教育現場ではいま、長時間労働などが原因で、教師が不足している。負担を減らすため「宿題」を廃止した岐阜県の小学校を取材すると、子供たちにとってもプラスの効果があった。

■宿題を廃止した岐阜の小学校

岐阜市の市立岐阜小学校。

先生:
「よし、じゃあやろうか!」

【動画で見る】背景に長時間労働…教師の働き方改革で『宿題廃止』の小学校 切り替えた“家庭学習”が子供にもプラスの効果

登校したばかりの子供たちが始めたのは、自宅での学習の発表だ。

小学4年の女子児童:
「私は発展で、コナンのキャラクターの登場人物を書きました」

別の小学4年の女子児童:
「学校でやった問題があまりわからなかったし、点数が悪いと思ったので復習をしました」

授業の復習だけでなく、水の実験やアニメのキャラクターなど、テーマはバラバラ。だが、実はこれは、全て自分たちで決めた「家庭学習」だ。

岐阜小学校の藤田忠久校長:
「一律の画一的な宿題ということをやめて、『家庭学習』という取り組みに昨年度(2022年度)から切り替えました」

岐阜小学校では、2022年4月に「宿題」を廃止し、子供が自ら課題を考えて取り組む「家庭学習」に変更した。

小学4年の女子児童:
「前の50問テストの復習を頑張ってやりました。漢字を書くのが苦手だから、一生懸命覚えられるように頑張って書きました」

別の小学4年の女子児童:
「宿題としての計算ドリルとか漢字ドリルは、同じことの繰り返しで時間がかかってしまうけど、家庭学習だと、ちょっと難しい問題に挑戦できたり先取りの学習ができるから、家庭学習のほうがいいです」

子供たちも「宿題のない」学校を楽しんでいるようだが、当たり前のように行われていた「宿題」を廃止した理由を校長に聞いた。

藤田校長:
「(新任教師から)本当は子供たちと遊びたいんだけど、どうしてもノートを点検する時間に取られて、自分が子供に向き合う時間がなかなか取れないという相談があったんですね。ノートに向き合うのではなくて、子供自身に向き合えるようにしたいなって」

■深刻な「教師不足」…残業の上限超える教師は小学校で64.5% 中学校で77.1%

 背景にあったのは、「教師の長時間労働」の問題だ。2022年度に文部科学省が調査したデータでは、国が残業の上限として示している月45時間を超えるとみられる教師は、小学校で64.5%、中学校では77.1%にのぼった。この長時間労働の問題もあり、いま子供たちの教育現場は深刻な「教師不足」に陥っている。

2023年5月、名古屋市が開いた「説明会」。教師を募集するものだが、集まっていたのは…。

参加者の女性(40代):
「以前、中学校の教員をしていたんですけど、辞めてしばらく経ったのでまたやりたいなと」

参加者の男性:
「教員免許も、保健体育なんですけど持っていたので…」

この説明会の名称は「“ペーパーティーチャー”セミナー」。

教員免許を持ちながら、教職についていない人の採用に向けた取り組みだが、その理由が「教師不足」だ。

名古屋市教育委員会教職員課の担当者:
「名古屋市は昨年度(2022年度)までは全員分配置ができていたんですけど、今年(2023年)初めて足りなくなってしまったものですから」

名古屋市立の小中学校では2023年度になり、教師の数が合わせて15人も不足する事態になった。

学校教育に詳しい名古屋大学の内田良教授は、業務量の多さが原因で教師の「なり手」が減っていると指摘している。

内田良教授:
「教員志望の大学生自身が長時間労働の職場、土日も学校に行かなければならない、そういったところを回避しようということで教員にならない、そういった学生もたくさんいます」

■“宿題廃止”でドリルの添削時間が子供たちに寄り添う時間に

「宿題を廃止」した岐阜小学校で、4年生の担任をしている小島莉緒先生(26)。

宿題を廃止するまでは給食を急いで食べていたが、今はゆっくり食べられるようになったという。

教師3年目の若手だが、かつては多忙な教師の仕事と子供たちの間で葛藤していた。

小島教諭:
「(いろんな作業を)後回し後回しっていう形で(子供たちの)下校後にやっていることは沢山ありました。もともと子供と触れ合いたいなっていう気持ちがあって、この職業を目指したというのがあったので、『あれ?なんか思っていたのと違うな』って…『私、何のために先生になったんだろう』って」

思い描いた「教師像」とのギャップ。しかし「宿題廃止」から1年が経った、今は宿題の採点などに時間がとられないため、子供たちに寄り添う時間が作れるようになっていた。

小島教諭:
「(校庭で遊ぶ子供たちに)どういうチーム分けなん?」

児童:
「え、適当!」

小島教諭:
「当てられるぞ!当てられるぞ!一輪車隊、逃げろ逃げろ!」

小島教諭:
「宿題だと、毎日同じドリルをやるってなると、その日のうちに返さなきゃって思うと『休み時間を使う』となっていたのが、放課後にも次の日の準備ができるなっていうのは思います。(以前は)学校で遅くまで残ってやり切っていくという形だったので、退勤時間が早くなって、今はお家でゆっくり過ごす時間は増えました。(残業時間が)2~3時間は変わったなって思う」

■教師の“働き方改革”が子供にも与えた効果

 実現した教師の“働き方改革”。それは、教師だけでなく、子供たちにもプラスの効果を与えていた。岐阜小学校に通う、4年生の細呂木谷康助(ほそろぎや・こうすけ 10)くん。

細呂木谷康助くん:
「鵜飼は、1922年にイギリスのエドワード皇太子など、外国の人もたくさん見ていることがわかりました」

家庭学習の様子を見せてもらった。

細呂木谷くん:
「明日、俳句や短歌などの国語の勉強があるので、春夏秋冬の俳句の有名なものと、その意味を書いています」

この日は、国語の俳句などを「家庭学習」のテーマに決め、自分で調べた内容をノートに書き写していた。

母の千春さん:
「終わった?じゃあ見せて。俳句、どれが好きだった?与謝蕪村のこれは、去年(2022年)の教科書に載っていた気がする。復習になったね」

細呂木谷くん:
「好きとかはそんなにない」

千春さん:
「好きとかはないか、もう少し内容を見ると好きとかが出てくるかもね」

細呂木谷くん:
「家庭学習だと、自分の好きなことやまだ分からない所など自由に決めて学習できるので、そっちの方が自分にとって学べると思いました」

千春さん:
「いろんな選択肢がある中で、こういう勉強の時はこういう物を使った方がいいとか、そういうツールの使い方をなんとなく体で覚えてきている感覚はあるので、勉強もしやすいし知識も増えると思うので、そこは変わったと思います」

教師の負担を減らす「宿題の廃止」が、子供たちが自ら考えて行動する「主体性」を育んでいた。

藤田校長:
「子供も、親に相談しながらやるべきことを見つけていくっていうのは大事なことだし、それの積み重ねが子供の主体性を育てることになるかなって思っています。数字で表れる教員不足がだんだん明るみにはなってきているんですが、数字に表れない教員不足は本当に山ほどあって、学校と家庭と地域の役割を今一度見直す必要がある」

 教師の長時間労働の背景には、長年変わらない法律の影響もある。いまから50年ほど前の1971年に制定された「給特法」という法律だ。公立学校の教職員の給与に関する法律で、時間外勤務や休日勤務の手当を支給しない代わりに月給の4%を支払うというものだ。つまり「残業代がほぼ出ない」ということになる。

この4%というのは、8時間分の労働にしか相当しないということで、定額で働かせ放題の「サブスク状態」ともいえる。政府はこの「4%」を引き上げることも検討してはいるが、学校教育に詳しい名古屋大学の内田良教授は、「時代に見合っていない法律であり給料を増やすだけでは教師の負担は減らない」と指摘。「長時間労働の“環境の改善”が何より重要だ」と話している。

教師のため、そして何より子供たちのために。「教育現場の改革」が求められている。

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2023年6月29日放送