マンガ『毎日やらかしてます。』ちょっと変わったタイトルですが、なんと累計350万部のベストセラー。テーマは「発達障害」です。
脳の発達の関係で人間関係を築くのが苦手だったり、興味や行動が偏っていたりして、まわりから理解されず生きづらさを感じるケースもあります。
「対人関係が築けない」「同じミスを繰り返す」…。ドラマでも取り上げられ、今、社会の関心も高まっている「発達障害」。そんな中、異才の漫画家に注目が集まっています。

「えっ!? 私の車がない!?」
「ひとり暮らしなのに…ドロボー!?どうしよう買ったばっかなのに…」

「とにかくケーサツに電話…」
「……あれ…私たしか朝 車で出かけたよーな…?」
「で スーパーにいって…いろいろ買い物して バスで帰ってきたんだっけ……」

発達障害のある自分の生活ぶりをコミカルに描いた、沖田×華(おきた ばっか)さんのエッセイマンガ「毎日やらかしてます。」シリーズ。2011年の連載スタート以降、累計発行350万部を超える大ヒットを記録しています。
マンガ家・沖田×華さんは39歳の女性。自閉スペクトラム障害、学習障害、注意欠陥/多動性障害と、3つの発達障害があります。
仕事場にお邪魔すると、床に広がっていた書類などを取材班のために部屋の端の方へよけて下さった様子…。実は、発達障害の特徴の一つで、片づけたり整理整頓したりするのが苦手なんです。
ちなみに好きな食べ物は…?
マンガ家・沖田×華さん:
「あっ一応あった、でもこれ辛さレベル3なんですよね…。あんまり辛くない…」
多い時は“週に5回”カップのカレーライスに一味唐辛子やチーズを入れて食べているという沖田さん。こうした偏食も、発達障害の特徴の一つです。
沖田さん:
「んん、うまいっす。週5で食べてるとかアホですよね(笑)」
沖田さんの場合、感覚が過敏なため、日常生活にも影響が…。
沖田さん:
「感覚過敏で下着をほとんど着けることができないので、ブラもしてませんし、パンツも履いてません」
■全部、青い。
さらに、家の中を見回すと、気になることが…。
沖田さん:
「青が好きなので(服が)青いっていうか…全部青い系なんですけど、本当に好きな青とかの服があんまりなくて、これが一番好きな色かな。」
そう、部屋の至るところに「青」、「青」、「青」!
特定の色に過剰なまでのこだわりを持つケースがあるのも発達障害の特徴です。
知人たちも、沖田さんが青好きであることを知っていて、プレゼントをもらうこともありますが、青なら何でもいいわけではなく「サファイアブルー」でなければダメ!

沖田さんには、発達障害ゆえ漫画家として致命的にも思えるハンデがあります。それは…。
沖田さん:
「車を一方向しか描けなくて、車は“横から”しか描けないんです」
マンガを読んでみると、確かに車はどれも横向き。実はこれ、「空間認知」の障害。対象を立体的に描くのが苦手なんです。
色んなものが平ぺったい感じで、それが作風に。今でこそ認知されつつある発達障害ですが、沖田さんが小さいころは辛い思いもたくさんしました。
沖田さん:
「小学校に入学して、1学期の夏休みに昔で言う特別学級に行くように勧められました。宿題は毎日忘れてくる、ひどい時にはランドセル忘れて学校にくるとか(笑) 周りが自分をどう思ってるかがわからないっていうか、自分がやりたいことをやって、何でみんな遠巻きに引いてるのかなっていうのも10代とか子供のころは分かりませんでした」
看護系の学科がある高校に進み、その後、看護師として5年ほど働きました。ちなみに、成人式でも振袖はもちろん青…。
さらに名古屋の風俗店に勤めるなど紆余曲折を経て、2008年に漫画家としてデビューしました。
■担当編集者「天性のセンス」
取材中、沖田さんの仕事場に一人の女性が…。ネームと呼ばれるマンガの“構成”を見ています。
沖田さん:
「担当の花沢さんです、ずいぶん長い付き合いで…」
沖田さんの作品の中に「H沢」さんとして度々登場、8年前からずっと担当している編集者・花沢亜希子さんです。
ぶんか社 編集者・花沢亜希子さん:
「(初めて作品を見た時は)ホントにびっくりして…」
沖田さん:「絵は汚かったですか?」
花沢さん:
「そうですね……汚くはないですね、個性的(笑)。ネーム(マンガの構成)がとにかくこの人うまいなと思って。すごく心に入ってくるんですよね。専門学校で勉強したわけでも何でもないのに、「この話の中でこれを伝えたい」っていうのが一番描ける人。“天性のセンス”なんだと思うんですけど、『すごい心に響くものがあるなこの人は』って」
沖田さん:
「そうですかね…(笑)まったく考えたことない」
発達障害の人の中には、簡単なことが苦手な一方で、別の面では類い稀な才能を発揮するケースも多いんです。
沖田さんの場合、他のマンガ家が1日はかかるネーム作業も、わずか1時間でできてしまうといいます。


一方で苦手だったのが、対人関係。そのためのオリジナルマニュアルがこのノート!
「担当とは!! 友達ではありません 仕事上 仕方なく私と話していることをおぼえましょう」
独立したマンガ家といえども、付き合いは不可欠。こんな風にして、担当の編集者とうまくコミュニケーションがとれるよう、地道に努力してきました。
沖田さん:
「当然、花沢さんも担当異動があるんですよね。その時、私泣き叫んで「なんでー!?一緒にいてよ!」みたいな(笑) 普通だったらしょうがないからバイバイって去っていくけど、花沢さんはそうしなかった。どれだけしんどくても8年間も一緒にいてくれたから、私の一部みたいな感じですね。(左肩をさわって)ここらへんが花沢さんみたいな(笑) いなくなるなんて考えられない、そういう存在なんです」

■「読者の人生が苦しくなくなれば…」
こんな風に深い信頼関係が築けたのは3年前の誕生日の「ある発見」がきっかけでした。
15年以上交際している彼氏がプレゼントしてくれた財布…。沖田さんの大好きなサファイアブルーを、必死に探した末に見つけた「微妙な青」でしたが…。
沖田さん:
「青のこだわりがどうでもよくなった。初めて、人が自分にしてくれてる気持ちがうれしいって。(彼は)この財布見つけるまですごい探してるんですよ、1週間くらい。仕事忙しいんですけど、終わった合間に探してそれで選んだのがコレだったんですよね。今までになかった感情ですよね。なんか心がジュワ~ってあったかくなるっていうか」

それ以来、相手のことをもっと分かりたいと思うようになり、人に対してやさしく接することができるようになったそうです。
沖田さん:
「私の本を見て、すごく親が理解してくれたりとか、自分が助かったりとか、前向きなファンレターをもらえるようになったんです。自分が今、生きづらさで困ってることがあるとしたら、もしかしたら発達障害があるかもしれないよっていう本だから、それで読者さんの人生とかが苦しくなくなればいいかなって思います」