文部科学省によると、「不登校」の小中学生は2021年度の調査で全国に約24万人いる。過去最多で、40人に1人が不登校となっているが、学校に行けないのは「悪いこと」なのか。不登校の子供たちとその現場を取材すると、学校や大人たちの「あるべき姿」が見えてきた。

■「学校に行けない自分」と「行かせようとする大人」の狭間にいる子供たち

 名古屋市に住む中学2年の石川由珠(いしかわ・ゆず 14)さんはこの日、母親の奈美さん(40)と台所に並んで料理をしていた。

母の石川奈美さん:
「手伝いというか、料理に興味を持って、仕事から帰って来たら、ごはんができていたりとか」

娘の由珠さん:
「家庭的な女になりたいから」

【動画で見る】学校に行けないのは“悪いこと”?…不登校の子供達とその現場から見えてきた『学校や大人達のあるべき姿』

両親と小学生の妹の4人で暮らしているが、取材したこの時は平日の昼間。妹は小学校に行っている時間だ。

奈美さん:
「元気なんですよ。毎日元気なんですよ。ただ学校に行けないだけなんですよ。元気なの」

進学した中学校で友達と馴染めず、遅刻や早退を繰り返し、2年生になる頃に不登校になった。

由珠さん:
「担任が嫌だ。話したくない時とかに『なんか話そうよ』とか、『なんで学校来ないの?』とか、そういうのが、ちょっとめんどい」

奈美さん:
「なんかおかしいな、精神的にもおかしいなって思って、名古屋駅にあるクリニックに初めて行ったんですよ。そうしたらうつに近い状態っていう判断が出て」

1年生の時に「軽度のうつ病」と診断されたが、母・奈美さんは、学校に行くよう強く言い聞かせていた。

奈美さん:
「『不登校っていけないんだ、不登校ってダメなことなんだ』っていう頭だったんですよ。やっぱり自分が行きたくなくても、行きなさいって言われ続けていたから子供も行かなきゃいけない。義務教育だから行かなきゃいけないとか。学校は行くものだってずっと思っていたから。だからなんで行かないんだよみたいな」

中学校の先生が登校を促すのも、由珠さんには苦痛だったという。

由珠さん:
「『学校、来る?来ない?』とか、『学校来たら?』とか、『友達が待っているから来なよ』とか、『絶対、明日来てね』とか、そういう『来てね』みたいなことを言う」

「学校は、行かなければいけないところ」。追い込まれた由珠さんは、ある行動がエスカレートするようになった。

由珠さん:
「(リストカットを)カッターでやっていた。自分で解決しようとしていたから、ワーってなって切っちゃったみたいな」

「学校に行けない自分」と「行かせようとする大人」。その狭間で揺れ動く子供たちは、居場所を失っていた。

■不登校の子供を受け容れるフリースクール 行政の金銭的支援なく家庭の負担が課題

 名古屋市熱田区の「子供支援室・カシオペア」は、不登校の子供たちを受け入れるフリースクールだ。

ここに通う、小学2年生の井上将臣(いのうえ・しょうじん 8)君。

読み書きが苦手な発達障害=ディスレクシアがあり、1年生の夏から不登校になった。

母の由香子さん:
「小学校1年生でもう不登校になってしまって、どうしても家では私と2人っきりになると、息詰まってしまったので、どこか彼を認めてくれる第三の居場所っていうのを探していたんです」

将臣君:
「5×1が5、5×2が10…」

中久木俊之理事長:
「完璧。もういいんじゃない、休憩で。はい、次はどうしますか?」

将臣君:
「オセロ」

ここでは、子供たち1人1人に合わせた教育をしている。集中し続けることが難しい将臣君は、5分ずつ遊びと学習を繰り返す。

中久木理事長:
「短時間しか実際に集中できない子はいるにも関わらず、学校は45分とか50分とか決められていて、ずっと着席していないといけないっていう原則ルールもあるし、おしゃべりするのも難しいと思うんです」

不登校の子供たちや保護者の居場所となっているフリースクールだが、大きな課題があった。

由香子さん:
「こういうフリースクールに関しては、やっぱりすべてお金は家の方から出しています」

フリースクールはほぼ全てがNPOなどの民間が運営していて、行政からの金銭的な支援はなく、親の負担は平均で毎月約3万3千円にのぼる。

中久木理事長:
「今の教育のやり方で、学びに辛さを感じている子たちいっぱいいると思うんですけど、子供たちが日本を支えていくことを考えれば、子供たちの居場所であったり、学びの場を丁寧に整備し直すのは、かなり優先順位の高いことだとは思ってはいます」

■「学校らしくない学校」がコンセプト 開校1年目の“出席率”が85.4%の「不登校特例校」

「民間任せ」ともいえる、不登校の子供たちへの支援。その課題に取り組む公立中学校が岐阜市にある。

井上博詞校長:
「入った瞬間に黒板じゃないって。つまり黒板というのは、子供にとって『ザ・学校』のイメージなんですよね。極力、学校らしい雰囲気を醸し出さない」

岐阜市立草潤(そうじゅん)中学校にはこの日、全国の教育委員会などが視察に訪れていた。

井上校長:
「草潤中学校は、令和3年4月に岐阜市立の『不登校特例校』として開校いたしました」

「不登校特例校」の草潤中学校では、文部科学省の学習指導要領にとらわれずに、体育の授業も含めて全ての授業をオンラインで生配信している。先生が声をかけていいかも生徒がサインを出すことができ、1人1人に個別のカリキュラムで対応する。

井上校長:
「『学校らしくない学校』っていうのが最大のコンセプトです。通常は学校のルールがあり、やり方があり、生徒は学校に合わせなくてはいけない。それと全く逆の発想で、学校が子供たちに合わせていく」

岐阜県内であれば、別の中学校に在籍したままでもオンラインで学習支援を受けられるほか、週に1度だけ通う「通級支援」も実施。“登校しなくても”学習の機会を失わない仕組みになっている。

井上校長:
「多くの生徒を効率的に指導していくためには、今の学校の仕組み、義務教育の仕組みは非常に有効だとは思うんですけど、ただその仕組みの中で苦しんでいる子達はいる。苦しんでいる子達はその生徒が悪いわけでもなく、そういったものに馴染めない子達にも目を向けられる、そんな学校があってもいいのではないか」

柔軟な環境を生み出したことで開校1年目の生徒の出席率は、オンライン授業の参加も含めて85.4%になり、3年生だった15人全員が高校などに進学した。

井上校長:
「『不登校であることが間違っているわけじゃないんだ』というメッセージを伝えることで、そんな子たちの力になれればいいなってことは思っています」

■娘の言葉で「学校に行かない」を受け容れることができた母

 不登校となり、居場所を求めるなかで、リストカットがエスカレートしていた由珠さんはある日、母の奈美さんに手紙で本音を打ち明けた。

<由珠さんから母への手紙>
「もう学校に行きたくないです。イジメにあってるわけではなく、担任とか、朝から学校に行くのがつらいです。だけどそろそろ学校を毎日いかないと、受験にひびくこともわかっています。だけど朝から学校に行くのは自分にとってまだつらくて、だけどフリーススクールには行けないことがわかってから自分なりに考えたところ、今の学校では、朝から行けないから学校を変えたらいいと思いました。だけど今の学校をかえたら、大金がかかると思うし、だけど今の学校ではなく、あたらしい学校で学校生活をすごしたいです。それもむりであるなら、あきらめます。ご検討おねがいします」

由珠さん:
「学校も嫌で、家も嫌みたいな時があって、家出たいけど出られないみたいな。口じゃ言えないから、手紙にしようと思って書いた」

奈美さん:
「そっかぁ、そっかぁですよね。でも、言ってくれてありがとうですよね。これが本当に言ってくれなかったら、多分(自分自身も)あんまり変わってない。学校に毎日行けよみたいな、多分今もなっていたと思う。この子が言えたから、私ももう(学校に)行かなくていいよって言えた」

由珠さんと奈美さんは、手紙がきっかけで、「学校に行かない」という選択を受け容れることができた。不登校に対する考え方を社会全体で変えていくことが求められているのかもしれない。

由珠さん:
「なんかもうちょっとわかってほしいっていうか、1人1人性格も何もかも違うから、同じ境遇を味わっている人が1人はいると思うから、その人と話してわかり合える人がいるんだって思うところに行きたいな」

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2023年3月16日放送