名古屋市港区の倉庫で、340キロ、末端価格200億円以上という覚醒剤が見つかり、25日には、その一部を所持していたとして台湾出身の男3人が起訴されました。

 そうした覚醒剤などを取り締まる愛知県警の捜査員に密着。彼らはその根絶のために、日夜、地道な捜査を続けていました。

■通称「薬銃」の内偵捜査とは

 マンションの部屋から出てきた女…。

捜査員:
「ごめん警察、警察。○○さんだよね?」

女:「あ、はい」

 取り囲むのは、愛知県警薬物銃器対策課の捜査員。

捜査員:「ガサ状があるんで」
女:
「じゃあどうぞ。いいですよ。もっと早く言ってくださいよ。何もないですよ。全部見てください」

 覚醒剤の密売人とみられています。

捜査員:「13時49分ね、逮捕ね」

女:「え、逮捕なんですか?私」

 最前線で覚醒剤などを取り締まる捜査員に密着しました。

 愛知県警一宮署。会議室に詰めるのは薬物銃器対策課・通称「薬銃」の捜査員です。部下たちを率いるのは波多野芳樹警部。

波多野警部:
「主に尾張地域なんですけど、そこで薬物銃器の取締り、場合によっては各署からの相談がありますので、その対応ですね」

 追うのは、愛知県内に住む40代の男性で、覚醒剤を譲り受けた可能性があるとみています。

 これから行うのは「内偵捜査」。家宅捜索などに向けて、事前に現場や、対象者の行動パターンなどを確認します。

波多野警部:
「明日ですけど、着手、家宅捜索に入りますので、最終確認という事で今日、対象が帰宅して消灯するまでを捜査します」

記者:「内偵の難しい点は?」

波多野警部:
「対象にばれないのと、近所の人に迷惑かけないことで、そこを目立たないようにいかにやるかということですね」

 車でおよそ30分…。男性は、住宅街のアパートに住んでいます。

波多野警部:
「今までの視察から行くといま仕事中だと思います」

 30分後…。

波多野警部:
「違うか?帰って来たんじゃない?」

 買い物袋を手に下げた男性がアパートに帰ってきました。

波多野警部:
「本人に間違いないと(思います)」

 波多野警部の読み通り。確実な入念な内偵捜査が欠かせないのです。

 そして翌日の午前4時…。男性の自宅の捜索に着手します。

波多野警部:
「相手も捕まりたくないという気持ちがありますので、我々に抵抗ということも考えられますので着手の時期が一番緊張するかなと(思います)」

 波多野警部は捜査員らとアパートへ…。

 張り込み開始からおよそ1時間。

波多野警部:
「波多野から各局、対象ドア開けました。ドア開きっぱなし。これより着手着手」

 車から出て玄関に向かう捜査員たち。波多野警部も急ぎます。

捜査員:
「○○さん、おはようございます。警察、ガサ」

 捜査員らは男性の車や室内に覚醒剤などが隠されていないか入念に捜索しました。しかし…。

波多野警部:
「モノ(違法薬物)はなさそうです」

 この日、覚醒剤を含む違法薬物は見つからず、在宅捜査へと切り替わりました。

■「スマホなどで薬物の裾野が…」

 未だに密輸や乱用が後を絶たない覚せい剤。愛知県警は積極的に取り締まりを行っているものの、過去10年間の覚せい剤の所持や使用の検挙件数は減っておらず、1000件余りで推移しています。

愛知県警薬物銃器対策課柴田博夫次長(取材当時):
「主婦だとか学生、こういった方も検挙されていますのでかなり浸透しているのかなと。スマートフォンだとかそういったインターネットの環境が整ってきていますので、手軽に薬物の購入が誰でも可能になってきた、そういうところからどんどん裾野が広がっていっているのではないか」

 前回の家宅捜索から1週間…。

記者:
「あの栄養ドリンクどうしたんですか?」

波多野警部:
「どこかの補佐が差し入れでくれました」

 波多野警部、薬物捜査はおよそ20年の大ベテラン。

記者:
「刑事になったきっかけは?」

波多野警部:
「太陽にほえろですね。あの世代ですので。カッコイイなと思って憧れて」

記者:
「入ってみて違いましたか?」

波多野警部:
「入ってみて変わったのは、2時間で終わらないということですね、あ、1時間か。(ドラマで)5分で終わることがまだ1週間くらいやっとるもんね」

「ドラマ」と違い、現実は地道な捜査の積み重ね。実は波多野警部のチームは、もう一人、覚醒剤の密売人とみられる50代の女の内偵捜査も行っていました。

 愛知県警は今年6月、密売人の男を逮捕。女は男の仲間で、2人から覚醒剤を買ったとされる関係者6人が検挙されています。前回、自宅を捜索した男性は女の関係者の1人でした。今度はこの密売人とみられる女が対象です。

■着手後すぐに警部が覚えた“違和感”

 そして、着手当日…。

波多野警部:
「今日やっと、捜査員のみんなも今日の日を待ち構えていましたので、ケガの無いように、当然対象もですが、検挙できればと思っております」

 今度こそは…。午前11時、女のマンション。対象や周辺の住民に気づかれないようエンジンを止め、女の部屋のドアが開くまで車内でじっと息をひそめます。

 待つことおよそ2時間…。部屋から1人の女が出て来ました。肩ほどの髪。一見普通の主婦のように見えます。そう、この女こそが捜査対象。

捜査員無線:「出ました」

波多野警部:「着手」

 波多野警部の声を合図に一斉に出入り口へ。

女:「びっくりした」

捜査員:「ごめん警察。〇〇でいい?」

女:「はい、なんですか?」

捜査員:
「ガサ状(捜索差押許可状)があるので」

女:「じゃあどうぞ。いいですよ」

 捜査員が、部屋に入ります。テレビやソファが並び、整理された部屋。少し違和感を覚える波多野警部…。令状を見せ、捜索について説明をします。

女:
「何にもないですよ。だから、全部見て下さい、何にもないですから」

 声を荒らげる一方で、女は堂々と受け答え。

女:
「クローゼットとかも開けて下さい。全部見て頂いても結構なので本当に。私だけじゃ維持できないんで、引っ越ししながらと思って整理しています。全部見てもらっていいです」

 覚醒剤を隠していないか…。財布や、クッションカバーの中まで。波多野警部も調べます。

女:
「それゴミです。明日ゴミの日なので」

波多野警部:
「ゴミの中になにかあると思うでしょ」

女:
「何もないけど、見てもらって大丈夫です」

 さらに、薬を小分けにする袋も見つけますが…。

波多野警部:「これ何に使うやつ?」

女:
「それ昨日100均で買ってきたんです。薬を小分けにするやつです」

波多野警部:
「今まで薬小分けにしていた?」

女:
「結構してありますよ。ここに。小分けした薬をしまったんでこういう風に。なんとでも思って頂いても結構ですけど」

 中身はただの内服薬でした。寝室の捜索など合わせて1時間近くに及んだものの…。

電話する波多野警部:
「波多野ですが、結論モノ(違法薬物)はないです。切符(逮捕状)執行しますので」

 覚醒剤などは見つかりませんでした。それでも…。

捜査員:「13時49分ね、逮捕ね」

女「え、逮捕なんですか?私」

「覚せい剤を女から手に入れた」との供述などを複数の関係者から得ていたことから、覚醒剤取締法違反、譲り渡しの容疑で逮捕しました。

 今回、覚醒剤が見つからなかった事について波多野警部は、部屋が片付いていたことや、女の態度から検挙された男らから情報が漏れていたと分析しています。

波多野警部:
「視察の段階では気付かれませんでしたが、捜査が本人に及んでいることは本人に察知されていましたので、今後の課題ですね。すべて片づけられた状況でした。「今後は証拠品の整理をして、通帳とか通話履歴を精査して、まだ関係者がいますので、そこの捜索をしていきたいと思います」

 女は調べに対し容疑を否認していますが、押収した証拠品などから、引き続き捜査を続ける方針です。

 全ては覚醒剤の根絶のために…。