SPECIAL

井頭愛海さんインタビュー

貞子は長髪で表情があまり見えず、記憶喪失で言葉も発しない難役ですね。
最初に貞子の設定を聞いたとき、私も驚きしかなかったです。「ど、どうしよう⁉︎」と。ただ、これだけ難しい設定が揃った役をそうは演じられないので、撮影に入る頃には全力で挑戦したい! と前向きな気持ちになっていました。
セリフはおろか、表情で伝えることもなかなかできないと思いますが。
そうなんですよ! その部分はやってみないとわからないと思っていました。実際、演じてみて大切にしているのは、貞子のそのときどきの感情です。もし自分が記憶喪失になったら、と想像してみたんです。きっと湧き上がる感情って、“怖い”とか“おいしい”とかとてもシンプルだと思うんです。だから変に作りこまず、現場でそのとき思い浮かんだ感情が、現時点での貞子の“リアル”で嘘がないと思うので、心を空っぽにしてそのときどきの感情を大切に、体を動かすようにしています。
とはいえ、瞳を撮られるときは「来た!」と思っています(笑)。まなざしでいろいろなことを伝えられますから。
貞子として現場にいると、どんなことを感じるのでしょうか?
まずはさくらさんがとても優しくて、安心しました。でも貞子は何もかもが“わからない”状態です。記憶がないというのは経験値がないのと同じだから、次に何が起こるのか、何をされるのか想像できません。自衛本能で心を閉じていて、常に周りの人のことを気にしています。
第2話で、玲奈のことを追って怖い人たちが「ハチドリの家」に現れた場面は、撮影でもいろいろと考えました。実際、普通の暮らしの中でああいう出来事に遭遇したら、ものすごくビックリするはずです。ところがシェルターにいる子どもたちはいろいろな経験をしているので、みんな動じないんです(笑)。誰もが落ち着いている中、貞子としてどうリアクションを取ればいいのか悩みました。玲奈を引き渡せと迫る場面はどう考えても異質なことなので、ちょっとビクッとなる動きを入れてみたんです。そういうことを考えたり演じたりすることの積み重ねで、貞子に近づけるんじゃないか、と思っています。
貞子には妊娠という、大問題もあります。
お腹が大きいので、単純に身軽に動けません。何かしようとするとまずお腹が気になるし、動作がどうしてもスローテンポになります。今回はいろんなことに制約があるので、共演者のみんなが全身を使ってお芝居をするのを見ていると、うらやましくなります。第1話の貞子の名前を決めようと、みんなでわちゃわちゃしているのを見ていたら、私も加わりたい! と思ったんです。ただそのとき、「こんなふうに無言でみんなのことをうらやましく思う気持ちも貞子そのものじゃないのかな」と感じました。とは言え、ここまで大変な役を演じていると、「濃い経験をしているな〜」と思うときはあります(笑)。
そうは言いつつ、井頭さんはNHKの朝ドラ「べっぴんさん」で10代から40代まで演じていますよね。
私が初めて連続ドラマにレギュラーで出演したのが、「べっぴんさん」でした。しゃべり方も10代のハキハキしたところから、だんだんとスピードを落として、最後は自分では考えられないほどゆっくりにしました。そのために撮影が終わってから1カ月くらい、いままでのような口調や速さでしゃべれなかったほどです(笑)。
ありがたいことに、これまでも経験のない中、難しい役を演じさせていただくことがありました。「私にはできない!」と心が折れそうになることもありますが、「べっぴんさん」も「さくらの親子丼2」も出演者に同世代の人が多いので、刺激を受けています。みんなが頑張っているのを見ていると、「私も負けていられない!」と力をもらえるんです。
ところで、井頭さんは貞子ってどんな子だと思いますか?
最初はまったく見えなかったです。(脚本を手掛ける)清水有生さんが「貞子はピュアな子だよ」とおっしゃったので、その言葉を大切に演じました。悪い子ではないだろうし、心が純粋ならリアクションやそのときどきの動きもちょっと大きめなんじゃないか、と考えて。そこから少しずつ、貞子に個性を加えています。今後、貞子はビックリするくらいの変化を遂げるので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。
真矢さんは井頭さんの事務所の先輩ですね。どんな方ですか?
貞子の感じているやすらぎは、真矢さんがさくらさんを演じているからこそだと思います。真矢さんは太陽のようにキラキラと輝いて、現場でも私たち若手を照らしてくださるんです。私たちだけでなく、スタッフさんへの気配り、心配りは大変勉強になるので、女優としてだけでなく、女性としても目標になる方です。
では、井頭さんの女優としての目標は?
演技はいつもと違う自分を発見する場だと思っています。小さい頃から何かの真似をするのが好きで、一人でおままごとをしては何役も演じていたんです。演じることは自分の中で譲れないもの、というか。ずっとお芝居を続けて、その作品ごとにイメージや印象がガラッと変わる“カメレオン女優”と呼ばれるのが目標です。
最近、年の離れた妹が私の出演している作品を見て、演技に興味を持ったようでした。妹にとって憧れの存在でいられるよう、これからも努力しなくちゃ、と改めて思っています。