愛知県新城市の産直市場で販売している「真っ白なきくらげ」は、地元で料理にはもちろん、スイーツなど多彩に使われている。生産しているのは有名テーマパークで働いていた元樹木医だ。なぜ、きくらげが白いのか、魅力と生産者の思いに迫った。

■高級中華料理店も御用達…コリコリしてもっちりの「白いきくらげ」

 愛知県新城市にある「こんたく長篠」。

【動画で見る】植物のプロが栽培する『白いきくらげ』1万分の1の突然変異で生まれた魅力

その産直市場の一角で見つけたのが、白いきくらげだ。商品名は「鳳来きくらげ」、1パック約80グラムで200円だ。

こんたく長篠の店長:
「地元の飲食店ですとか旅館の方々が、結構買われていきますね。個人(のお客)でも、やはり一度買われた方はまた求めてこられる方もいらっしゃいますので。思ったよりも弾力があって、歯ごたえがあっておいしかったです」

 新城市内の高級中華料理店「玖老勢 蘭華(くろぜ らんか)」では、「白いきくらげ」を使っている。

「白いきくらげと奥三河赤どりの上湯(しゃんたん)スープ」。

白いきくらげに冬瓜やスイカを合わせたスイーツ「白いきくらげと冬瓜と西瓜の冷たいデザート」。

玖老勢 蘭華の店主:
「白いきくらげは中国では薬膳料理にも使われて、宮廷料理でも使われております」

店主の妻:
「食感のバランス取るのには、名脇役だと思います」

客ら:
「コリコリッとした食感が印象的でした」

「これならひとつだけじゃなくて、もっとたくさんあった方が…」

「結構厚みがあって、歯ごたえがあって、コリコリして」

「食感がぷるぷるしていて、聞いたとこによると食物繊維が多いということで、女性にはとても良いのではないか」

 特徴は、従来のきくらげのコリコリ感に加え、少しもっちりとした独特の食感。そして何より、その白の美しさが魅力だ。

キムチに和えれば、白菜のシャキシャキ感と白いきくらげのもっちり感のコントラストを楽しむことができたり…。

黒蜜ときな粉をかければ、わらび餅風に。

かき氷のシロップで和えると、きくらげがシロップの色に染まり、「映える」スイーツにもなる。

ほぼ無味無臭のため、料理やスイーツなど幅広く使える。

■「白いきくらげ」は約1万分の1の突然変異を固定化した “幻のキノコ”

 この「白いきくらげ」を生産しているのは、「鳳来寺山麓 きのこ園」。

きのこ園の代表、中田靖人さん(64)だ。「白いきくらげ」は2021年から栽培している。

鳳来寺山麓きのこ園代表・中田靖人さん:
「これが白いきくらげの菌床(きんしょう)です。まだこれは小さくて育っている最中なんですけれど。ここはいまのところ2000株くらい」

栽培室には整然とラックが並び、白いきくらげが生えてくる菌床(きんしょう)が所狭しと並んでいた。

 そもそも白いきくらげとはどんなものなのか。

中田さん:
「黒い一般的な普通のきくらげ、これが突然変異で白化したものなんですけれど、かなりまれにしか出てこないタイプなので、それを固定化して商品化したものをうちで使っているんですけどね」

この「白いきくらげ」は、通常の黒いきくらげと同じ種で、約1万分の1の確率で出現した突然変異の白色異種を固定化したものだという。

中田さん:
「ビタミンDの含有量がトップクラスに多いもんですから、カルシウムの吸収が良くなるっていいますので。あと食物繊維が多いもんですから、お通じが良くなりますんで、高齢者の方だとか療養中の方、あとお子さんなんかに召し上がっていただくといいんじゃないかなと思って」

中国料理でよく使われる「シロキクラゲ」とは別の品種で、とても珍しい希少なキノコだ。

「白いきくらげ」も他のきのこと同じように、放っておいても生えてくるのだろうか。

中田さん:
「これは結構繊細ですから、相当手を入れないとできないんです」

栽培にかなり手間がかかるので、ほとんど生産者がいないという。

■水、湿度、室温、二酸化炭素の濃度に収穫も手作業…隅々まで細やかな仕事

 栽培の様子を見せてもらった。朝9時から昼ごろまで、息子さんと一緒に収穫作業を行うが、ひとつひとつ手作業だ。

中田さん:
「栽培スタートから収穫できるまでには、早いものだと2週間くらいですけど、3週間くらいを目処にしている。大きさは5センチから7センチ。シワがなくなって開いちゃったら収穫する」

 機械化全盛の時代に、手作業で収穫している理由も教えてくれた。

中田さん:
「きくらげの場合は、基本的な形状っていうのがないんですよね。丸いのがあったり大きいのがあったりだとか。例えば、AI使って『これが収穫時期だ』っていうのは、今はちょっとまだ難しいと思います」

生のきくらげはやわらかくデリケートなうえ、1つの菌床から形や大きさがバラバラに生えてくるため、全て人の目で見なければならない。約2000株の菌床を巡りながら、収穫に適したものを根気よくひとつずつ採っていく。

 よく見ると栽培室の出入り口が開放されているが、これにも理由があった。

中田さん:
「きくらげの栽培で一番難しいのは、結構成長が早い分だけ酸素を必要としますので、二酸化炭素の濃度を抑えておかないと奇形が出たりとかしますので。二酸化炭素の濃度が下がった状態で維持するっていうのが、かなり難しいんですよね」

きくらげは成長が早いぶん、二酸化炭素を多く出すため、酸欠状態にならないように換気する必要があるという。

だが、換気を続ければきのこに欠かせない湿度も逃げてしまう。そこで、噴霧器で湿度を90%前後にキープ。ちなみに気温は25度から30度になるようにしている。

 そして、水にもこだわりがあった。

中田さん:
「うちの水はこの敷地の中で井戸を掘ってですね、そこから汲み上げているんですけど…。ですから、すごくきれいで弱酸性なもんですから、飲んでみると気のせいか甘みがあるくらいの結構おいしいお水なんです。きのこの栽培には、やっぱり水が命なもんですから、ちょっと水にはこだわりを持ってうちも使っています」

噴霧するだけでなく、水分が足りないものには直接ホースで水をかけていく手の入れようだ。

中田さん:
「水まき、夜も必要になってきますんで、日が陰ってからまきに来たりだとか、これも天候だとかいろんな条件によってしょっちゅう変わるもんですから、本当に『きのこの顔色を見ながら』変えていくんです」

美しく形のいい「白いきくらげ」を育てるためには、湿度、室温、二酸化炭素の濃度など細かく面倒をみてあげないといけないという。

 午後はパック詰め、これも手作業だ。

中田さん:
「(息子さんに)ちょっとこれ、黄色っぽいんで外してくれる?」

中田さんは何かを確認していた。

中田さん:
「ちょっとここが黄色っぽいんで(外した)。これを見ると、なんか傷んだようにお客さんが見ちゃうんで、できるだけ白くてきれいなやつで揃えているんですよね」

■前職はディズニーランドの植栽担当 植物のプロだからこそ「難しさに『腕が鳴る』」

 多くの手間暇をかけて届ける「白いきくらげ」。中田さんはなぜ栽培しようと思ったのか。

中田さん:
「いままでずっと『松きのこ』を栽培してまして、夏場の暑いときに松きのこの収穫量がグッと減ってしまうもんですから、それに代わるきのこがないかなって事で探してたところ、きくらげは高温に強いきのこだっていうふうに聞いたもんですから、去年(2021年)試験的に栽培してみて、これだったらいけるなってことで」

 中田さんがきのこ栽培を始めたのは2017年。松茸の形で椎茸の味、という特徴を持つ「松きのこ」の栽培を始めた。

ただ夏場は気温が合わず、松きのこがうまく育たない。そこで夏に栽培できるきのこを探していたところ、出会ったのがこの「白いきくらげ」だったという。

中田さん:
「もともとは農業関係の大学を出ているものですから、『東京ディズニーランド』のパークの中の植栽の病害虫駆除を私が担当していたんです」

中田さんは、東京ディズニーランドの植栽に関わる仕事をしていた、植物や菌類のプロだった。それゆえ、難しい品種であればあるほど「腕が鳴る」という。

中田さん:
「もう少し安定的な栽培ができるように、品質を向上するように、いろいろ試行錯誤しながら栽培を続けていきたいと思っています。ただ栽培するだけでなくて、消費者の方に食べ方とかそういったものをご紹介していきたいと思っています。たとえば、パティシエの方だとか料理人の方なんかにも、このきのこの魅力をわかっていただいて、いろんな使い方を考えていただきたいなと思っています」