■スーパーカーで“規格外”の旅へ…

「百貨店の外商部」というとお得意様の自宅を訪問して宝石や美術品など高級品を販売する…というイメージがありますが、松坂屋が“モノ”だけでなく、スケールも値段も規格外の“新サービス”の提案をスタート。ネット通販の台頭で苦境に立つ百貨店業界。驚きの戦略を取材しました。

 屋根は自動で開き、ドアは翼のようなスポーツカー、マクラーレン570S Spider。

 この夢のような車に試乗しているのは、名古屋市内で歯科医院を経営する夫妻。ディーラーで車を借りて試乗しながら1泊2日の旅に出ます。実はこれ、松坂屋が主に外商の得意客などに案内していた「マクラーレンの試乗ツアー(※去年12月で終了)」なんです。

 最高時速328キロのスーパーカー、値段はなんと3000万円以上。三重県の伊勢志摩までたっぷりとドライブを楽しんだあとは、高級ホテルに宿泊する行程。1泊2日で1人20万円です。

夫:
「いや~速いですよ、もうスーパーカーって感じがしますね」

妻:
「日常で味わえない旅行っていうのが、自分たちで企画していけるようものならいいですけど、なかなかないので企画してくれると乗っかろうって」

 ご夫婦は特別なツアーに大満足といった様子でした。

■松坂屋名古屋店の外商は売上の4割を支える屋台骨

 しかしなぜ百貨店の外商がこんな“規格外のツアー”を提案しているのか、松坂屋・外商担当の野々垣智広さんに聞きました。

松坂屋名古屋店 お得意様営業第2部 野々垣さん:
「今まではブランド商品や、宝石とか時計とか絵画とか、今まであったものの新作といったものの販売が主だったんですけど、これからは商品だけじゃなくて、いろんな共有できるサービスとか、旅行もそうなんですけど、そういった新しい『商品ではないもの』を販売していこうという取組のひとつですね」

 そもそも外商とは、年収などの様々な審査を経て会員となった、富裕層の顧客専門に営業活動を行う部署のこと。ある時は店舗を訪れたお客さんに付き添って買い物をする“専用コンシェルジュに…またある時はお客さんの自宅に商品を運んで訪問販売…。

 松坂屋名古屋店の外商は店の売上のおよそ4割を支える、まさに「屋台骨」です。

 しかし最近は、ネット通販の台頭などにより、百貨店業界は苦難の時代。全国の百貨店売上は下降の一途をたどっています。

 専門家は百貨店の外商について…。

中京大学経済学部 内田俊宏客員教授:
「近年のアベノミクスで富裕層の資産が増加している、所得も2極化しているということで、そうした富裕層を対象にした外商がカギを握ってくると思います。最近ではモノではなくてサービス消費、特に体験型のコト消費と呼ばれるものを中心に、新しいものを提案していく形が百貨店の生き残りの重要な戦略になっていると思います」

「マクラーレンの試乗ツアー」も、松坂屋の外商が打ち出した新たな戦略の一環。モノを売るだけでなく、思い出を作るためのハイクオリティーなサービスを売りだしているんです。

■客のためにオリジナル曲を作り「レコーディング」までするツアーも

 この日、野々垣さんは20年以上の付き合いになるというお客さんのお宅へ。新しいサービスの提案です。

 訪れたのは、三重県いなべ市の整形外科医院。多忙を極める院長の男性は、専ら外商員である野々垣さんを頼って、様々なものを購入してきたそうです。男性は野々垣さんのことを弟のような存在だと話します。

 そして今回、野々垣さんが提案したのは…。

提案をする野々垣さん:
「お母さんのプレゼントにいかがかなと思いまして、松坂屋が新しい企画でお客様自身にオリジナルの曲を、プロの作詞家、作曲家さんが実際に作ってですね…」

「カラオケ好きな85歳のお母さんへのプレゼントに」と勧めたのは、『あなただけの平成ラストソング』と銘打った1泊2日のレコーディングツアー。

 SPEEDの楽曲を編曲した水島康貴さんらが、お客さんの要望をもとにオリジナル曲を制作。東京のスタジオでレコーディングし、プロの歌手気分を味わってもらおうという特別企画。値段はなんと109万円から。プランによっては自分が出演するプロモーションビデオの制作やカラオケ配信もできるそうです。

 プレゼントにモノではなく体験を…と勧めると院長の男性も、「こういうサプライズはしたことがない」と、このツアーを検討することにしました。

松坂屋 野々垣さん:
「ネットとか通販とかいろんなものが台頭しているなかで、百貨店の強みはやはり対面販売なので、お店の中でもそうですし、外に出て外商としてやる時も対面販売になりますけど、『これ好きだな嫌いだな、あなたどう思う、私はこう思う』というやりとりは絶対に対面販売でしかできないことだと思うので、百貨店として新鮮に新しい取組をしながら、最終的には楽しんでいただけるような場所になっていければと思います」

 苦境に立つ百貨店が挽回するカギ、それは長年培ってきた「外商の人間関係と信頼」にあると野々垣さんは考えています。