「PTAに入らない人」が増えてきている。誰もが入って係を担当しなければといったイメージが強いPTAだが、変化のときを迎えているようだ。

■「PTAいじめ」に耐えかね… 増える「PTAの退会者」

 理不尽な役員決めなど、昔から続くスタイルに苦しむ人も少なくない「PTA」。「やめてしまおう」と思ったことはないのか、名古屋の街で経験者に聞いてみた。

【動画で見る】増える退会者…PTAは本来“入退会自由” 独自アンケートで判明した“地殻変動” 専門家「今まで通りは通用しない」

PTA経験者の女性:
「絶対入らないといけないってみんなから言われる。圧がすごかったですね、学校からの圧もそうでしたし…」

別のPTA経験者の女性:
「子供がいるから、一回はやっておかないと…」

PTAには「誰もが必ず入るもの」という印象が強く、「やめる」という発想自体なかったという人ばかりだった。しかし今、あまりの辛さに「PTAをやめる」決断をする人も出てきている。

PTAを退会した伊藤恵さん(仮名):
「これから先も、同じように病気のことを説明しなくちゃいけない、家庭の事情を説明しなくちゃいけない、(役員を)『免除』してもらいたいと伝えなくちゃいけないのが本当に苦痛だったので。退会したあとの不安よりも、いまの不安のほうが勝っていたので、それで退会しました」

 愛知県で働きながら、3人の子供を育てる伊藤恵さん(仮名)。くじ引きで小学校のPTAの役員に選ばれたが、持病もあって活動に参加できないことが続くと、他の保護者から病気の説明を求められる「いじめ」のような状態になったという。そして、PTA自体から退会することを決めた。

伊藤さん:
「『みんなも事情持っているのに、一人だけ病気を理由にして(活動を)やめるのは違うんじゃない?』みたいなことを言われて。PTA自体に私はもう不信感しかないので、全国的にPTAは解散したほうがいいと思っています」

こうしたPTAの退会者は増えつつある。

<SNSの投稿>
「ようやく完全にPTA退会できました」
「通帳みたらPTA会費引き落とされてなかった」

SNSに投稿された「PTAやめた」の報告。

ネットでPTAへの不満が共有されるとともに、「入らなくてもいい」「やめられる」ことが知られるようになってきた。

■運営者「選択肢として持っておくといい」…退会方法を指南するサイトも

リポート:
「こちらは、『PTA退会マニュアル』と名前がついたサイトです。『悩んでいる人へ、退会は難しくない』と書かれています。引き止められたときの、想定問答集のような記事もあります」

インターネットにはPTAの退会方法を指南するサイトまであった。「退会届に理由は書かなくていい」「子供への不利益があれば教育委員会に相談」など、具体的なアドバイスが並んでいる。

取材を申し込むと、運営していたのは元PTA会長という男性だった。まわりのPTA関係者が、退会した保護者の子供を差別しようとするのに嫌気がし、退会希望者をサポートする活動を始めたという。

「PTA退会マニュアル」を運営する「やっぱ」さん:
「(差別の例としては)退会すると卒業記念品が子供には渡せないとか、あるいは登校班に加えないとかですね。PTAから圧力を受けているとかそういう方がたくさんいるので、自分の体験が少しでも役に立てばというところです。強制で『やめろ』『退会しなさい』とは言いませんけど、選択肢として持っておくといいと思う」

PTAは結成や加入に法律などの根拠はない、親たちの任意の団体で、本来は「入退会自由」だ。

ところが実態は大きく異なり、子供の入学と同時に全ての人が自動的・強制的に入るといった状態が続いている。

しかし、そのやり方にも限界が来ているようだ。

■独自アンケート“加入率100%”ほぼ半数 専門家「意思確認しないなら許されない」

 ニュースONEでは2022年12月までに東海3県の県庁所在地、名古屋市、岐阜市、津市の市立小中学校合わせて500あまりのPTA会長に宛てて、活動や運営の状況を尋ねるアンケートを送り、約4割のPTAから協力を得ることができた。

保護者の加入率について聞いたところ、「100%が加入している」とするPTAが47.2%と、依然多く存在していることがわかる。

一方「“ほぼ”100%が加入」など、少数の非会員がいることを示す回答は35.2%。約1割やそれ以上の非会員がいると答えるPTAも9.3%あるなど、全員加入の前提が崩れつつあることも浮き彫りとなった。

PTAの問題に詳しい文化学園大学の加藤薫教授に、話を聞いた。

文化学園大学の加藤薫教授:
「一人一人の選択の結果、100%となったということなら良いですが、有無を言わさず意思確認をしないで『うちの学校の保護者は全員会員です』とやってしまって100%の参加率になっているのは、許されないことだと思っています」

加藤教授は調査結果について、ここ数年のPTAの急激な変化をとらえたものだと指摘する。

加藤教授:
「今まで100%の加入が70%になるというのは、現に日本のいろんなところで起こっています。70%までいったら、それが50%になるというのも本当にすぐ起こるかもしれない。本当に地殻変動が起こっているので、今まで通りのやり方は到底通用しなくなるかなと」

■“入退会自由”にするとどうなるのか…意思確認したPTAで起きたこと

 PTA側も変化を迫られている。名古屋市立の小中学校のPTAでつくる団体「名古屋市立小中学校PTA協議会」は2023年1月、PTA運営ガイドライン『これからのなごやのPTA』を作成した。

「入会申込書」や「退会届」のひな型も盛り込み、自動的・強制的な加入をやめるよう促す内容で、「入退会自由を前提に、入りたくなるような活動を」と呼びかけている。

名古屋市立小中学校PTA協議会の高橋功会長:
「『強制感を持ってやらされてしまった』みたいな思いをもっている方の声が、やっぱり数多く聞こえてくるような時代になった。任意加入の団体であることは事実なので、それを隠すことはしない。『任意加入の団体なんだけれども、だけど一緒にやろうよ』と、(各PTAの役員には)そういう持っていき方をしてほしい」

PTAを「入退会自由」にするとどうなるのか。

アンケートへの回答の中で最も低い加入率だったのが、名古屋市緑区の大清水小学校PTA。これまでは「ほぼ100%」の加入が続いていたが、2022年の春、全ての保護者を対象に入会意思の確認をしたところ、加入率は一気に65%に低下。「加入しなくても一切不利益はない」としたため、保護者の約3分の1がPTAに入らない判断をした。

「入退会自由」を巡っては、他のPTAからも「加入率が低下し、PTAが成り立たなくなるのでは」などと心配する役員の声がアンケートで数多く寄せられている。

■“強制なし”で加入率9割 問われる「PTAの価値」

 そんな中、「入退会自由」をいち早く掲げ、活動を工夫しているPTAがあった。名古屋市昭和区の吹上小学校のPTAだ。現在の加入率は約9割だという。

吹上小PTAの高橋正敏会長:
「(加入率は)ここ2~3年は少し下がり気味なんですけど、任意加入だから下がったのかコロナで活動できてないから下がったのかっていうのが、ちょっとわからない」

申込書を使った入会の意思確認は5年前から始めた。

全員加入を前提とした活動は続けられないと、前後して導入したのが、強制的な役員決めを廃止し活動ごとに参加希望を募る「エントリー制」だ。

吹上小も参加していた、PTAが親子で楽しめるブースを出す週末のイベント。以前はPTA役員になってしまった人を無理やり「動員」するような雰囲気もあったというが、今は強制は一切ない。メールで会員全体に参加を呼びかけて、集まった人だけで効率よく活動している。

吹上小PTAの副会長:
「昔、(役員選出が親同士の)投票制だったときも知っていて、その後エントリー制に変わってからも見ていて、この状態をずっとこのまま続けられたらいいよねと思っているので、そういうので手を挙げてくれる人がいるんじゃないかなという気がします」

やりたい人がやりたいことをやり、人が集まらない活動はやめると割り切るのがエントリー制のスタイルだ。いったん入会したあと退会届を出した人も数人いるが、全員参加でなくても困ることはないという。

吹上小PTAの高橋会長:
「大体きょうび、忙しい人ばかりで、暇な人なんてどこにもいないので、『こんな活動やってる場合じゃないのに』と言われてしまうと、逆にPTAの価値が下がってしまうんじゃないかと思います。任意加入の団体で、やっていることも強制されてやることではない。だから、アピールの仕方で入会率はだいぶ変わると思うんですけど、7割入っていれば合格なんじゃないのくらいに思っています。今はそれを十分上回っているので、みなさんとても理解して入会して協力してくれてありがたいなと思っています」

■アンケートでわかった「入会の意思確認」や「退会届」等の有無

 ニュースONEが行ったアンケートでは、PTA入会の意思確認をどうしているかも聞いた。PTAが入退会自由=任意加入の団体であることを広く知らせていると答えたPTAは、55.4%だった。ただ「周知の徹底が課題」とコメントするPTAもあり、方法についてはバラツキがありそうだ。

具体的な手続きについて、「入会届」や「退会届」の有無も尋ねたところ、「入会届あり」は22.3%だったが、このなかには会費の納入手続きを入会の申込みとみなすところも含まれているとみられる。

「退会届」を用意していると答えたPTAは7.8%に留まった。

東海テレビ「かわるPTA」で取材を続けています。pta@tw.tokai-tv.co.jpまでご意見・情報をお寄せください。

2023年1月24日放送