三重県津市の「おでんのオサム」は地元で長年愛されてきた名店でしたが、店主が東京で出店するため、2022年9月に惜しまれつつ閉店しました。しかし失うのは惜しいと2023年2月、飲食店を経営する常連客の男性が、復活させました。

■去年秋に閉店したおでんの名店に「分家」誕生

 三重県津市大門(だいもん)。大通りから少し入った路地に、そのお店はあります。

【動画で見る】東京進出で去年秋に閉店…津市で30年愛された『おでんのオサム』元常連客が味を引継ぎ“分家”として復活

女性客:
「あっさりしていて体に優しい感じです」

別の女性客:
「おいしいです」

男性客:
「日本人のノスタルジーみたいなもんちゃうか」

透き通る黄金色の出汁が特徴の関西風おでんです。

看板には「オサムの『分家』」と書かれています。

元々「おでんのオサム」という店で、店主は加藤理(おさむ 52)さんです。

松阪市の鰹節店で特注で作ってもらっていたという、アジやサバ、煮干しとなどを使ったダシが評判で、特に人気だったのが「トマトのおでん」です。

これを看板メニューに、津市で30年愛されてきましたが、2022年9月10日で閉店し、東京都目黒区に店を移していました。

最後の営業日には、閉店を惜しむお客さんでいっぱいになった店。

男性客:
「本当に行くんやろうな?」

理さん:
「本当。今日、本当に最後。今日、本当に本当。最後の最後ですから」

男性客:
「ここの大門のおでんのオサムが東京でやるなんて、うれしいことしかなくて」

理さん:
「(おでんダネが)何もなくなりました。思い残すことはないです。(お客さんに)今日は本当にありがとうございます。馴染みのお客さんが集まっていただいて、本当にうれしいです」

男性客:
「30年間ありがとう」

理さん:
「東京でも頑張るぞ!負けないぞ!」

ふるさとに別れを告げ、新天地・東京へと旅立っていきました。

■27歳の料理人が東京の「オサム」で学び分家を運営

 あれから半年経った2023年2月、全く同じ場所に「分家」が誕生していました。出迎えてくれたのは「おでんのオサム」の常連客だった前川昭俊さんです。

前川さん:
「すごく残念で、本当にね。津市の中でも誇れる、すごいお店でしたので」

飲食店を経営している前川さんは、津になんとか「あの味」を残したいと、加藤さんに申し出て、店を受け継いでいました。

店長を務めるのは、27歳の料理人・稗田(ひえだ)智矢さん。

東京の新しい店舗で、加藤さんから直接教えを受け、レシピなどを学んできました。

理さん:
「(トマトを湯剥きしながら)これ割れてくるやろ、こうやって」

稗田さん:
「はい」

理さん:
「(トマトの皮が)剥けてくるやろ」

稗田さん:
「はい」

理さん:
「こうなったらもうええねん。これまだ割れてないなぁ」

稗田さん:
「はい、割れてないです」

理さん:
「早いねん、まだ」

東京・中目黒にあるオサムさんのお店で、レシピなどを学んできました。

稗田さん:
「やはり30年の歴史が前のお店にはあったので、プレッシャーには感じてしまうんですけど、せっかくこの機会があるので、応えていきたいなというのはあります」

店内も改装し、満を持して2月1日、「オサムの分家」をオープンしました。

この日、最初のお客さんは、オサムに長年通っていた常連さんです。

鰹節をベースとした本家と変わらぬ味の出汁。見た感じは完全に再現できています。

男性客:
「味は変わらない。おいしいと思うよ、おつゆね」

女性客:
「さっぱりしておいしいです」

別の男性客:
「変わってないですね」

また別の男性客:
「無くなるって聞いた時はちょっとねぇ、寂しかったですけど。またやっているって聞いたので、来れてよかったですね。変わらずおいしいですね」

しかし、常連客の中には…。

男性客:
「ちょっと違うかな。オサムのおでんじゃない気がする」

連れの男性客:
「普通においしいよ」

「おいしいけれど、なにかが違う」という“愛のムチ”も。伝統の味を受け継ぐには、もう少し時間がかかるのかもしれません。

稗田さん:
「プレッシャーですね。20~30年やっとったっていう、やっぱりそれがあるので。誰かに言われるわけではないんですけど、自分の中でそういうすごい歴史があるものを僕が任せてもらっているって感じなので、プレッシャーはどうしても感じてしまうっていうのはありますね」

稗田さんは3月から、新たにおでんの出汁を使った「鯛だしお茶漬け」(748円)をメニューに加えました。

今が踏ん張り時です。

■「めちゃ忙しいです」…開店から半年 東京の「オサム」の今

 東京都目黒区に加藤さんが新たにオープンしたお店にも訪れました。商店街を少し入ったところにある雑居ビルの3階に、お店はあります。

加藤さんは、相変わらず元気そうに働いていました。

理さん:
「めちゃめちゃ忙しいです。まぁ本当、思った以上の成果が出ていますね。うん、良かった。出てきて良かった」

出店直後から、連日賑わいが続いているといいます。

理さん:
「まだね、店に寝泊まりしているんですよ。店の個室で」

あまりの忙しさで、半年間寝泊りはお店です。

おでんの味は東京でも好評だといいます。

理さん:
「いや案外ね、うけますね。どうかなって思ったんですけど、こういう味はなかなかないみたいね」

2月からは地元、三重県の特産のハマグリを使った、シメの「はまぐりラーメン」(時価)も、春の新メニューとして始めていました。

使うのは桑名の名物「はまぐり」です。この時季は産卵を控え、ふっくらとやわらかく、甘みが強いのが特徴です。

男性客:
「飲んだあとにちょうどいい感じですよね。さっぱりとしてて。うまかったですよ」

加藤さん:
「三重県の本当に代表で出てきていますので、三重県を広めたいし。52歳、今度53歳になるんですけど、この歳でもうワクワクドキドキを味わえるってだけでも、なんか幸せやなっていう気はしてますね」

三重の味で東京の人たちをうならせたい。加藤さんは、着実にその夢を叶えつつあるようです。

理さん:
「このオサムの名前をね、もっと東京、全国に広めていきたいなと。もうここで頑張ります」

2023年3月29日放送