■妻と娘遺し…起業夢見る男性の交通事故死 

 2018年も危険な運転による交通事故が相次ぎました。その犠牲者の遺族は無念の思いを募らせています。

 10月、岐阜県郡上市で起きた事故では、妻と幼い娘と幸せに暮らしていた男性の命が奪われました。事故の原因は、トラック運転手の身勝手であまりに無謀な運転でした。

 岐阜県高山市に住む、岩川まりなさん(34)。この日、3歳の娘・ひなちゃんがクリスマスを待ちわびる姿を優しい目で見つめていました。今年のクリスマスも家族で楽しく迎えられる…はずでした。

 夫の裕之さん(享年31)は、写真の中から妻と幼い娘を見守っています。

岩川まりなさん:
「(夫の会社から)『ご主人が交通事故にあって即死でした』と。顔見るまでは信じたくないと思っていたんですけど、実際に見て本当に主人だと思って…」

 2018年10月18日午後11時45分ごろ、岐阜県郡上市八幡町の対面通行の国道で、裕之さんの運転する乗用車が逆走してきた10トントラックと正面衝突。

 乗用車は運転席がどこかも分からないほどに潰れ、裕之さんは脳挫傷で即死。まだ31歳の若さでした。

 仕事よりも娘のひなちゃんを最優先に考える父親だったという裕之さん。会社員として働きながら、趣味のクライミングで起業する夢に向かって計画を進めている矢先の事故でした。

岩川まりなさん:
「(娘が)いまだに『父ちゃんは?』とか、昨日も『父ちゃんまだー?』って言っていました。(裕之さんの遺体と対面したときは)『父ちゃんがケガしてる…』って。顔にも血が付いていたので、『父ちゃんいたいいたい、ねんねしてる』ってその時は言っていました」

■追い越し禁止の道路で正面から逆走トラックが…

 裕之さんの命を奪った事故の原因は、「追い越し禁止道路での逆走」。

 現場は対面通行の道路で、追い越しは禁止。事故を起こしたトラックは、前のダンプカーに続いて先頭のトラックを追い越そうと対向車線に。裕之さんの車をおよそ100m先に確認しましたが、左側にトラックがいたため、元の車線に戻らず逆方向へ。トラックを避けようとした裕之さんの車と正面衝突しました。

 衝突直前のトラックの速度は制限速度を30キロも上回るおよそ時速80キロで、裕之さんの車は押し戻される形でコンクリートの壁に打ち付けられました。

 警察は、運転していた井原幸夫被告(49)を現行犯逮捕、井原被告は過失運転致死の罪で起訴されました。

岩川まりなさん:
「追い越し禁止のところを追い越して、その行動自体が私には理解ができないし、すごく悔しい気持ちが強いです。過失運転という罪では軽すぎると思います」

 今回の事故の場合、過失運転致死罪での最高刑は懲役7年。最大で懲役20年を科すことができる「危険運転致死罪」は適用されませんでした。裕之さんの父・正治さんも、身勝手な運転で命を奪った行為は、「殺人」と同じだと訴えます。

裕之さんの父・正治さん:
「殺されていますよ。あれを殺人と言わずになんと言うんですか…。危険運転という条項に当てはまらないとすればね、それに匹敵するものであるということを国も警察も裁判所も認めてほしい」

■取材時、加害者「向こうがまっすぐ走ってくればぶつからなかった」

 そして迎えた、12月21日の初公判。まりなさんと正治さんは、被害者として裁判に参加。2人の前で井原被告が口にしたのは、無謀な運転のあきれた理由でした。

井原被告:
「(事故当時は)早く帰って、家で早く寝たいという思いだけでした」

 さらに、「自分は事故を避ける行動をした」と釈明しました。

井原被告:
「ハンドルを左に切って逃げようとしたが、(追い越そうとした)トラックがいたから、右に切るしかなかった」

 しかし裁判前、東海テレビの取材に対しては、こう答えていました。

井原被告:
「起きてしまったもんはしょうがない。こっちが右にハンドル切ってるから、向こうがまっすぐ走ってくればぶつからなかった」

 自分が逆走しているのに、裕之さんが避ければ事故が防げたかのような言い訳…。また裁判では、通常のブレーキよりも早くトラックを減速できる「緊急ブレーキ」を使っていなかったことも明らかになりました。

(裁判で)井原被告の弁護士:
「どうして緊急ブレーキを使わなかったんですか?」

井原被告:
「緊急ブレーキをかけると、自分のトラックがひっくりかえると思った」

 裁判を終えて、法廷をあとにしたまりなさんは…。

岩川まりなさん:
「(井原被告は)本当に自分のことしか考えていないなと思いました。気持ちとしては…20年、30年の懲役で、実刑にしてほしいと思いますが、法律上、限界があると。私の主人を殺してしまったという事実を一生、一生背負っていってほしいです」

 危険運転致死傷罪は、法律の条文では酒や薬物を使用した運転などには適用とされていますが、今回のような交通違反をして事故を起こした場合の規定が明確ではありません。