端午の節句にあわせて飾る「鯉のぼり」を見かけることが、最近は少なくなってきました。理由を老舗のメーカーや街で聞くと、少子化や住宅事情だけではなく、個人情報に関する不安の声があがりました。

■“便利屋”に依頼し30年前の鯉のぼりを設置した家庭

 愛知県津島市の住宅街で2025年4月22日、生活の困りごとを解決する街の便利屋さん「ベンリー」が受けていた依頼は、「鯉のぼり」の設置です。

依頼者:
「鯉のぼりを立ててほしいなと思って。知り合いが『倉庫にあった』と言ってくれたんですけど、自力で立てられないぐらい大きくて」

【動画で見る】少子化や住宅事情だけじゃなかった…今や“絶滅危惧種”の『鯉のぼり』個人情報問題も一因か「家族構成とか…」

子供たちの健やかな成長を願って「鯉のぼり」を3人の子供たちに見せるため、庭に飾ろうとしていました。

ベンリーの担当者:
「3階建ての屋上についていた物ですね。(地面の)穴の中に埋める道具も買ってきて、倒れないように設置していきます」

30年前のこいのぼりを改造して、地面に立てられるようにします。新たに購入した杭を地面に深く打ち込んで、長さ10メートルのポールを立てます。強風でも倒れないように補強をして、切れていた紐も直します。

およそ1時間、大きなこいのぼりが空を泳ぎ始めました。

依頼者の息子:
「楽しかった」

依頼者の娘:
「うれしい」

依頼者:
「とにかく元気に育ってくださいと」

子供たちも大喜びしていましたが、最近は「鯉のぼり」をあまり見かけなくなっています。

■名古屋では「全く見ない」という人も

 昭和の時代、鯉のぼりは住宅の庭先でよく見かけられました。江戸時代、武士の家が男の子の出世を願ってのぼりを飾るのを、庶民がまねるようになったのが始まりと言われています。

しかし…。

愛知県在住の80代:
「見ません。自分の子供が小さい時までだね。50年近く前。結構大きい鯉のぼりを皆さん持っていましたもんね」

名古屋市在住の40代:
「全く見ないです。鯉のぼりを持っているお宅が少ないんだと思います」

■老舗メーカー社長が指摘する「鯉のぼり」が“絶滅”に向かう理由

 鯉のぼりは今や絶滅危惧種です。なぜ見かけなくなったのか、岡崎市にある創業120年のメーカー「ワタナベ鯉のぼり」を訪ねました。

ワタナベ鯉のぼりの渡辺要市社長:
「ちょっと外で見なくなってきたかなという感じはしていますね。やっぱり子供の数が減ってきているのが一番大きいですかね」

2024年の出生数は過去最少のおよそ72万人と、50年前の第2次ベビーブームの3分の1近くに減少しました。

庭の広い住宅が減り、マンションが増えるなど、鯉のぼりをあげる場所も減っています。

そして、社長は別の理由も指摘しました。

渡辺社長:
「個人情報の問題だとか。『あそこは男の子が生まれたんだな』となると、いろんな所から宣伝物が届いたりとか、そういうことを嫌う方も中にはいるんじゃないかなと思います」

実際に子育て中の女性からも、同様の声があがっています。

豊田市在住の30代:
「自分の家がどういう構成なのかとか、(個人情報を)出したいと思う人は少なくなっているんじゃないかな」

■減少する「鯉のぼり」時代に合わせた商品も

 昔ながらの大きな鯉のぼりの販売数は、ピークの5分の1に減少しています。代わりに、ポールを使わずに簡単に取り付けられる鯉のぼりや…。

部屋の中でエアコンの空気で泳ぐ、飾りやすいモビール型もあります。

渡辺社長:
「鯉のぼりは子供にとって非常に魅力のある商品だと思っています。江戸時代から続く、世界にない文化ですので、こういった文化を残していっていただきたい」