F1やラリーなどのモータースポーツは迫力満点だが、観戦だけでなく、サーキットで愛車を走らせるのが趣味という人も多い。レースや車に没頭する人が集まる愛知県美浜町のサーキットを取材した。

■トランクが熱くなって生モノが買えない…スポーツカーに魅せられた専業主婦

 愛知県美浜町の「美浜サーキット」は、全長が1200メートルあり、全日本選手権も行われる人気のサーキットだ。

【動画で見る】ハマった専業主婦「エンジン熱く生もの買えない」人気サーキットに密着

ヘルメットやウェアの貸し出しをしているほか、レンタルカートもあって、初心者でも手軽にモータースポーツを楽しむことができる。

サーキットを走るのは、秋から冬がベストシーズンだという。

来場者:
「涼しくなってきたので、そろそろシーズンかなって」

一緒に訪れた来場者:
「路面が熱すぎると、タイヤゴムも溶けちゃったりするから、冷たい方が」

別の来場者:
「仕事の息抜きにもなるし、景色が走っていてきれいだなとか」

また別の来場者:
「ロータススポーツの『エキシージ240R』。大体1000万くらい。日本には10台しか入ってきてない。昔からこの車が欲しくて欲しくて…」

一度ハマるとやめられない、それがサーキットの世界だ。

サーキットは午前9時にオープン。続々と「走り屋」たちが集まってきた。

クールな水色のスポーツカーで颯爽と現れたのは、専業主婦だという上條智美さん。

Qこの車は誰の車ですか?

上條さん:
「私です。ロータスっていう走るための車ですね。もともと昔から車が好きだったんですけど、主人が『こんなのあるよ』みたいな感じで(カーショップへ)行って、一目惚れして大奮発で買っちゃいました」

上條さんは「大の車好き」で、このロータスは2021年に新車で購入した、憧れのスポーツカーだ。

上條さん:
「エンジンが後ろにあるので、後ろ(トランク)が熱くなっちゃう。(買い物では)生モノとか無理かなって…。(冷凍品は)すぐ溶けますね。あとは、ハンドルが切る時重いです。めっちゃ力入れて、筋トレだと思って」

“主婦ドライバー”上條さんのドライビングテクニックを披露してもらった。

上條さん:
「あーごめん!」

コーナーで危うくスピンしかけたが、なんとか持ち直した。

Qサーキットの楽しさは?

上條さん:
「私はどっちかというと、サーキットは緊張しまくりで…。ロータスが何台も集まって他県のいろんなところへ行って、おいしいものを食べて、ドライブ楽しんで帰ってきたりとか」

Q買ってよかったですか?

上條さん:
「よかったです。本当によかったです」

好きなものには、性別も年齢も関係なし。車の世界にどんどんのめり込んでいきそうだ。

■車系の人気YouTuber「横の繋がりを作っていかないと」

 YouTube用の動画撮影をしている男性2人と女性1人がいた。

主に関西で活動する「るん」さん(20代女性)、岐阜県各務原市の「とよちゃん」さん(27歳男性)、愛知県大府市の「まーさん」さん(59歳男性)の3人だ。

「まーさん」こと山田正昭さんは、約27万人のフォロワーを持つ有名なYouTuber。

サーキットの楽しみ方などをわかりやすく解説する動画が人気だという。

まーさんさん:
「YouTuberは基本はひとりでやるものなので、横の繋がりをなるべく作っていかないと、ひとりだけでやっていても行き詰ってしまうので…」

るんさん:
「あとはツイッターとかですよね」

まーさんさん:
「そうですね、ツイッターは大きいですよね」

るんさん:
「(車好きと)繋がれるので」

まーさんもインターネットを通じて、車好きの若者とボーダーレスに繋がれるという。

まーさん:
「もしSNSとかがなかったら、ポルシェ乗っていても、アルテッツア乗っていても、何もわからないんですよ。近所にいないですし、リアルで同じ趣味で出会えるってまずなくて。男でも女でも、車好きって高齢化が進んでいて、僕ぐらいの歳の人ばっかりなんですよ。だから僕から見れば、是非お近づきになりたいというか。若い人にもっと乗ってほしいっていう感じなんですよね」

一口に車好きと言っても、好みは様々。SNSは、まだ見ぬ「同志」と繋がる不可欠なツールだ。

■耐久レースに参加する“本気”の男性たち…見知らぬ人の車でも応急処置も

 午後になると、徐々に人も車も増えてきた。その中にクレーン付きのトラックで愛車を運んできたグループがいた。

自動車整備士の服部潤治さん(50):
「ナンバー自体がないので、自走で来られない。今度、鈴鹿ツインってサーキットで耐久レースがあるので。ナンバーとって車検とって保険入れたりとかするよりも、積車なり1台借りてきたらそっちの方が安いので、一回一回が」

運送業の谷本智哉さん(26):
「負荷がかかることをやっているので、何か車に対して問題があっても、壊れても、安心して帰れる」

サーキット専用に改造した車は車検を通せないため、こうして運んでいるという。

彼らは、長時間走る耐久レースチーム「テンペスト」のメンバーだ。

服部さん:
「(車を)操るっていうのが結構好きなので。思い通りになった時の気持ち良さっていうのが一番ですかね」

谷本さん:
「レースに関しては、他の車ともビッタビタの距離感でやっているので、怖さっていうのももちろんありますけど、それをかわして前に出た時の気持ちよさはすごくありますね。抜かれた時は『クソ!』ってなるんですけど、抜いた時は倍以上に嬉しい」

本格派の彼らが走っていると、サーキットではアクシデントが起きた。1台の車がカーブを曲がり損ね、コースアウトしてバリアにぶつかったようだ。

壊れた車がパドックへ運ばれてくると、「テンペスト」のメンバーらが、応急処置を始めた。

15分もしないうちに、何とか走れる状態にまで修復した。見事な手際の良さだ。

服部さん
「耐久レースやっているので」

谷本さん:
「もっと派手な壊れ方する」

服部さん:
「どうしても、その場で直して走らなきゃいけないので」

この直後にも他の車にトラブルが起き、またしても駆け付ける。

トラブルが起きた車の男性:
「ブレーキが効かない。温度上がっちゃって…」

スタッフ:
「お知り合いとかじゃないんですか?」

トラブルが起きた車の男性:
「違います。たまたま隣で…」

次々とあっという間に修理をこなす姿は、まるでレスキュー隊のようだ。しかし、サーキットでは珍しい光景ではないという。

スタッフ:
「知らない方でも助けに行かれるんですか?」

服部さん:
「やっぱ車好きな仲間ですからね」

会社員の岡田幸弥さん(47):
「みなさん、事故した状態で帰れなくなったらお金がかかっちゃうので。またみんなでここに来て、みんなでワーワーできれば楽しいですしね」

こうした絆で、車好きの輪が広がることも多いという。

■母国に帰る前に…車好きな技能実習生に“最後の思い出作り”

 午後5時になると、週末はレンタルカートでもサーキットを走ることができる。

カートは1人乗りだけでなく、2人乗りのタイプもある。

カンボジア人の技能実習生で、整備士のポンサックさん(27)。日本に来て3年になるという。

ポンサックさん:
「はあ楽しい!面白い〜、面白い!スピード(が出るから)、私、大好きです」

この日は、会社の集まりでこのサーキットを訪れていた。

ポンサックさんの上司 隅田啓一郎さん(46):
「もともと(ポンサックさんが)車好きっていうにもあって、コロナ禍でなかなかどこにも行けなかったので、帰る前に最後に思い出作り」

ポンサックさんは3日後、技能実習を終えてカンボジアに帰国するという。

日本で最後の思い出を作ってあげたいと、サーキットに上司が連れて来ていた。

隅田さん:
「本当に3年間よく頑張ったなと思うのと…。とにかくこの子たち、カンボジア人は本当に素直ないい子で、仕事に対すると取り組みっていうのは日本人も見習った方がいいかなって。本当にありがとうという気持ち。本当に寂しいです」

ポンサックさん:
「帰るときは泣くかもしれないね…」

隅田さん:
「オークンチュラン(カンボジア語で『本当にありがとう』)」

旅立ちの日、空港に別れを惜しむポンサックさんたちの姿があった。

やはり、涙は堪えきれなかったようだ。

■「氷上イベント」を心待ちにする人や彼女を連れてくる人も…趣味を楽しむ自由が溢れるサーキット

自動車販売業の男性(53):
「車は4〜5台ありますね。普段、足で乗る車が1台あって、後はそれぞれの走るステージ用の車がある。僕は車屋なんですよ」

寝ても覚めてもクルマと一緒だという自動車販売業の男性は、車の改造に余念がない。

自動車販売業の男性(53):
「窓はアクリルの柔らかい素材(に替えた)。車って、軽ければ軽いほど速く走れるしブレーキもきくし。今、ダイエットしています。少しでも軽くしたいから」

男性には冬には楽しみな大会があるという。

自動車販売業の男性(53):
「『氷上ドライブ』。女神湖って長野にある、そこで氷の上を走ったりするイベントがあるんですね。スケートリンクみたいに、完全に氷で。冬しかできないんですよ。1月の半ばから2月の半ばまで、1か月しかできない」

彼女を連れてサーキットに来ていた男性もいた。

男性:
「三菱のランサーエボリューションっていう車ですね。一度走ってからが、もう取り憑かれるように。楽しいですね」

女性:
「優しいですし、格好いいし」

Qきょうは1日何をしていたんですか?
男性:
「朝からアライメントっていって、タイヤの角度とかを調整したり」

女性:
「(私は)見ていただけですけど…」

男性:
「頑張って、こっちに引き込もうかなと。一緒に走れたら楽しいですよね」

スタッフ:
「助手席に乗せるとかじゃなく?」

男性:
「助手席は誰でも乗れるので」

魅力を1度知ったらやめられない。サーキットは、趣味をとことん楽しむ自由で溢れている。

2022年11月9日放送