原因不明の大病で4日間も意識不明が戻らず、医師からは「覚悟してください」と言われた高校球児がいました。しかし、奇跡的とも言える回復を遂げて、今は夏の甲子園を目指して地区大会に出場しています。

 回復のきっかけは仲間の野球部員がスマホに送った「応援歌」でした。

 名古屋市中区の愛産大工業高校。クラスは全員男子、今どき少なくなった男子校です。授業では、工業高校ならではの取り組みも…。

男子生徒:
「野球部で使う、ふるいを作ってます。グランドに砂利や石が多いので」

 クラスメートと一緒に“ふるい”作りをする、3年生の林亮丞(りょうすけ)くん(17)。機械科の一般コースに在籍する野球部員です。

 部員は県内最多の124人。プロ注目のキャプテンをはじめ、有望な選手が集まったこのチームで、林くんもレギュラーを任されています。

 そんな林くんには、ある思いがありました。

林くん:
「仲間の支えでここまで来られたので、仲間に恩返しが出来るようにという気持ちでプレーしています」

■林くんを襲った「ウィルス性脳炎」

 去年9月、林くんを突然襲った40度の高熱。それが数日間も続き、意識を失い救急車で病院へ搬送されました。

林くんの母親・由里子さん:
「病院に運ばれたとき、先生に呼ばれて言われたのが、『お母さんこの状態で運ばれてきたので頭の片隅には覚悟しておいてください』と言われて泣くしかなくて…」

 診断結果は、死に至ることもあるウィルス性脳炎。意識が戻らないまま4日間、救急救命治療室に入り、懸命の処置が施されました。

林くんの母親・由里子さん:
「『先生、とにかく命だけは助けて欲しい』と言って、毎日病院に行って手をさすり、頭をさすり、話しかけても全然こらえてくれないし…」

■意識不明の林くんに届いた“応援歌”

 そんな時、野球部の仲間からある動画が届きました。

(野球部員らが歌っている動画)
「あの空へ あの空で 負けんじゃねぇ 泣くんじゃねぇ 俺が俺であるため…」

 これまで試合のときに歌われていた林くんの応援歌でした。

(同・動画)
「亮丞ファイト!亮丞ファイト!亮丞ファイト!亮丞ファイト!亮丞~~ガンバレ~~!!」

 これを聴かせたら意識が戻るのではと考え、部員が動画で撮影し、お母さんに送ってくれたのです。すると…。

林くんの母親・由里子さん:
「ずっと記憶がないから、何を聞いてもうんうんという感じだったので何か思い出せばと思って、イヤホンを付けたら少し顔がニコッとしたから、野球部の記憶はあるんだと思って。そこはホッとしました。(横にいる林くんに話しかける)聞こえとった?あれ」

林くん:「聞こえとったよ」

 この日、4日ぶりに自発呼吸が戻り、人工呼吸器を外した林くん。この応援歌をひとつのきっかけに、奇跡的な回復をみせていきました。

 その後、仲間のサポートもあり、チームに戻った林くん。一度は諦めかけた野球でしたが、この春に完全復帰し、今ではレギュラーの座をつかみました。病気のときに届いた応援歌は、今でも宝物です。

林くん:
「自分が苦しかったりとか、結果が出なくなったときにあの動画を見て、仲間のために頑張ろうという気持ちになります。今は野球が当たり前のようにやれているので、でも本当は当たり前じゃないので、感謝の気持ちを持って、一戦一戦目の前の相手と戦って目標である日本一になるためにがんばりたいです」

■仲間のために…執念の一打

 そして迎えた愛知県大会の初戦…。

林くんの母親・由里子さん:
「ドキドキですね。無事何もなく終わってくれたらいいのですが。でも勝ってほしいな」

 初戦の相手は、愛知県立小牧高校。6回まで互角の戦いでしたが、1対1で迎えた7回、ワンアウト1塁で林くんが打席に。すると応援席からは…。

(林くんの応援歌)
「あの空へ あの空で 負けんじゃねぇ…」

 病気のときに大きな力を与えてくれた応援歌が野球場に響きました。

 仲間の想いを背負った執念の一打は、センターへのヒット。チームも8回コールドで初戦を突破しました。仲間に支えられ、野球を続けられた林くん。甲子園へ向けて一歩を踏み出しました。

林くんの母親・由里子さん:
「あんな顔は、家であまり見たことがないから嬉しいね。生き生きしている、野球に戻れて良かった。今やれていることが本当にありがたくて。みんなのおかげです。ちょっとでも勝ち進んで欲しいです」

林くん:
「(夏は)絶対に負けられないので、一戦一戦、目の前の敵をしっかり倒していきたいです。絶対に日本一です」