三重県いなべ市にある大安中学校の吹奏楽部の生徒たち。部員が46人もいる大所帯ですが、今あることが悩みの種に…。
吹奏楽部顧問・嶋田茉莉さん:
「3年生が引退したので少しよくなったんですが、楽器がちょっと足りない状態がありました。あとは、楽器が古くなっていることがあるので困っています」
2年生の女子部員:
「(楽器が)少ない。次に入ってくる子の楽器がない。他の学校から借りてこなければならないです」
楽器が足りないのです…。

インタビューに答えてくれた女子部員が持っていた金管楽器も、先輩から受け継いでいて、あちこちが変形しデコボコに。
中には購入したのが40年前という年代物も。ちなみに3年生が引退した今年8月までは、1本のフルートを2人で共有していました。
今は他の中学校や高校から楽器を借りて、何とか1人1台確保したといいますが、あと半年経って新年度を迎えれば1年生が入ってくるので、今から悩みだといいます。

■ふるさと納税で全国初「楽器」の寄附
この厳しい状況を解消しようと、いなべ市が取り組んだのは『ふるさと納税』の活用でした。
いなべ市政策課・一橋俊介さん:
「ふるさと納税制度を使って、全国で眠っている楽器を寄附していただいて、それに査定額相当分を寄付していただいたものとみなして、それを寄附していただいた方に通知する制度を始めました。10月10日から運用を開始しています」
これまでのふるさと納税では、自治体に寄付をすると、ほぼ同額の住民税などが控除され、さらに自治体からは地元の特産品が届くという形でした。
これをいなべ市では、お金ではなく家庭で使われなくなった楽器を寄附してもらい、それに応じた住民税などが控除されるようにしました。

いなべ市・一橋さん:
「単純にお金をいただいて、楽器購入費に充てるというのではなくて、応援していただいた方がいる、社会的な困りごとに対して背を押してくれる人がいることを、子供たちに知ってもらいたかったんです」
『楽器寄附ふるさと納税』、全国で初めてという楽器を納める制度。専用サイトにクラリネットやフルート、ホルンなど16種類が足りないと掲載すると、受付から1週間で50件ほどの問い合わせがあったといいます。
そして10月18日、今回の仕組みを使って初めての楽器フルートとトランペットが市役所に。早速、楽器を大安中学校の生徒へ届けました。
女子部員:「ありがとうございます」
受け取ったフルートを吹いてみると...。
吹奏楽部顧問・嶋田さん:
「いい音するやん!嬉しいね、ありがとうございます」
今回、フルートを寄附したのは、東京都の70代の男性。メッセージも寄せられていました。
<フルートを寄附した男性より>
「今は押入れの奥に眠っていた古い楽器が、希望に満ちた将来のある中学生の役に立つのであれば、本当に嬉しい限りです。今後の発展を祈っています」
届いたフルートで部員たちは、童謡「ふるさと」を演奏。
女子部員:
「とてもきれいで、吹きやすくていい音が鳴りました」
吹奏楽部顧問・嶋田さん:
「こんな素敵な楽器を贈っていただいたので、大切に使います。自分たちの主催コンサートもするので大切に使いたいです」
地域で困っている人のために役立てたい…。ふるさと納税の仕組みを生かした動きは、ほかにも。
■“使い道”の項目も“使いよう”
今年の夏、40.7度を観測した岐阜県多治見市。取材班が訪ねたのは市内にある市之倉小学校です。
多治見市総務課・田中智さん:
「現在、教室にエアコンはついていませんが、設置される予定になっています」
これまで市内の幼稚園や小中学校の教室に、エアコンは1台もありませんでしたが、早ければ来年度中に設置完了を目指すとしています。
財源を増やすため、市が目を付けたのが『ふるさと納税』でした。
9月、寄附した際の使い道に「エアコンの設置」を新たに設けると、3週間で寄附全体の4割に当たる、約90万円分が「エアコンの設置」のために寄せられました。
多治見市・田中さん:
「驚いています。今は秋ですし、エアコンが必要な夏は過ぎていますが、みなさんの関心が高いと感じています」
高額な返礼品ばかりが注目を集めてきたふるさと納税。「地域のための寄附」という本来の意味での取り組みは今後も広がりそうです。