■同じ洋菓子に見えるのに名前が…

 愛知県のご当地スイーツといえば定番の「ういろう」や「千なり」、“コメダ”のシロノワールなどが全国的に知られています。

 しかし、画像の“四角いスポンジの中に生クリームが入った洋菓子”も、実は愛知県民にとっては馴染み深いものなのです。

 これの名前を愛知県の様々な場所で聞いてみると…?

女性:
「アントルメです」

男性:
「ファンシー!」

別の女性:
「ポワロン?」

さらに別の女性:
「パリジャン!」

 何と、なぜか答えがバラバラ!しかも、味やサイズなども各地で独自の進化を遂げていたのです。

 この不思議なご当地スイーツを調べていくと、愛知の洋菓子の歴史だけでなく、県民性も見えてきました。

■同じ名古屋市内でも名前がバラバラ

 改めて名古屋の街で聞いてみると…。

女性:「ファンシー!」

別の女性:「ファンシー」

 どうやらここでは名前は「ファンシー」のよう、でしたが…。

女性:
「なんだっけあれ…パリジャン!」

別の女性:
「パリジャンですよね。おばあちゃんも好きだし、お母さんも好きだし、私も好き」

 さらに…。

女の子:
「おばあちゃんが買ってきてくれて1週間前に食べました」

 携帯電話で、そのおばあちゃんに名前を聞いてもらうと…?

女の子(電話):
「ばあば、あのさ、急になんだけどさ、フワフワの中に生クリームとかカスタードとか入ってるケーキわかる?あ、『アントルメ』っていうお店の『アントルメ』っていうの…」

 実際にその名古屋市北区の「アントルメ」というお店に行ってみると、確かにありました!まさに同じ形です。

アントルメ・加藤志津子さん:
「うちの名前がつけてあります。創業32年経ちました」

Q.32年前から?
加藤さん:「あります、アントルメ」

 作り方を見せてもらうと、ブレンドした生クリームを、お店で焼き上げたふんわりしっとりのスポンジの上にのせ、丁寧に包んだら完成と、いたってシンプル。

アントルメの女性店員:
「東片端の『ボンボン』にもあると思います。名前は違うと思います」

 名古屋の有名な老舗喫茶、東区の「ボンボン」にもあるということで訪れてみると、この店の商品には栗がのっていて、「マロン」という名前が付けられていました。

「アントルメ」の商品とは微妙に違いますが、基本は同じスタイルです。

ボンボン・岩間浩衣さん:
「私の母が子供のころにはあったっていう…」

Q.そのころからマロンという商品名?

岩間さん:
「だとは思いますけど。気付いた時にはこういう名称であったので」

■観光で名古屋に来た人に聞くと「知らない」連発も…

 名称の謎は深まるばかり…。そもそもこれは「名古屋」のご当地スイーツなんでしょうか?確かめるべく名古屋城で全国からの観光客に聞き込み調査。

Q.このケーキ見たことありますか?

滋賀からの男性:
「いや、ないです、初めて見ました」

男性の妻:「知らんな」

東京からの男性:
「いやぁ ないですね~」

奈良からの女性:「ないです」

奈良からの男性:
「初めてみました。カステラ?」

 1時間ほど聞きこみましたが、知っている人はゼロ。どうやら名古屋のご当地スイーツのようです、と思ったら…。

女性:
「豊橋にもあると思います。『ピレーネ』。みんな食べていると思います。豊橋の人は」

 名古屋から60キロ以上離れた豊橋にも存在するとのこと。名前は「ピレーネ」。

 情報をもとに、豊橋駅のすぐ近くにあるというお菓子屋さん「ボンとらや」を訪れてみると、ありました。しかもこちらは味のバリエーションが豊富。

 さらに「どでかピレーネ」が…。巨大化もしていました。

お客さんの男性:
「小さい時からずっと食べている」

お客さんの女性:
「豊橋の人なら必ず食べた事あると思います。」

お客さんの子供:「ボク大好物!」

 地元で60年近くも愛されてきたというこの「ピレーネ」。豊橋で知らない人はいないというのは本当のようです。

ボンとらや・佐藤泉美さん:
「私も朝ご飯でピレーネとか。小さなころから食べて育ってきたので。」

 ボンとらやの方によると、別の「ボンボヌール」というお店で修行していた人たちが、この形のお菓子を作っているとのことですが、これ以上はわからず…。

■ついに出会った!「考えたのが、うちの父なんです」

 そこで、ご当地グルメに詳しい方に聞いてみることに。

名古屋めし専門料理研究家SWindさん:
「このお菓子、懐かしいですね。私の中ではこれ”ファンシー”なんですけども…結構名前が色々あります。“ピレーネ”とか“チロリヤン”とか“ポワロン”とか“ステラ”とか。あと“パリジャン”」

 なんと名古屋だけでも少なくとも6店舗。愛知県内に広げると10店舗以上と広く分布していることが判明。形はそっくり、でも名前は本当にバラバラなのは一体なぜ?

名古屋めし専門料理研究家SWindさん:
「店の名前がそのままついているケースが多いです。どのお店も相当な思い入れをこの商品に持っているみたいで。大体これを扱っているところは看板商品だったりする。シンプルでごまかしがきかないので、本当に腕を問われます。それもあってそれぞれのお店が、自分のお店の名前を冠した思い入れのある名前を付けたのではないかな。もしくは自分たちの思い入れのある名前を付けたのではないかなと。パリジャンが元祖らしいです。蟹江のお店らしいんですけど…」

 今度は、その蟹江町の「パリジャン」へ。店内のショーケースにはお店の名前と同じ「パリジャン」がありました。

パリジャン・松田和也さん:
「実を言うと、これを考えたのがうちの父なんです。今はなくなってしまった一宮のボンボヌールで工場長をしていて、その時に開発したお菓子です」

 松田さんによると、先代の社長の孝さんが、一宮市にあった「ボンボヌール」で働いていた時に考案したのがこの形のお菓子。

 仲間や弟子たちが独立する際に作り方を教え、それぞれが自由に商品名を付けていったようです。

 しかし、売れている商品を他の人にも教えた理由は…。

松田さん:
「こういうモノを広めたかったんじゃないですか。そういう父だったので。業界が良くなればっていう意味でやったのではないかなと」

 一人の菓子職人の想いによって愛知県内に広がり、それぞれのお店で店名を冠されるようにもなったこの洋菓子。

 愛知の洋菓子文化を支える貴重な存在だったことだけではなく、そこには愛知のモノづくり文化の精神が凝縮されていたことも分かりました。