に伝わる感触で火から上げるタイミングを見極めます。父・敏二さんから受け継いだ、水羊かん専用の「こし餡」の完成です。

■一層強くなった家業への思い…きっかけは全工程を初めて任された「栗羊かん」

 隆仁さんは、大学卒業後に名古屋の老舗で2年間修業し、家業に入りました。「機械が本当に無い」というのが第一印象だったといいます。

 創業から300年近い老舗「絹与」は、商品のほとんどが昔ながらの手づくりのため、その技術を習得するのにかかった月日は6年。転機は、2015年に初めて父親から「栗羊かん」の製造を任されたことでした。

隆仁さん:
「自分で作っているけど、自分が考えたものではない。『おいしいね』と言ってくれても、お店に対する誉め言葉であって、個人に対するものではなかった。栗羊かんが初めて感じた個人の嬉しさでした」

 全ての工程を任されたものが評価され、隆仁さんは、職人としての喜びを味わって家業への思いが一層強くなりました。その後は絹与らしさを感じさせながらも、時代に合った数々の商品を生み出し店の看板を守っています。

 そんな息子を見守る父は…。

父・敏二さん:
「ようやっとるかな。ただ基本は外すなよと。基本を保ちながら色々トライすればいいと」

■丁寧と手間は紙一重…丁寧につくられた上品な甘みとコク深い味わいの「水羊かん」

 先祖の思い、父の思いを継ぐ「水羊かん」がいよいよ完成します。

 品質が一定という長野県茅野市産の棒寒天を溶かし、溶けた寒天に白双糖を入れてこし餡を加えます。こし餡を溶かして煮立ったところで、レンゲのハチミツと「竹糖(ちくとう)」という品種のサトウキビから作った和三盆を加えます。

隆仁さん:
「ハチミツは味の深み。和三盆糖を入れるお店はたぶん少ない。すごくコクがあるが後を引かない。うちの水羊かんには欠かせない砂糖」

 溶け合わさったら火からおろし、濾して、容器に流し込み固まったら完成です。

 隆仁さんのテシゴトが生み出した、水羊かん「む羅さき(むらさき)」(一棹1188円)。さらっと溶ける食感に、ほど良く上品な甘みが口いっぱいに広がります。

隆仁さん:
「丁寧さと手間は紙一重。そこまでしなくていいことを、手間ととるか丁寧ととるか。店の色が存在するので、色がわかるようなモノづくり。あくまでも、絹与らしいというのが一番の約束事」

 しっかりとしたコク深い味わいの「水羊かん」。暑い夏こそ食べたい、涼を感じる極上の逸品です。

 杉浦さん1人で作るので、1日30本程度と数に限りがあります。「絹与」のインスタグラムからオンラインショップへ行くことができます。