味噌カツにあんかけスパゲティ…。名古屋名物=「なごやめし」は数多くありますが、地元で“微妙な立ち位置”とされているのが、実は『エビフライ』。

 いつの間にか、名古屋名物に“させられてしまった”感もあるといいます。エビフライはいつから名古屋名物になったのかを調べました。

■名古屋名物・エビフライ…名古屋人は「実感ない」

 まずは地元・名古屋で聞いてみると?

Q.エビフライは名古屋名物?
男性:
「名物と言われているけれど、実感が無い」

女性:
「名古屋の名物かと言われたらちょっと…」

別の女性:
「名物ではないと思うけれど」

■飲食店にあふれる「エビフライ」メニュー

 エビフライが名古屋名物と言われてもピンとこないという人が多くいました。しかし、「なごやめし」が集まる名古屋駅の地下街「エスカ」へ行ってみると。

 みそかつとのセットや、あんかけスパゲティの上、はたまたカレーうどんやきしめんの中にもエビフライが。味噌カツで知られる「矢場とん」にもエビフライはありました。

 どの店のショーケースにもエビフライ。さらに喫茶店では、しっかり「名古屋名物」と書かれていました。

 調べたところ、エスカの飲食店33店舗のうち、実に半数近くの店でエビフライのメニューが存在していたのです。

 さらに、同じ名古屋駅の地下にある名古屋土産の店でもすぐに発見!『ジャンボエビふりゃ~』。

 キーホルダーに、エビふりゃ~のボールペンまで。やはり、エビフライグッズがありました。

 ちなみに空の玄関口・愛知県常滑市の中部国際空港でも、エビフライを持ったキャラクターグッズなどが売られていました。

 どうやら“観光客”を意識した飲食店や土産物店では、エビフライは完全に名古屋名物扱いのようです。

 しかし、これに名古屋人はどうも納得がいかないようで…。

地元の女性:
「全国にエビフライはあって、特別ではないと思う」

 確かにエビフライは全国で食べられているメニュー。なぜ名古屋?という疑問はぬぐえません。

■実は「クルマエビ」は愛知の“県魚”

 しかし、愛知県のホームページを調べると「愛知県の魚はクルマエビ」と書かれていて、1990年に「県魚」に指定されていたことがわかりました。

 理由は、愛知県の三河湾などが全国有数のエビの漁場のためだといいます。確かにエビフライだけでなく、お土産の定番・坂角の「ゆかり」にもエビが使われているほか、三河地域や知多地域の「えびせんべい」も昔から使われています。

 さらに、名古屋めしの「天むす」や、老舗喫茶コンパルの「エビフライサンド」まで。

 あまり地元では知られていないだけで、愛知は昔から“エビの県”なのかもしれません。

■「エビフライ=名古屋名物」 きっかけはタモリさんの『エビフリャ~』

 “名古屋のエビフライといえばココ”という店、千種区の洋食店「キッチン欧味」。

 名物は「ジャンボ&ジャンボエビフライ定食」。頭なしでも30センチある、巨大なエビフライ2本が皿を占有。ド迫力のメニューです。

 店主にエビフライメニューを始めたきっかけを聞いてみました。

キッチン欧味 大野稔代表:
「柳橋市場で大きなエビが売れ残っていたんですね。要するに規格外で大きいから、どこも使わないと。これは面白いと思って」

 洋食店のオープンは1995年。大野さんの記憶によると、昔はそれほどエビフライが名古屋名物だった記憶はなく、きっかけはある芸能人の発言だといいます。

大野さん:
「タモリさんに、何かの機会の時に『エビフリャ~』と言っていただいて、それからずーっと名古屋名物的に」

■因縁のネタ誕生の秘密、「名古屋国際ホテル」にあった

 果たしてタモリさんとエビフライの関係とは…。「タモリと戦後ニッポン」などの著書で知られるタモリ研究家・近藤正高さんは…?

タモリ研究家 ライター近藤正高さん:
「昔からそうですね、1970年代の終わりから80年代初めくらいにかけて、『名古屋=エビフライ』というイメージを植え付けたのはタモリさんじゃないかなって。たぶん名古屋敵視というか、わりとちょっと差別めいた感じで取り上げていた。当時の名古屋の人からすればちょっと反発を買うようなことをラジオやテレビで色々ネタにしていましたね」

 きっかけはタモリさんということは間違いなさそうですが、エビフライに注目した理由もあったそうです。

タモリ研究家 近藤さん:
「(タモリさんが)80年代くらいに名古屋市内のホテルで、でっかい金のシャチホコを型どったエビを見て…」

 近藤さんによると、名古屋にタモリさんがトークショーで来た際に、ホテルに飾ってあったエビの殻でできた巨大なシャチホコの置物を見たのが、発想のきっかけになったという説が有力だといいます。

 トークショーが行われていた名古屋国際ホテルに行ってみると、確かに伊勢エビの殻や足を大量に使ったエビの巨大オブジェが。今はびっしりと殻が付いた宝船に。

 総支配人にお話を聞くことができました。

名古屋国際ホテル 天木健次 総支配人:
「これは宝船ですが、当時もう1つ(エビでできた)しゃちほこがあったんですね。(製作者は)だいたい100~150匹の伊勢エビを使ったと言っていました」

 確かに30年以上前には、エビの殻でできたしゃちほこが存在していたといいます。さらに…。

天木総支配人:
「タモリ様は私共のクリスマスディナーショーで(ホテルを)使ったことがございまして、その時はもう(しゃちほこの)作品はできていましたので、そのディナーショーでも(エビを)話題にされてお話をしていたという記憶はございます」

 総支配人は当時宴会場のスタッフで、タモリさんはホテルでエビのオブジェを目にしたことで、名古屋人のエビ好きを確信し、ここで、「エビフリャ~」ネタを思いついたのではないかということです。

■コンパルの名物「エビフライサンド」は“タモリさんに乗っかった″

 しかし、本当にこの「エビフリャ~」発言で、名古屋の色んな店がエビフライを出すようになったのか、今度はエビフライサンドが名物の老舗喫茶店・コンパルへ。

Q.タモリさんのネタの影響は?
コンパル 若田秀晴社長:
「もちろんあると思いますよ。(エビフライサンドは)1983年ごろに作りまして」

Q.名古屋ネタのエビフリャーという発言があったからですか?

若田社長:
「そうだと思います。元々エビフライは全国的に洋食屋に行けばあるメニューですから、タモリさんの発言でより一層『名古屋=エビフライ』のような認識をされたと思います。それに乗っかって、私ども作りましたけれどね。ある面では」

 社長がタモリさんの発言に“乗っかって作った”エビフライサンドが名物にまでなったと明かしました。

■その後エビフライメニューが続々…飲食店はジョークを逆手に

名駅地下街のエスカでエビフライを出している店でも聞いてみると…。

きしめん亭4代目 柴山人支さん:
「50年前のおしながきですけども、エビフライはこの時には載っていないです」

 この店も昔から「エビフライ」メニューがあったわけではなく、タモリさんの発言がきっかけだったといいます。

 そして「日本一・特大海老ふりゃ~」と謳う「海老どて食堂」では…。

Q.もしタモリさんがエビフリャ~と言ってなかったら、こちらのお店もなかったかもしれない?

海老どて食堂 林力男さん:
「そうですね。うなぎ屋になっていたかもしれないですね」

 タモリさんの発言を聞いた観光客からエビフライを求められることが増え、各店がメニューとして出すようになったそうです。

矢場とん 畑中芳樹さん:
「うれしいですね。名古屋をそうやって広めてもらったことは。名古屋文化を日本の人たちに広めてくれて頂いているのはすごく嬉しいですし、本当にありがたいと思っています」

 不愉快と思われたジョークを逆手に取り、いつしか「ご当地グルメ」にまで育て上げたという、商魂たくましい名古屋人の底力を知ることができました。

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