愛知県豊田市の「御菓子所 まつ月」は、江戸時代から続く老舗の和菓子店だ。今は8代目が店を継いでいるが、先代の父から受け継いだ技を進化させたいと、新たな菓子作りに挑戦している。

■江戸時代からの「配合帳」も残る老舗和菓子店 8代目「代々受け継いできたことをこれからも」

 愛知県豊田市の国道153号線沿いにある「御菓子所 まつ月」。

【動画で見る】代々の考え方は“原料七分に腕三分”…江戸時代から続く老舗和菓子店 進化に挑む8代目と先代からの眼差し

店頭には、江戸時代から受け継がれてきた和菓子が並ぶ。

「井桁家もなか」(216円)や…。

「眠り柿ずくし」(1本1566円)。

この店の跡継ぎが、8代目・松井友吉(まつい・ともきち 42)さんだ。

8代目の松井友吉さん:
「代々受け継いできたことを、これからも守っていくということが、非常に重要だと思っています」

創業は今から約170年前の安政2年(1855年)。

まだ甘いものが貴重だった時代から、落雁や羊羹、しるこなど、人々を喜ばせる菓子を作ってきた。

店には江戸時代からの配合帳が残っている。

友吉さん:
「これらは祖父の配合…これクリームの製法とか、最中について書いてありますし…」

材料と手作りにこだわり、のれんを守り続けている。

■3か月待つこともある「本わらび餅」 “原料七分に腕三分”と素材にこだわる

 一番の人気は「本わらび餅」だ。

男性客:
「もともとわらび餅に興味があって。今はネットで見られますから、評判を見たりして一度食べてみたいと思って」

女性客:
「前は3か月待ちでした。3か月待って買いましたよ。来た時は感激ですよね」

原料のわらび粉は国産で、全国各地を探し、納得のいく物だけを使っている。

友吉さん:
「粘りですとか弾力ですとか、そういうものはどこの物でも国産ならいいということではないですね。“原料七分に腕三分”っていう、代々大切している考え方がありますので、あくまでも素材がまず良くなければいいお菓子はできませんし、素材の良さを引き出す技術や知識もないとダメということですね」

良い素材と腕が揃って、初めて良い菓子が生まれる。代々受け継がれて来た教えだ。

わらび粉を銅鍋の中でよくかき混ぜ、十分な固さにしたわらび餅をせいろで蒸す。

蒸し上がったところでまた銅鍋に戻し、ひたすら練る。

きな粉をまぶして一晩寝かせ、店に出す日の朝、手作業で切って仕上げる。

友吉さん:
「お客様にお召し上がりいただくものですから丁寧に、それが基本です」

良い材料を使い、腕によりをかけて作った「本わらび餅」は、1箱1674円。

独特の柔らかさと弾力が、時代を越えて人々を魅了する。

女性客:
「私は好きです。ちゃんと作ってらっしゃるのがわかるから」

別の女性客:
「美味しかった!口でとろけて。『いったいどこで買ったの?』って言われて、『また買って来い』って言われちゃいました」

友吉さん:
「(和菓子の世界は)知れば知るほど奥が深いですし、シンプルなことこそごまかしもきかないし、僅かな違いがお菓子に影響する」

■82歳でまだまだ現役の先代に息子「向上心は衰えず父ながらすごい」

 友吉さんたちの作業を、厨房の隅から見つめているのが、82歳にしていまだ現役という先代の父・秀夫(ひでお 82)さんだ。

先代の秀夫さん:
「本当に鍛錬に鍛錬を続けないと、(いい和菓子は)できないですよ」

一線は退いたが、職人としては先輩。この日は友吉さんと、きな粉のサンプルをチェックした。

友吉さん:
「これは同じ北海道でも炒り方が、ちょっとしっかり炒った物」

秀夫さん:
「こうやって見ると、だいぶ細かいなこれ」

親子でも仕事場では師匠と弟子、世間話など雑談はめったにしないという。

友吉さん:
「もうちょっと話題が僕もないといかんなって、自分で思うぐらい…」

秀夫さん
「そのぐらい余裕がないってことだよな。余裕があれば他の話もできるけど、今はまだ…まだまだできないですね」

いくつになっても息子は息子。完全に道を譲るのには、まだ時間がかかりそうだ。

友吉さん:
「いくつになっても向上心は全く衰えませんし、そういったところは本当に、父ながらすごいなって思います」

■“三分”の腕で自慢の大福の進化を 餅の皮の練り方を変えて滑らかな食感と口当たりを追求

 友吉さんは、ある商品により滑らかな食感や上品な口当たりを追求したいと考えていた。それが「月乃福福餅(つきのふくふくもち)」(324円)だ。

餅に餡をくるんで氷点下で熟成させることで、もっちり感を出した自慢の逸品に工夫を加えようとしていた。

友吉さん:
「少しだけ練り方を工夫してみようかなってところです。そこで大きく変わってくると思います」

七分とされる原料はそのままに、残りの三分の腕でさらに進化させたい。皮の食感をもっと柔らかくするため、自分なりのスタイルで練っていた。

友吉さん:
「振り返れば、変化し続けてきた167年のはずですので」

完成されたように見える商品にも、必ず工夫の余地はある。練り方は企業秘密だが、滑らかな食感と上品な口当たりを追求した、自分なりの「福福餅」を作り上げることができた。

先代にも味をみてもらう。

友吉さん:
「今日は練り方をいつもよりしっかり練って…。ちょっと一回食べてみて」

秀夫さん:
「そんなには変わらないけど、いつもよりも滑らかになったというのか」

友吉さん:
「きめが細かい感じなんだけど、もう少し口当たりが優しくできるといいかなと思って」

秀夫さん:
「道明寺(どうみょうじ)は本当に難しいからね。いいと思う」

「いいと思う」と先代から合格の合図。伝統を守りつつ変化を恐れない。これも「まつ月」が大切にしてきた教えだ。

友吉さんは2023年には、中国の北京への進出も予定するなど、新たな計画も練っている。

友吉さん:
「これが完成っていうところは、どこまでいっても無いものですから、少しでも今までよりももっといい品物にできるように、頑張りがいがあるところですね。僕の目標は、この先160年の土台を僕は僕なりに作っていけたらいいなという思いはあります」

2022年11月30日放送