2023年5月末、富士山麓で陸上自衛隊の国内最大の実弾演習「総合火力演習」が行われた。

 今、自衛隊に求められているのは何か。ジャーナリストの鈴木哲夫さんと現場を取材した。

■防衛財源確保法案が成立…人のいない「近未来の戦場」

 政府は今後5年間の防衛費を17兆円増やし、総額43兆円にする方針を決めている。大幅な防衛費増額に向けた財源確保法案は、6月16日、自民・公明などの賛成多数で成立した。今、自衛隊の装備の何に費用がかかるのか。

5月27日、陸上自衛隊の東富士演習場。

【動画で見る】電子戦に始まり離島奪還の想定まで…今年非公開の『富士総合火力演習』見えてきた“近未来の戦場”の姿

国内最大の陸上自衛隊の実弾射撃訓練「富士総合火力演習」が、ここで行われた。

鈴木哲夫さん:
「陸上自衛隊の総合火力演習に来ています。これまでは一般にも公開されていたんですけど、今年は非公開なんですね。最前列に居るのは、入隊したばかりの自衛官も多いです。なぜ非公開になったかと言いますと、このところの安全保障環境が非常に厳しくなっている、そういう中で機密性などの必要性が上がっているんですね。ですから非公開になったということなんですね」

これまで、一般市民2万人を招いて行われた「総合火力演習」。

だが、2023年は非公開になった。安全保障環境が厳しくなる中、機密性などの必要性が高まっているからだ。そのため、観覧席は“若手の自衛官”ばかりだ。

10代、20代の若き隊員たちに見せるのは「近未来の戦場」。

演習は静かに始まった。

<場内のアナウンス>
「通称、スカイレンジャーが侵入してきました」

最初に姿を見せたのは2機の「ドローン」、通称「スカイレンジャー」。任務は「情報の収集」だ。人ではなく無人機が最前線の情報を取りに行く。

そして、一見トラックに見える車両は、『NEWS』と呼ばれる最新の「ネットワーク電子戦システム」の装備の一つ。

電波の収集・分析を行い、敵国の「通信電子活動」を妨害する。

将来的には、敵国のドローンや無人機に対して高出力マイクロ波で妨害し、指揮系統を混乱させる装備の拡充を目指している。

陸上自衛隊では、こうした電子戦に対応するため、2024年度には「対空電子戦部隊」も新設する予定だという。

そして…。

<場内のアナウンス>
「スカイレンジャー情報。三段山左に敵装甲車。同じく右に敵徒砲兵を確認。AIによる提案に基づき、火力調整所は各特科部隊に射撃を指示します」

戦闘を提案するのは「AI」。人間の判断だけでは遅れを取ってしまうところを、「AIの活用」で高速化する。

<場内のアナウンス>
「このように、将来の『キルチェーン』においては、目標情報の収集を直ちに射撃することが可能です」

■離島奪還を想定した訓練 使った弾薬は約10億7000万円分

 この後行われたのは、今まさに迫っている安全保障、敵国が侵攻した日本の離島を奪還する訓練だ。

<場内のアナウンス>
「状況開始!」

電子戦の後、部隊が動き出した。

鈴木さん:
「今、車両が動き出しました。訓練が始まりましたけども、今まさに迫っている安全保障、たとえば離島に上陸したケース、いろんなものを想定しながら、今回は訓練するということです」

無人航空機による攻撃も行われた。

訓練には2022年に続いて、南西諸島での運用が検討されているオスプレイも参加した。

鈴木さん:
「垂直に今、飛んでいきましたね。垂直に飛んでそして、すぐにスピードをあげて飛んでいきますね。独特のフォルムです」

反撃の拠点を確保するため、UH2ヘリからオートバイ部隊も。

侵攻された離島を奪還するまでを演習した。

今回の演習で使用された弾薬は約57トン、10億7000万円分だった。

鈴木さん:
「今日見て、やっぱり実践的な訓練という印象を非常に受けましたね。実際、日本の場合は島に上陸してくる。それにどのように、二重三重に、しかも電子兵器を使ってそれをやっていく、非常に具体的な訓練でした。そういう意味では、これまでのいわゆる火力訓練の演習の節目になるのかなという気がします。しかし、こうやって具体的になってくることで、防衛費の問題が当然セットで出てきますよね。これからの大きな課題なのかなと感じました」

取材で戦場の「電子化」や「AI化」を目の当たりにした鈴木さんは、「AIが判断をして人を殺すという時代に入っているとしたら極めて恐ろしい。今回の訓練も結局は人を殺す訓練。安全保障はやはり外交がまず第一。そのために外交力をつけなくてはならない。岸田総理は『外交』と言っている割には、本当にそれをやっているのか。核の共有をアメリカや韓国とやるかもしれない。中国に対してはまずは外交、抑止力はそのセットにあるくらいでやってほしい」と話しています。

2023年6月6日放送