2020年9月にニューヨークで暴行され大ケガをした日本人ジャズピアニストが、愛知県岡崎市でコンサートを行いました。ニューヨークでの暴行の背景にあったのは、アジア人へのヘイトクライムでした。

 軽快なリズムを刻み、ホールに響く音色…。ピアノを奏でるのは海野雅威さん。ニューヨークを拠点に活動するミュージシャンです。

海野さん:
「地下鉄に乗っていたら言いがかりをつけられて、突然暴行を受けてしまうということがあって」

 1980年、東京生まれ。4歳からピアノを始め、ミュージシャンを志して東京藝術大学に進学。

 2008年に渡米。ジャズの世界を代表する巨匠、ドラマーのジミー・コブや、トランペッターのロイ・ハーグローヴのピアニストとして、世界中をツアーで回りました。

 順調に進んでいた海外での音楽活動。しかし3年前の2020年9月、海野さんは突然、ニューヨークの地下鉄で8人ほどの黒人グループに襲われました。

海野さん:
「10月に手術をして2カ月間療養していて、12月に日本で療養しようと決めまして日本に帰ってきて。春ごろまでですね、ほとんどちゃんと弾けなかったですね」

 右肩と右腕の骨を折る大ケガ。暴行の最中、聞こえてきたのは「アジアン・ガイ」という言葉。恐怖の中でヘイトクライムを確信しました。

 海野さんが襲われた年は、新型コロナウィルスが世界中に拡散し、アメリカではアジア人というだけで暴言や暴行を受けるヘイトクライムが社会問題化した年でした。

 二度と鍵盤を叩くことができないかもしれない状況に陥りながらも、懸命にリハビリを続け、海野さんはステージに戻ってきます。

 療養中に作曲した「Get My Mojo Back」。「Mojo」の意味は「不思議な力」。不慮の事件に遭遇しながらも、乗り越える力を曲に込めました。

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海野さん:
「僕の事件で言うと、犯人は黒人の少年たちで、しかも8人もいて少年も少女もいたんだけど、その黒人に対して、僕になんてことをするんだと、僕に対しての理不尽さを感じてくれる多くの人は怒ったりする中では、『黒人が悪い』って一緒くたに考えてしまう人もいるっていうことに、僕はまた悲しみを覚えて…」

 アメリカ社会の中に根強く存在する人種差別や偏見。コロナをきっかけに噴出した負の連鎖。

海野さん:
「元から負の印象とか感情を抱いている人が、こういう事が起きると『ほら見たことか』となりがちなので。どうしたら一般の人たちがネガティブな感情を抱かなくなるか、やっぱり一人一人の強さが必要ですよね」

 痛みや悲しみを受け入れて奏でるジャズピアノ。海野さんは2022年11月に開かれる「岡崎ジャズストリート」でも演奏することになっています。