伊勢神宮内宮近くで大正時代から続く老舗食堂。数年前まで売り上げの管理は、そろばんと手書きの日報でした。しかし、最先端技術の活用で売り上げが大幅アップ。それは『AI』です。

■老舗食堂に起きた「革命」

 伊勢神宮内宮のほど近く。大正元年から続く老舗食堂「ゑびや」。ボタンエビや伊勢真鯛を使った「特製地魚のてこねずし定食」(税別 2580円)や、松阪牛のローストビーフや伊勢うどんを楽しむことができる「お伊勢さんのご馳走定食」(税別 3680円)などが人気。連日、参拝客でにぎわう食堂です。

 その朝礼では、ある数字が発表されます。

店の担当者:
「朝礼を始めます。おはようございます。今日の予測が218名です」

 それは、この日の予測来客数。それだけでなく、売れると予想されるメニューの予測まで…。

店の担当者:
「一番出るのが、特性地魚のてこね寿司、次いで牛丼の並み、小と続きます」

 この日は、「てこね寿司」と「牛丼」が売れる予測だといいます。

■そろばんと手書きから『AI』へ

 ヒミツは厨房にありました。覗いてみると、老舗に似つかわしくない大きなモニター。数字や棒グラフが表示されています。実はこのシステム『AI』を使ったものです。

 システムを作ったのは社長の小田島春樹さん(33)。以前はソフトバンクで働いていましたが、「地方の飲食店の再建」という目標を掲げ、6年前、妻の実家の「ゑびや」にやってきました。

 当時の「ゑびや」はというと…。

小田島さん:
「食券を使って、電卓やそろばんで計算して、よくある観光地の飲食店という感じだった」

 売り上げ管理も紙ベース。当時の日報を見ると、手書きの文字が並びます。客の特徴も手書きです。小田島さんはこの日報をデータ化。

 さらに、天気や伊勢神宮の参拝客数、周辺でのイベント情報など、100以上の項目のデータを収集。そのデータをもとに「来客数」と、売れる「メニュー」などを予測するAI(=「Touch Point BI」)を作りました。

 AIの的中率は…?

小田島さん:
「およそ1年で、予測したお客さんが10万5000人。実際が11万3000人。誤差は8000人です」

 的中率は92.9%。直近1年間は90パーセントを超え、効果は売り上げにも表れています。

 2012年に、1.1億円だった売り上げは今年7月末時点で4.8億円へと4倍以上に。AIの活用に従業員は…。

従業員:
「こちらで備品等を準備するときに、これくらい準備しておけばいいという目安にもなるので、朝の準備の時間の軽減にはなりますね」

Q.キッチン内の利点は?

「必要なところに人を配置できる。牛が忙しかったらそちらにスタッフを配置したりとか」

 開店前の準備時間の短縮や、売れると予測されるメニューに多めに人を配置するなど、効率よく仕事をこなせるようになりました。

■最新技術で生まれる「従業員の余裕」がサービス向上に

 効率化の秘密は店内でも。

「タブレットで注文」は最近よく見る光景ですが、テーブルの端には見慣れない『小さなブロック』が。

従業員:
「お水を上に向けていただくと、お水と反応します」

 水や片付けなど、客が要望にあわせてブロックを倒すと、従業員がテーブルの番号と要望をすぐに把握することができます。

 AIなどを導入した結果、従業員一人当たりの売り上げは1000万円を超え、その分は、給料にも還元しました。

Q.給料は上がりましたか?

従業員:
「上げていただきました(笑) 休みは週休2日で、有給休暇も3週間分ついていまして、それとは別に、夏休み、長期休暇がいただけるんですよ」

 午後4時に食堂は閉店。結果は…。AIの予測を46人超える、264人が来店。一方、売れたメニューは「てこね寿司」と「牛丼」。予測通りでした。

小田島さん:
「予測通りを狙っているわけではなく、僕らは予測を超えた成長をさらにしていきたいと思いながらやっているので、もしかしたら、自分たちの努力によって予測精度は下がる可能性はあります」

 小田島さんが、AIの導入にかけた思い…

小田島さん:
「AIとか機械学習で人を不要にするとよく言ったりすることもあるんですけど、もうちょっと深く考えていくと、100忙しいところを、たとえば機械で80にして、20余力を作る。特にサービス業は、やっぱり人に笑顔をお渡しするビジネスなんですね。
やっぱり笑顔を渡すということは自分が、自分の心と体が満たされていないとできないです。それをやるためには、余裕を作れるようシステムという形で落とし込めないか、という形で取り組んでいます」

【ゑびやのAI=「Touch Point BI」】

ゑびやではこのシステムを導入した結果、手書きの時代と比べて、売り上げは約4.4倍に。売れるメニューが予測できるため食品ロスも減り、米の廃棄量はおよそ4分の1になったといいます。また、スタッフの長期休暇取得率は100%、残業もゼロに。

「Touch Point BI」は、全国の飲食店向けに販売されていて、初期費用が約30万円、月額1万9800円。現時点で予定を含め、約30店ほどの飲食店が導入しています。