愛知県で実の娘に性的暴行を加えた準強制性交の罪に問われていた父親の裁判。一審は父親に無罪判決を言い渡し、フラワーデモと呼ばれる「性暴力をなくそう」と訴える活動が各地で起きるなど波紋を広げていました。

 注目を集めた12日の控訴審。名古屋高裁は懲役10年の逆転有罪判決を言い渡しました。

 プラカードを手に裁判所の前に集まった多くの女性。

 訴えているのは「性暴力の撲滅」。注目の裁判の現場に集まりました。

 過去に性暴力の被害を受けた、あやさん(仮名)もそのうちの1人です。

あやさん:
「自分の経験したことと似ているところもあったので。父から性虐待を受けていたことが、いても立ってもいられないという感じで」


 あやさんをはじめとした女性らを動かしたきっかけ、それはあの「無罪判決」でした。

 2017年、愛知県で父親が当時19歳の実の娘に性的暴行を加えた、準強制性交の罪で起訴されました。

 一審の名古屋地裁岡崎支部は、同意がなく実の娘への性的虐待は認めたものの、父親に言い渡したのは「無罪」。理由について岡崎支部は、過去に抵抗し拒めた時期もあったことなどから「『抗拒不能』な状態にあったとは認定できない」としたのです。

 この耳慣れない「抗拒不能」という言葉。著しく抵抗が困難な状態を意味していて準強制性交罪が成立する要件の一つです。

 一審は父親から性的虐待を受けたものの娘は『抵抗できない状態ではなかった』と判断しました。

あやさん:
「手足が震えるくらい腹が立ちました。そんなこと(性的暴行)を娘にして、無罪になるんだって…」


 高校生まで10年以上にわたり、父親から性的暴行を受けていたというあやさん(仮名)、29歳。無罪判決に衝撃を受けました。

あやさん:
「『本当に抵抗できなかったのか』と聞かれること自体が、そういう質問が社会から出てくること自体が、被害者を苦しめるんじゃないのかなと。責められている気持ちになるんですよね。抵抗できなかった自分が悪いのかな…」

 去年、性被害を巡る事件の無罪判決は岡崎に加え、静岡、そして福岡でも。

 性暴力をなくそうと訴える「フラワーデモ」が各地で開かれ大きな運動になっていきました。

 あやさんも多くの人の前で自らの経験を打ち明け、親からの性暴力に抵抗できない「被害者の立場」を社会に訴えました。

あやさん:
「私も10年間の被害の中で、抵抗することを考えたことはありました。でもはっきりやめてと言ったら、父親との関係が悪くなって、進路の相談ができなくなるのではないか。警察に相談したら父親が職を失って、私も家族も生活できなくなるのではないか。私さえ我慢すれば、家族みんなは平穏に過ごせるのではないか。などと考えて抵抗できませんでした」


 迎えた12日の控訴審判決。法廷に被告の父親の姿はありませんでした。

 名古屋高裁は一審判決について「継続的な性的虐待の一環という実態を評価していない」と指摘。

その上で「長年にわたる性的暴行で抵抗する意思を奪い『抗拒不能』抵抗できない状態だったと認められる」として、一審の無罪判決を破棄。

父親に懲役10年の判決を言い渡しました。

 過去、同じように父親から性暴力の被害を受け、支援のため駆けつけたあやさんは…。

あやさん:
「まずホッとしました。抵抗できないことが社会的にも認知されたのかなと、それが裁判の場にも届いたのかなと。本当に少しでも自分の人生を取り戻して、歩いていってもらえたらと願ってやまないです」

 父親による実の娘への性暴力。無罪判決から一転有罪に…。判決を受け、被害を受けた実の娘がコメントを出しました。

<被害を受けた娘>
「『逃げようと思えば逃げられたんじゃないか』そう周りにも言われもしたし…。でも、それができなかった一番の理由は幼少期に暴力を振るわれたからです。怖くてじっと耐え続けるしかありませんでした。私は父を許すことは絶対にできません」

【無罪から逆転有罪となった裁判のポイント】
▼一審の岡崎支部
 実の娘が中学時代から性的虐待を受けていたと認めたものの、過去に抵抗した拒めた時期もあった。
→有罪に必要な「抗拒不能」いわゆる抵抗が困難な状態とするには疑いが残るとして無罪を言い渡す。

▼二審の名古屋高裁
 一審は中学時代からの継続的な性的虐待の一環という実態を評価していないと指摘。
→「長年にわたる性的暴行で抵抗する意思を奪い『抗拒不能』抵抗できない状態だった」と認められるとして懲役10年を言い渡す。