秋は修学旅行のシーズンでもある。定番の修学旅行先はやはり京都・奈良などだが、新型コロナの影響で旅行先が大きく変わり、三重県の伊勢志摩が急増していた。その理由や直面する新たな課題を取材した。

■コロナが追い風に…近場で自然体験ができる伊勢志摩に修学旅行生が集まる

“伊勢”の名所観光に…食べ歩き。

【動画で見る】コロナ禍前後で“伸び率全国2位”も…『伊勢志摩』に早くも変化 特需を定着にするカギ

“志摩”の絶叫アトラクション。

満喫するのは豊橋市立東陵中学3年の生徒たち、2泊3日の「修学旅行」だ。

男子中学生:
「コロナウイルスとかで行事とか縮小したり無くなったり。こうして2泊3日で修学旅行に行けるのが、すごく嬉しいっす」

女子中学生:
「(高校は)学校変わっちゃうから最後に楽しみたいな。(修学旅行先が三重で)最初は『えっ』て思ったけど楽しめたんで」

生徒らの中学校があるのは愛知県豊橋市。例年は関東方面に行っていたが、2022年は初めて「伊勢志摩」にバスで訪れた。

理由は、この地域ならではの条件と新型コロナにあった。

東陵中学校の教師:
「(コロナの影響で)野外活動っていうものができなかったものですから、(探したのは)自然体験も兼ねながらも、学年全体で泊まれる地域」

伊勢志摩の観光振興の団体で、修学旅行の誘致を担当する谷川槙菜(たにがわ・まな 27)さん。

伊勢志摩観光コンベンション機構の谷川槙菜さん:
「(伊勢志摩には)旅館やホテルがいっぱいありまして、もともと伊勢志摩って学生団体受け入れの経験が豊富なところでして、急に増えたコロナ禍での需要にも対応できたというかたちになります」

実は新型コロナで、ある“追い風”が吹いたという。

谷川さん:
「コロナ禍では、一般の団体のお客様っていうのが本当に少なくなってしまっとったんです。そんな中で唯一来てくれとったのが修学旅行っていう事もありまして、一言で言うと“救世主”のような…」

■2021年はコロナ前の2.7倍に…魅力は「密を回避できる自然体験」

 2021年、伊勢志摩地域を訪れた修学旅行生は約10万7000人と、コロナ前の2.7倍に。

修学旅行先の定番だった京都・奈良・東京が感染拡大の影響で激減。東京は44位まで落ちた。これに対し、コロナ前に30位だった三重は7位まで上昇。伸び率は全国2位だった。

背景にあるのが、密を回避できる自然体験だ。

また、万が一体調不良になってもすぐに保護者が迎えに来られることから、県内や愛知、大阪などを中心に訪れる学校が急増。

豊橋市の中学校もこうした理由から伊勢志摩へと行き先を変更した。

■コロナ禍が過ぎれば…2022年は修学旅行生が3万人近く減少の見込み

 2022年4月、伊勢市役所から出向した谷川さん。

修学旅行の誘致のため、近隣だけでなく岩手県や香川県など遠方の旅行会社にも出向いていたが、ちょうどこのころ、風向きの変化を感じたという。

谷川さん:
「修学旅行が、去年(2021年)、一昨年(2020年)、同じように県内に向くかというと、そうではないのかなっていうところで、(行き先が)元に戻っていくのかなというところですね」

谷川さんが訪れたのは、志摩市にある「パール美樹」。

真珠の取り出し体験やアクセサリー作りが修学旅行生に人気の施設で、2021年は50校以上が訪れた。

パール美樹の担当者:
「去年(2021年)の売上帳なんやけどな。11月、これ全部学校。キャンセルは、3月130人、4月470人、ここらへんから修学旅行はキャンセルになったんですね」

伊勢志摩を訪れる修学旅行生は、2022年は8万人ほどと、3万人近く減少する見込みだ。この施設でも、この秋の受け入れ予定はわずか数校になっている。

しかし体験のための貝は生き物。準備には最低でも半年必要で、2022年は無駄が出てしまう。

パール美樹の担当者:
「これは死にかけですよ、死んどる。貝が腐りますからね、真珠はすぐに取り出さないとダメになります」

谷川さん:
「学生さんが少なくなってくることで、パール美樹さんとしてもうちょっと増えてほしいなとか、そういったところって…」

パール美樹の担当者:
「収入が消えていったで…。この修学旅行、いきなりやめていったでしょ。準備が大変ですよ」

谷川さん:
「近隣県の旅行会社さんにも回っとったんですけど『元のところ(修学旅行先)に戻るよ』っていう声は聞いているので、『伊勢志摩でしかできやん』というところを体験してもらえることが大事かなと思います」

■“特需”では終わらせない…キーワードは「SDGs」

「特需」で終わらせず、修学旅行先に定着するためには…。そのヒントが、シーカヤック体験などを提供している、「志摩自然学校」にあった。

「志摩自然学校」に勤める、浦中秀人(うらなか・ひでと 58)さん。

志摩自然学校の浦中秀人さん:
「SDGsって人の生き方とか、ライフスタイル、価値観とかを変えていかないと達成できない目標が多いと思うんですけど、SDGsをやんなきゃと考えている先生もたくさんみえるので、そういう先生にあたるとかなりレスポンスが良い」

浦中さんは2021年3月まで志摩市役所に勤めていて、漁業資源の保護や管理などで「SDGs」の推進に携わっていた。

しかし、修学旅行生が増えたのを機に、その理念を子供たちへ直接伝えたいと一念発起して転職した。

浦中さん:
「シーカヤック乗って楽しかったと思うけど、『何か気が付かなかったですか?』『ゴミ気付かなかった?』『人と自然の共生がいつまでも続くようにどうすればいいか、海の環境にもうちょっと興味を持ってくれると嬉しいです』っていう話をしていますね」

2017年度までに改訂された学習指導要領でも、生徒を“持続可能な社会の創り手”に育てることが理念に追加。SDGsが学べるとあって、この自然学校には修学旅行以外にも課外学習で訪れる学校も増え始めているという。

カギとなるのはSDGs。谷川さんたちは伊勢志摩の事業者を対象に、専門家による勉強会を開いた。

SDGsの講師:
「学生団体旅行に求められることは、キラキラした観光地ではなく地域課題であるということです」

さらに、谷川さんは講師とともにパール美樹を訪れた。SDGsの伝え方を教えるためだ。

SDGsの講師:
「どうやったら真珠ができて、海の恵みがあって…、というのを一連背景としてお話されますよね?」

パール美樹の担当者:
「全部しますね」

SDGsの講師:
「真珠で作ったもの(アクセサリー)をお母さんにプレゼントするとともに、SDGsなんだよということも教えてあげてねと」

パール美樹の担当者:
「あぁ、そうか」

SDGsの講師:
「こんなにいいことやっているのであれば、きちんと伝えてあげると、さらにリピート率もあがってくると…」

実は既にやっていた取り組みの中に「SDGs」があった。

真珠を取り出した後の貝の肉を、魚のエサにする体験。

パール美樹の担当者:
「これ、喜ぶんですよ、修学旅行生これ一番喜ぶ、これSDGsの『海を守る』」

パール美樹の担当者:
「青い魚はね、沖縄の方にたくさんおるんと違うんかな。水温が高いでしょう。きれいな魚は温暖化(の影響)ですね」

パール美樹の担当者:
「自分が勉強になりました、SDGsそのものが。先生(SDGsの講師)に聞いてあんまりわからんかったのが、すごくよくわかって、そうすると人に伝えやすいんですよ」

遊びの中に「学び」を加え、生徒、そして学校にとって魅力ある場所に。伊勢志摩にしかない「SDGs」で、“持続可能な修学旅行”を目指す。

谷川さん:
「伊勢志摩のSDGsを体験できるメニューっていうのを集めて資料を作って、情報発信という形でみんなに知ってもらいたいなという活動をしています。楽しい思い出を作ってもらって、大きくなってからもまた伊勢志摩に来ていただけたらなと思います」

2022年10月7日放送