城下町の風情を残し、愛知県でも観光人気が高い犬山市。ここで54年にわたり愛されてきた「名鉄犬山ホテル」が8月で営業を終えました。犬山城のすぐそばに立つこのホテルは1965年の開業。建物が老朽化したことなどから閉館することになりました。

 様々な思い出が詰まった場所の最終日、半世紀にわたりこのホテルで勤めあげた男性や、重い病に倒れた夫との思い出に結婚式をあげた家族らが最後を見届けました。

■1965年“威信”をかけて作られた「名鉄犬山ホテル」開業54年で閉館

 愛知県犬山市の木曽川のほとり。犬山城を見上げる場所にある一軒のホテル、「名鉄犬山ホテル」。

 犬山ホテルは1965年、昭和40年に名古屋鉄道が威信をかけて建設した洋式ホテルの第1号。

 1968年には皇太子時代の上皇ご夫妻がお泊りになるなど、格式高いホテルとして、長年、地元に親しまれてきました。

 昭和の風情をどことなく残すロビーには開業以来、明かりを灯し続けてきたシャンデリアが…。

 客室は123部屋、300人が泊まれる6階建てのホテルですが、建物の老朽化に伴い、去年閉館することが決まりました。

■「このホテルは私の人生」“半世紀”勤めた元副支配人も最後を見守る

 半世紀にわたるホテルの歴史とともに歩んできた紀藤和裕さんは、去年まで副支配人を務め、定年退職後もシニアアドバイザーに。ホテルの最後を見守ります。

夫婦で訪れた女性:
「(紀藤さんと)話ししとると涙が出る。また縁があったらねどっかでお会いできると思います」
紀藤さん:
「ありがとうございました、本当にお元気で」

 ハウスキーパー、ドアボーイ。下積みを経て最後は副支配人まで務め、ホテルマンとして47年間、お客様をお迎えしてきました。

紀藤さん:
「ロビーが思い出でありますね。一番長く、私の人生、半世紀ここにいましたから。『また来ますよ、ありがとうました』ってお客さまから『ありがとうございました』って、それが一番嬉しかったですね」

男性客:
「あの人(紀藤さん)は名物男です。人から好かれる、ええ男だしね」

別の男性客:
「(紀藤さんは)お客さんの名前みんな覚えてるんだよ、特技でしたよ」

 顔や名前、車のナンバーを覚え、客が名乗る前にもてなす、ホテルマンのこだわりを貫いてきました。

紀藤さん:
「河あり山あり、それから国宝が2つもありますし、これだけ緑あるホテルはほかにないと思います。最高のホテルだと思います。さみしいですね、本当に。私の人生でしたもんね、このホテルは」

 私の人生…紀藤さんもホテルの閉館とともに、ホテルマンを引退します。

■辛くてもやっぱり最後に…1年前に余命数日の夫と挙式した女性

 8月31日、名鉄犬山ホテルの最後の日。ホテルの中庭にあるチャペルは、多くのカップルが結婚式を挙げてきました。

 そのチャペルで記念写真を撮る家族の姿がありました。去年7月にここで結婚式を挙げた坂井実咲さん(26)です。

 家族3人で幸せを確かめるように写った記念写真…この写真を撮った5日後、夫の哲也さんは帰らぬ人となりました。末期の胃がんでした。

実咲さん:
「退院する前日に、もうあと、もっても一日か二日かもしれないから、どうせだったらできなかった結婚式を挙げようって。それで周りの方が前日の夜に走り回ってくださって…」

実咲さんの父:
「急遽、結婚式をっていって、無理にここへ前の日の晩に電話して、普通じゃ無理だよって言われたんですけど、夜の9時ぐらいだったかな。次の日にここを開けてくれるっていう話になって」

 ホテルは事情を聞き、急遽翌日の挙式を準備。夏の日差しが降り注ぐ中、哲也さんと実咲さんは、長女の柚乃(ゆの)ちゃんと一緒に結婚式を挙げました。

 家族と仲間、そしてホテルのスタッフに祝福されたひとときでした。

実咲さん:
「幸せの場所ではあるけど、やっぱり思い出してちょっと辛い場所でもあるのでなかなか足が向かなくて。でもやっぱり最後だから、もう見たくても見られなくなる場所になるのは寂しいので、娘にも見せたいですし。きょうは来れて良かったなと思います」

 幸せと辛さが交錯する場所。犬山ホテルでの挙式の思い出は、実咲さんの胸の中に大事にしまわれています。

 54年の歴史…。それぞれの思い出を胸に最後のお客さんがホテルを後にします。

■「感謝しか言葉がない」名鉄犬山ホテルの最後を見届けた元副支配人

 47年間、ホテルマン一筋で歩んできた紀藤さんも最後のお客様を見送りました。

紀藤さん:
「人生長い間、助けていただいたお客様と別れるというのは本当に寂しい思いが今になってこみあげてきましたね。47年間お世話になりました、半世紀ですもんね。感謝しか言葉がないですね」

 名鉄犬山ホテル…数々の思い出とともに、これからは人々の記憶の中にあり続けます。