愛知県長久手市のジブリパークは、11月1日にオープンします。ジブリこだわりの世界を支えている「職人技」を取材した。

■形も色もオリジナル…「大倉庫」のタイル託されたスゴ腕職人

 11月1日にいよいよオープンする愛知県長久手市の「ジブリパーク」。等身大スケールの湯婆婆や…。

【動画で見る】トトロのツメから仕掛け満載のタイルまで…こだわりの世界を支える“職人のワザ”

ネコバスと遊べる「ネコバスルーム」。

リアルに再現されたロボット兵も!

カラフルな建物がずらりと並ぶのは、メインエリア『ジブリの大倉庫』。

そこでひときわ目を引くのが、色鮮やかなタイルが張り巡らされた階段だ。

この階段には、日本を代表する職人の技が隠されていた。

東京を拠点に活動するタイル職人・白石普(しらいし・あまね 51)さん。ジブリの大倉庫のタイル装飾の大部分を担った“スゴ腕”職人だ。

白石普さん:
「この辺が色見本ですね。『イメージは熱帯植物園のようになる』と聞いたので、パンチのきいた色をといって…」

 2021年10月から愛知県に住み込みで作業を始めた白石さん。タイルの形や色も全てジブリパークのために考えたオリジナルだ。

用意したタイルは144色。

20万枚ものタイルを、仲間の職人と1枚1枚手作業で張り付けたという。

白石さん:
「愛知県は焼き物の産地で、主に瀬戸市で場所借りて。張っていると同時に作って、現場と工場と行ったり来たりしながら、作って張って、作って張って…。これは東京では実現できなかったですね、窯元がないので。愛知県だからできた作品でしょうね」

■宮崎監督がボソッと「タイルを使って」…散りばめられた隠れた仕掛けも

 父は陶芸家、母は画家という芸術一家に生まれた白石さん。タイルの魅力に見せられ、25歳の時に世界有数のタイルの産地モロッコで単身修行。

タイルのデザインから張り付けまで全て1人で行える、日本で唯一のタイル職人だ。

独創的なデザインで、絵画のような美しさを放つ白石さんの作品。

そんな「スゴ腕職人」が、ジブリパークのメインエリアを任されることになった経緯があった。

白石さん:
「三鷹の森ジブリ美術館ができて、あそこはタイルあまり使っていないんですよね。どうも打ち合わせを聞いていて、(宮崎)吾朗さんが愛知県ということもあるし、焼き物の産地じゃないですか。『タイルを使ってみたかった』と打ち合わせのときにボソッと言われたことがあって…。印象的だったのは、タイルのサンプル持っていって30分~1時間、喋っている間、タイルをずっと触ってるんです」

 瀬戸や多治見など日本有数の陶磁器の産地に囲まれた長久手市で、タイルを目玉にしたいと考えていた宮崎吾朗監督。

しかし、そこは「こだわり」のジブリ。大手のメーカーではなかなか話がまとまらず、白石さんに白羽の矢が立った。

白石さん:
「スタジオジブリという日本の最強のコンテンツが作るので、自分がどうこうより、最終的にはそのメインにタイルを選んだっていう、タイルを選んでくれたことが嬉しくて」

 白石さんは、タイルである仕掛けを作っていた。

白石さん:
「あちこちに隠れキャラだったり、文字が隠れていたり、形で何かが隠してあったり…」

作業風景を映した一枚の写真。よく見てみると、タイルで、「ある漢字」が描かれているのがわかる。

ほかにも、「マックロクロスケ」や…。

風の谷のナウシカの「王蟲(オーム)」も隠れている。

白石さん:
「本当はタイルだけで1日見てもらいたいくらい。触ってもらいたいのと、あとは色がきれいなので、今までに見たことないタイルの色っていうか、焼き物の色の魅力を感じてもらえたら。『タイル職人って職業は面白いかもしれない』って子供が思ってくれたら最高ですね」

■微妙に違う“トトロ”のツメとヒゲには海外でも高評価の匠の技

 東海地方ならではの、意外な職人の活躍もあった。刃物の街、岐阜県関市で長年修業を積んだ、淺野太郎(あさの・たろう 46)さん。

この道25年、日本刀の技術を生かした作品が海外でも高い評価を得る刀鍛冶だ。

ジブリには、刀や刃物が登場する名作がたくさんあるが、ジブリパークで淺野さんが手がけたのは意外なキャラクターだった。

淺野さん:
「子供の頃の自分に言ってあげたいですね。『いつかトトロのツメを作る日がくるよ』って」

淺野さんが手がけたのは、どんどこ森エリアに立つトトロをイメージしたオブジェ「どんどこ堂」。

作ったのは鋭いツメと…。

ヒゲだ。

淺野さん:
「鉄工所に出してもできる仕事でもあるんですが、そうではなく『ちゃんとした本物にしたい』ということをすごく仰っていました。そういった言葉に感銘受けて、本気で作らせていただきました」

細部まで職人の手による「本物」にこだわるジブリの思いに共感。「となりのトトロ」の映画を見直し、イメージを膨らませていったという。

淺野さん:
「トトロのツメって結構鋭いんですよ。なんですけど、映画の中で子供と触れあったりしても子供が傷付けられることは無かったです。なので、鋭いんですけど人を傷つけないような印象を与えるように心掛けました」

しかし、製作は一筋縄ではいかなかったようだ。

淺野さん:
「失敗作をお見せしますから…。本当に試作をたくさん作って、こういうふうに失敗作が結構生まれているんですよ。これもツメを作ったんですけど、このツメだとあまりにも重すぎるのと迫力がありすぎるので、もうちょっと薄いもので丸みを帯びたものにしようということで…」

使用する金属の材質、長さ、厚みなどを変えて何度も試行錯誤。そして、約2か月の製作期間を経て完成したのが、6本のツメと12本のヒゲだ。

長さはツメが40センチ、ヒゲが30センチ。ゴツゴツとした表面に力強さを感じる見た目。全て手作りの為、1本1本の角度や鋭さも微妙に違っている。

淺野さん:
「正確すぎるとかえって味気ないんですよ。多少の“ズレ”っていうものは活かしていきたいと考えました。ツメも真ん中と上下で全部角度が違うので、実際に施工した時に子供たちが下から見上げた時に、一番きれいに見えるようにということで、そこは意識しました」

様々な職人の思いが形になった「ジブリパーク」。

細かく見れば、あっと驚く発見がありそうだ。

淺野さん:
「ジブリパーク全体は多くの職人さんが関わって手で作り上げたものなので、そういったことを感じていただけるとよりジブリの世界を楽しめるようになるんじゃないのかなと思っています。本当に素晴らしい職人さんたちがいろんなところに手を使って作っているので、ぜひそういった細かいところも注目して見てあげてください」