愛知県一宮市の鋳物メーカーが作った調理用の鉄板「ニクイタ」が注目を集めている。炭火で焼いたように外はカリっと、中はジューシーに肉が焼き上がるというこのテッパンには、培ってきた高度なノウハウが詰まっている。

■使ってみた人も絶賛…工作機械の部品を作る工場が手がけた肉を焼くプレート「ニクイタ」

 名古屋市西区の庄内緑地公園は週末、キャンプやバーベキューを楽しむ家族連れなどで賑わう。

【このニュースを動画で見る】

そのバーベキューで活躍する鉄板が、「ニクイタ」だ。

バーベキューをしていた人たちに、試しに肉を焼いてもらった。

男性:
「(グリルの上に)直接乗せていいんですか?」

女性:
「めちゃおいしそうじゃん」

別の女性:
「表面がしっかりすぐ焼けるから、中に旨みがギュッとする感じ」

また別の女性:
「バーベキューって焦げがちなんですけど、ほどよく(焼ける)」

男性:
「外はカリカリで中はジューシーで、よく火が通っておいしいと思います」

この「ニクイタ」を製作したのは、モノづくり王国・愛知の鋳物メーカーだ。

愛知県一宮市の、のどかな田園風景の中に、浅井鋳造所(あさいちゅうぞうじょ)。

創業は昭和20年(1945年)頃で、繊維産業が盛んだった一宮で、織物を作る機械などを手掛けていた。

現在は3代目の浅井敬司(あさい・けいじ)さんを中心に、自動車などの工作機械の部品を作っている。

「浅井鋳造所」が長年培ってきた技術を活かして作り出したのが「ニクイタ」だ。

持ってみるとずっしりと重く、見た目は、ただの鉄板のようにしか見えない。

浅井さん:
「パッと見はそうなんですが、中身には弊社が培った高度な技術が、実はこの鋳物には入っています。ノウハウと経験のかたまりです」

「ニクイタ」は高耐熱性の鋳物焼肉プレートで、厚さ5ミリ、重さ約1キロという金属の板だ。

一般的な鉄板よりも熱が伝わりやすく、肉が炭火で焼いたように外はサクっと香ばしく、中がジューシーに焼き上がるという。

■カットする工程は「企業秘密」…フライパンより炭素多く含み“炭火焼きさながら”のおいしさに

 工場で、「ニクイタ」の製造工程を見せてもらった。

浅井さん:
「こちらは溶かす材料のヤード(置き場)でして、銑鉄(せんてつ)というもので、原料の一部です。1つ6~7キロあるんじゃないですかね。ぱっと見チョコレートみたいですけど」

原料の銑鉄(せんてつ)に加え、数種類の金属を溶鉱炉に入れ、1500度の高温で溶かす。材料の配合や、入れるタイミングなどで重要なのは、経験だ。

浅井さん:
「コンピューターで今は凝固解析とかやるんですけど、それよりは長年の経験でかなりいいものができます」

出来上がりの良し悪しを決めるのは、“長年の経験”だと浅井さんは言い切る。少しでもタイミングを間違うと、気泡が入ったり、強度不足となり使いものにならないという。

浅井さん:
「(いい状態のものは)ものすごくきれいです。光もきちんと反射して表面に何も出ない、赤い鏡みたいな感じになるんです」

溶けたところで専用の型に流し込み、固めていく。

会社の名前にも付いている「鋳造」とは、鉄などの材料を熱して液体にしたものを型に流し込み、冷やして固める加工方法で、身近なものではマンホールの蓋やタイヤのホイール、フライパンなどがある。

冷えて固まった後、型から出した段階の「ニクイタ」は、まだ四角い金属の塊だ。

浅井さん:
「これを、食パンのようにスライスしてニクイタは作っています」

塊を切る工程を見せてもらおうとしたが、それは企業秘密。浅井鋳造所独自の技術で5ミリにカットするが、この厚さにすることで、熱の伝導率が抜群になるという。

浅井さん:
「(ニクイタには)炭素が3.5%入っています。普通のフライパンは0.3%。実はこの炭素が、とてもいい効果を出しています。炭素はイコール炭ですから、お肉を焼いたときに炭で焼いたような焼き上がりになるのが特徴になります」

炭素の含有量が多いため、炭火焼きさながらの美味しさが再現できるという。

縞模様の凹凸を設けたことで、焦げ付きやべた付きも少なくした。

■妻のオススメは「食パン」… 中の水分を逃がさす“カリッふわっ”のトーストに

 浅井さんの妻・衣子(きぬこ)さんに「ニクイタ」の使い方を教えてもらった。

浅井さんの妻・衣子(きぬこ)さん:
「そのまま油も引かずに肉を乗せていきます。」

表面の凸凹が肉のくっつきを防いでくれるので、油は必要ない。

衣子さん:
「外がカリっとして、ドリップが少ないと思います」

素早く焼きあがり表面がコーティングされることで、肉汁が中にギュッと閉じ込められる。

魚もおいしく焼くことができ、皮はこんがりパリパリ、身はホクホクジューシーに仕上がる。

衣子さんが勧めてくれたのが、食パンだ。

衣子さん:
「外はカリカリで、中はふわふわです。水分が閉じこもって、中がふわっとしておいしいです」

炭火焼きの遠赤外線効果で、水分を逃がさす香ばしく焼き上げるので、“カリッふわっ”としたトーストが焼き上がるという。

「ニクイタ」で焼いた食パンをバーベキューをしていた人たちに味見してもらったところ、好評だった。

男性:
「モチモチ、パリパリモチモチです、すごい、おいしそう」
「うん、これうまい音、サクサク」

女性:
「めっちゃおいしいです。サクサクでモチモチ、焼きたてのパンみたい。ガスコンロで使えるってことですか?」

「ニクイタ」はガスコンロにそのまま置くこともできるし、IHでも使うことができる。

女性:
「へぇすごい。取り扱いが楽なら欲しい」

■縁の下の力持ちの「鋳物」をもっと目で見える形に 3代目がニクイタに託した思い

 工作機械の部品を造る会社で、浅井さんはなぜ「ニクイタ」を開発したのか。

浅井さん:
「車の中にもいっぱい鋳物(いもの)が使われているんですけど、カバーで囲われていたり…。工作機械も見えないようにされちゃっているんですね。鋳物のままというのが作りたくて」

浅井さんの祖父が創業した浅井鋳造所は長年、紡績工場で使う機械などを製造していた。3代目の浅井さんからは、自動車や工作機械の部品も手掛けている。

日々の仕事にやりがいを感じつつも、いつか会社の看板となるような商品を作りたいと考えていたという。

コロナ禍でバーベキューやアウトドアの関心が高まる中、ある社員が「肉がおいしく焼ける鉄板がない」と口にしたことが、開発のきっかけになった。

1年ほどかけて材料や耐熱性、板の厚みなど試行錯誤を重ね、高耐熱性の鋳物焼肉プレートを開発。

肉が美味しく焼けることから、シンプルに「ニクイタ」と命名した。

浅井さん:
「とっても自信がある製品になっています。今まで誰もやってこなかった製法と発想でできた製品なので、使っていて悪い所がないと思います。ただ売るのが下手。自信もって『これいいよ』と言えないという…。モノを作っている人は、どっちかというとそうじゃないですかね。作ることを一生懸命やって、あとは売れてくれればいいな」

製品には絶対の自信があるものの、アピールは苦手。何とか「ニクイタ」の良さを多くの人に知ってもらいたいと2022年4月、工場近くに直売所を作り、使い方などのワークショップも始めた。

大きさや形などが異なる10種類を販売していて、価格は3500円からだ。浅井鋳造所のウェブサイトでも買うことができる。

浅井さん:
「鋳物は産業の一番もとになるところなので、新しい製品が生まれてくるための下支えというのはずっとメインで続けたい。これからは、普通の生活の中で鋳物製品が目で見える形でもう少しできればいいな。作っている方も、笑顔になれるようなそういうものづくりがしたい」