「ホスピス」というと、一般的には終末期ケアの場だ。しかし、命の危険がある病気などの子供や家族を受け入れる「こどもホスピス」は、そこで遊んで過ごす時間を楽しみ、これからの闘病などに向けた活力を養うための場。日本にはまだ関東と関西に合わせて4か所しかないこの「こどもホスピス」を愛知にもつくろうという動きが始まっている。

■白血病で亡くなった娘 闘病中の「ちょっとした遊び」が気持ちを前向きに

 愛知県江南市に住む、安藤晃子(あんどう・あきこ)さん(45)。

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2021年5月、娘の佐知(さち)ちゃんを急性リンパ性白血病で亡くした。

安藤晃子さん:
「常に元気で活発で、『私がやる』みたいな、そういうタイプです」

娘の佐知ちゃん(2018年2月):
「次は星を作ります」

病院のベッドの上で、楽しそうにクッキーの型抜きをする、当時6歳の佐知ちゃん。

幼稚園の卒園間近だった2018年1月に、白血病がわかった。

楽しみにしていた卒園式は、リモートに。

2度の入院と骨髄移植を乗り越え、ようやく地元の小学校へ通えるようになったのは、2年生の9月だった。

安藤さん:
「ずっと髪は脱毛していたんですけど、本人は全然それを恥ずかしいとかそういうのは全くなく、堂々と帽子をかぶって、お友達も本当に普通に受け入れてくれて。できないことを手伝ってくれたり、すごく地元の学校も楽しく過ごせていました。ずっとこの生活が続くんだろうな、と信じていた」

佐知ちゃんの将来の夢は、医師になって子供たちを治してあげること。

しかし、退院から僅か5か月後の2020年1月に、骨髄移植の合併症で3度目の入院に。

さらにその年の9月、医師から白血病の再発を告げられた。

安藤さん:
「しばらく2人で泣いたんですけど、その時に佐知の方から『ママもう1回一緒に頑張ろう』って言ってくれて。頑張るのは本当は私じゃなくて痛い思いをするのは本人なんですけど、そうやって励ましてくれて、私が励まされて」

痛い検査に、辛い治療。幼い佐知ちゃんは懸命に耐えたが2021年5月、わずか9歳で旅立った。

安藤さん:
「最後の8日間は、本当に家族、そこで、ベッドをそこにおいて、川の字でみんなで寝て」

安藤さん:
「普段元気だったら言ってなかったんですけど、『ママとパパのところに生まれてきてくれてありがとう、世界で一番大好きだよ』って。亡くなる前日に、声が出なくて口パクだったんですけど、『大好き』って言ってくれて、それが最後の言葉で。翌日の朝、本当に眠るように…」

3年半にわたった闘病生活だが、時にはベッドの上でスライムづくりをしてみたり、病室を出てシャボン玉をしてみたり。

その時にできるちょっとした遊びが佐知ちゃんを笑顔にし、前向きな気持ちをもたらしていた。

それは同時に、安藤さんたち家族の心も明るくしていた。

安藤さん:
「やっぱり子供って、『遊ぶことは生きること』っていう風に思うんです。病院以外の場所で、安心して遊べるところがあるといいなっていうのはずっと思っていて、こどもホスピスを知ってこんなに楽しい場所があるんだって思ったんです。ぜひつくりたいというふうに思いました」

佐知ちゃんが亡くなった後に存在を知り、これから必要だと感じたのが、「こどもホスピス」だった。

■「庭に雪を降らせたい」…重い病を持つ子供たちの願いを叶える“もう一つの家”「こどもホスピス」

 大阪市鶴見区に、2016年にできた「TSURUMIこどもホスピス」。

中は明るく広々とした空間だ。

遊び道具もたくさんある。

TSURUMIこどもホスピスの担当者:
「子供が楽しいのはもちろんですし、家族全員が『行きたい』って思ってもらえる場所にどうなったらなれるかっていうのは、いつも考えていますね」

こどもホスピスは、名称に「ホスピス」と付いているが、終末期の施設ではない。

命の危険がある重い病や障害の子供とその家族が、大切な「いま」という時を楽しみ、より深く生きるための「もう1つの家」だ。数時間単位で利用でき、週末には宿泊も可能。子供も家族もここでリフレッシュして、これからの闘病などに向けて活力を養う。スタッフは子供と友達として接し、やってみたいということを可能な限り実現するという。

担当者:
「『何したい』っていうのを結構聞くんですよね。庭に雪が降ったら嬉しいみたいな子もいて、それは結構お金もかかるので、すぐには叶えられなかったんですけど、今では一応年に1回はお庭に雪を降らすことができたりしています」

 循環器系の疾患で、大きな手術もした4歳の川瀬遥大(かわせ・はるき)君は、ここを2年ほど前から利用している。

母の賀都美(かづみ)さん:
「楽しみすぎて6時半に目が覚めた」

TSURUMIこどもホスピスのスタッフ:
「はるくん、めっちゃ早起きやん、今日」

賀都美さん:
「昨日11時に寝たのに。楽しみすぎて寝られなくて」

月に1度ほど、ここへ来るのを楽しみにしている。

賀都美さん:
「やっぱり、子供が一番楽しんでいる姿を見ているっていうのが、一番心が軽くなるというか、母親としては嬉しい気持ちになります。担当医から言われた一言とかを(こどもホスピスの)看護師さんにお話ししたりとか、育児のことでちょっと気になることを保育士さんにお話ししたりとかっていう、ちょっとした相談ができるというのはすごく心強いなと思っていつも来ています」

TSURUMIこどもホスピスの運営には、看護師や理学療法士、保育士などが常駐するほか、地域のボランティアも含め約30人が携わっている。

2022年度は12月までに80世帯以上が利用しているが、料金は無料。

それを可能にしているのは、個人や企業からの寄付だ。

TSURUMIこどもホスピスの副理事長:
「運営経費として全体で毎年6~7000万円という、そういうところですね。ほぼ全てが一般からの寄付ですね。1万円とか5000円とか10万円とか。温かいご支援から成り立っている」

行政からの補助金に頼らないからこそ、利用者ファーストの柔軟な運営が可能になっているという。例えば風呂は、利用者になる子供へのヒアリングから、家族みんなで入れる大きなジャグジーバスにした。

予約の順にこだわらず、病状が芳しくない子を優先して受け入れることもしている。

ただ、億単位にもなる建設費や、年間数千万円の運営費を寄付で賄い、続けていくのは簡単ではない。

全国には病院が開設した例もあるが、それらを足しても「こどもホスピス」と呼べる施設は、まだ4つしかないのが実情だ。

■愛知県にもこどもホスピスを…白血病で娘亡くした女性「私の残りの人生費やす」

 こうした中、愛知県にこどもホスピスをつくろうという動きが生まれている。

準備委員会の委員:
「私たちの理念としましては『存分に生きるを一緒に』ということで」

2022年10月、医療関係者を中心に「愛知こどもホスピスプロジェクト準備委員会」が立ち上がった。

全国には、命の危険がある病気や障害の子供が約2万人いるといわれていて、愛知県だけでも1000人ほどいると推計されている。

プロジェクトが目標とするのは、TSURUMIこどもホスピスのように地域と共に歩む施設で、自治体との勉強会や企業から寄付を募るなどの活動を始めた。まずは2025年に、寄付が税制上の優遇措置の対象となる認定NPOになれることを目指している。

安藤さん:
「すごく笑顔って輝いていて、それを見て私たちが逆に元気をもらうというか、そういう感じなので是非お力添えをいただけたら嬉しいです」

訪問先の会社の社長:
「全然やりますよ」

娘の佐知ちゃんを白血病で亡くした安藤さんも、メンバーの1人。佐知ちゃんとの3年半の体験を語り、こどもホスピスの必要性を訴えている。

同席した別の会社の社長:
「結構メーカーさん、子供の遊ぶおもちゃを作っているので、そういう風に言ったらいっぱいメーカーからもらって…」

この日訪ねた名古屋市の会社では、協力を快諾してもらえた。道のりは遠くても、1歩ずつ、歩んで行くつもりだ。

安藤さん:
「これに私の残りの人生費やすのもありだなと思ったので、こうやって活動していこうという風に思いました。寿命を全うした時に、きっと佐知に会えると思うので、その時に『こういうことしたよね』って、一緒に『そうだったね』って笑い話にしていきたい」

愛知こどもホスピスプロジェクト準備委員会は、ホームページで活動内容を紹介しているほか、寄付も受け付けている。

2023年1月13日放送