創業は『昭和10年』…。
和菓子店から始まった名古屋の喫茶店が、10月15日に閉店することになりました。
結婚50年で大きな決断をしたマスターの1日に密着すると、店は彼の、そしてお客さんたちの愛であふれていました。

■徹底的な“気配り”
名古屋市瑞穂区。名鉄堀田駅の東にあるのが純喫茶「シューカドー」。歴史を感じる外観ですが、お店の中に入ると、やはり造りは“レトロ”の一言。
昭和10年創業で1階と半地下、そして2階を合わせると席数はおよそ60。伊勢湾の後、昭和37年に建てられた店は今も昭和の雰囲気そのままです。
2代目マスターの渡邊鉅基(きよき)さん、77歳 。
まだ夜明け前の5時過ぎですが、「シューカドー」のカウンターにもう立っていました。

マスター・渡邊さん:
「目覚ましのベルが5時に鳴らしてあるので、だいたいその前に起きるようにしとる」
開店前にコーヒー、ゆで卵60個、ハムサンドを準備します。さらに、毎日欠かさずやっているのが、コーヒーその日最初の一杯を飲むこと。味にブレがないかをチェックするのが日課です。
そして、開店時間の午前7時……ではなく6時にはもうお客さんが店内に。実はマスター、リクエストに応えて早くお店を開けてしまうんです。

朝一で来た男性:
「ご主人は、仕事ぶりが非常に立派だと思います。もう朝からひたすらに仕事している。素晴らしいと思います」
マスター・渡邊さん:
「やっぱりお客さんをにこやかにお迎えする、これが第一ですね」
そんなマスターの接客の様子をよーく見ていると、店にやって来たお客さんを確認するや否や、パンをトースターにセット。注文を聞いていません。
マスター・渡邊さん:
「今の人はジャムトーストで、ホットコーヒー。大体わかるもんで」
さらに、別のお客さんが来ると、コーヒーをカップの半分だけ注ぎます。
“コーヒー半分”のお客さん:
「私、腎臓が悪いもんですから水分制限しておりまして。顔見ただけできちんとやってくれる(笑)」
マスターの、お客さんへの徹底的な気配りです。
■客「座った瞬間、47年前がよぎる」
奥さんと二人、こうして長い間店を切り盛りしていますが、店にはお客さんの飲み物を運んでいる別の女性が…。
飲み物を運んでいた女性:
「昔からの付き合いがあってほっとけないんです。マスターもママさんも大好きだもん。そのまんまの人たちだから」
お客さんがすすんで店のお手伝い。こんなことも「シューカドー」では日常です。
お昼の12時となると、店はランチタイムで大忙し。マスターひとりで次から次へと調理していきます。
メニューは豊富で、なんと100種類以上。一番人気は、熱々の鉄板にケチャップ味のスパゲッティを盛り付けた名古屋名物の『鉄板イタリアン』。サラダも付いて650円です。
お店に歴史があれば、通うお客さんにも歴史が…。
Q.よくいらっしゃるんですか?
女性客:
「1週間に2~3回。47年前から。昔と変わらないの。どこに座っても座った瞬間に47年前がパ~っとよぎってくるんですよ」
さらに店には“60年来”の常連だという2人の男性も。
男性客:
「テレビをここに見に来た覚えがある」
もう一人の男性客:
「まだテレビが無くて、街頭テレビのころ。プロレス中継の日なんかは満席だった」
店内は、そのころの昔懐かしい雰囲気が今も大切に守られているんです。

■「どこも行かず女房とやってきたけど…」
ランチタイムを過ぎても満席状態は続き、午後4時を過ぎたころにマスターはやっと一息。
マスター・渡邊さん:
「は~朝から全然食べとらん。コーヒーとパンだけ」
と言って、和食をパクリ。
好きでやっているとはいえ忙しすぎる毎日、マスターはある“決意”について聞かせてくれました。
マスター・渡邊さん:
「前から考えとったんだけど、どっこも行かずにずっと女房と一緒にずっとやってきたんだけど。もう50年超えたかな?それもあるもんで、ちょっとゆっくりして…ね」
昭和43年に結婚した奥さんと、今年でちょうど50年。2人の時間を大事にしたいと、店を閉めることを決めたのです。
昭和10年創業の「シューカドー」。和菓子店からはじまり、当初は「秀華堂」と漢字表記でした。
やがて喫茶部を開き、今のカタカナに。昭和37年に今の新ビルをオープンさせました。そして10月、先代から受け継いだ83年の歴史に幕を下ろすことに。

この決断には、商店街のメンバーからも惜しむ声が…。
理髪店の男性:
「『シューカドー』さんはシンボルでしょ。無しでは堀田本町商店街は成り立たない」
昔からマスターを知る男性:
「一番肝心な方でね。辞められると商店街どうなるかなと心配しているんですがね。一番しんがりでやっててもらえたもんで」
■大切なのは「健康な生活」
午後5時の「シューカドー」。
この日、夕方になるとお客さんの年齢層が下がっていました。若い女性客はテーブルの「卓上おみくじ」に興味津々のよう。
若い女性客:
「初めて見ました。『ちびまる子ちゃん』とかで見たのかな?“絶滅危惧種”だということは知っていました」
相席の男性の興味はというと…。
男性客:
「『名古屋渋ビル手帖』という本で、このビルかっこいいなと思って、来てみたら本当にかっこよかった」
古い時代のものが新しく映る…。マスターの蝶ネクタイ姿も含め、レトロな空間が若い人たちをひきつけているんです。
一方、別のテーブルの若い女の子たちは…。
女の子:
「インスタで見て来ました」
一緒に来ていた別の女の子:
「めっちゃ近くに住んでるんですけど、インスタで初めて知って行ってみようって」
そう、最近はSNSで知ったというファンも。彼女たちがオーダーしたのは「プリンローヤル」650円。大きなプリンにオレンジ、メロン、バナナなどがてんこ盛り!レトロなメニューも“インスタ映え”です。

店の時計は午後8時40分。
「シューカドー」はこの日、ようやく閉店。マスターは、最後のコーヒーを妻・和代さんへそっと出していました。
夫婦ともに歩んで50年。お客さんへのラストメッセージは…。
マスター・渡邊さん:
「やっぱりお客さんが健康でいらっしゃると、こちらも健康で向かなきゃいかんと。毎日、健康な生活をしていただくとありがたいと思っています」