「名もなき家事」という言葉、聞いたことがありますか?
はっきりと名前がつかない家事のことで、例えば、裏返しに脱いだ衣類や靴下をひっくり返す。脱ぎっぱなしの靴を下駄箱に入れる、揃える。トイレットペーパーの補充や交換。などなど、一つ一つは些細なことですが、積もり積もると手間になります。
ハウスメーカーの大和ハウス工業が、共働きの家庭が暮らしやすい家を提案するのにあたって、家事の定義について考えたのがきっかけで3年前に生まれた言葉で、それ以来話題になっています。
■街で聞いたあなたの「名もなき家事」

まずは街で聞いてみました。あなたの「名もなき家事」は?
女性:
「シャンプーとか洗剤とか、そういった詰め替え作業が大嫌いでだいたい旦那に頼んでしまいますけど」
別の女性:
「子供たちの世話の細々としたものとか、朝起こすところから全部始まっている気がします。起こして、幼稚園の準備して、送り出して…」
夫への不満の声も…。
また別の女性:
「(靴下が)丸まっていたり、(洗濯物用の)カゴがそこにあるのに、洗濯機のすぐ下に落ちてたり」

「写真を撮ってLINEで送りました、何もコメントとかもせず写真だけを送って。そうしたら『何これ?』って返ってきたので『落ちてたよ』って。でも直らなかったんですけど(笑)」

冷蔵庫から大きい水のボトルを出したら飲むんですけど、そうしたら普通一連の流れでしまうじゃないですか。

「そうじゃなくて、そのままドンってそこに置いてある、しかもキャップが半閉め」

「何回も言っているんですけど、絶対に直らなくて」
■その種類の多さで本にまで…実際にはどんなものが?

次々出てくる、名もなき家事。こうした主婦の怒りに呼応してか、こんな本も登場しています。『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)。
著者はコピーライターの梅田悟司さん。4か月の育児休業を取得中、その多さに驚き、70の「名もなき家事」にユニークな名前を付けました。

例えば、プラスチック容器とその蓋を正しく組み合わせる家事は『タッパー神経衰弱』。どれも似たような形をしているので、確かにイライラします。

街の女性:
「確かにありますね、どれがどれか分からなくなっちゃんですよ、フタが。面倒くさいなって思って」
洗った食器を棚に戻すのは、『リ・ポジショニング』。これも単純ですが、毎回のことでいちいち手間になります。

街の女性:
「朝、忙しいときに時間がとられるので、なるほどという感じはします。確かに朝5分くらいはとられるので」
この本は、名もなき家事に名前をつけて『見える化』することで、家事を頑張る人にエールを送っています。

また「名もなき家事」は他にも。

「朝、起きたらカーテンを開ける」「町内会の会合への出席」「PTA活動への参加」「食事の献立を考える」「おもちゃなどの片づけ」「風呂や洗面台の排水溝の掃除」などが挙げられます。
■夫は無頓着、妻はイライラ…ミスマッチ解消のアプリも

しかし、こうした名なき家事について、夫は全く無頓着という方も多いようです。
Q.「名もなき家事」という言葉を知っていますか?
夫:「知らないです」
妻:
「分かります、服とか脱ぎっぱなしになっているとちゃんとカゴまで入れてほしいなとは思いますけどね」
夫:
「気を付けます。帰ってきてから仕事の服脱いで、お風呂入るときに持っていこうと思うんですけど、そのままにしちゃったりとか。忘れてる…ですかね」

妻:
「飲んだコップを洗わずにそのまま机の上に置きっぱなしにしてあるとか」
夫:
「耳が痛いですね。特に理由は…今まで無意識にやってたのかもしれないですね」
別の女性:
「夫が捨てたゴミを後で私が仕分けしています。キーってなりますけど、言うことの方が面倒だから、もう言わずにまた私の手間がふえたなと思いながら捨ててます」
妻はイライラ、夫は素知らぬ顔…そこで、こうしたミスマッチを解消するアプリも登場しています。

「Yieto(イエト)」は、家事分担における夫婦間の溝を埋めるために開発されたアプリで、130の家事を項目化し、「見える化」してあります。

例えば、ごみ出しは「各部屋のごみを集めて分別」「ごみを出す」「ごみ箱を洗い、新しいごみ箱をセット」などと、見落としがちな“名もなき家事”も含まれています。

家族の誰がどの家事を分担しているか選択し、入力。

妻は赤、夫は青、2人でする家事は黄色と色分けされていて、家事を分担する量が一目でわかります。

フラップ 代表取締役 小沼さん:
「妻が『夫も意外にやっていくれていた』ということに気がついたりですとか、夫としては自分が知らない名もなき家事とかを、『こんな細かいことを実はやってくれていたんだな』とか、可視化で気づいて頂きたいと思いました」
このアプリを実際に試してみたらどうなるか?愛知県小牧市にお住まいのご夫婦にお願いしました。保育園に通う2人の子供がいる4人家族で、共働きです。

1週間前に入力した結果をみせてもらうと、ご主人も積極的に家事をしているようですが…。
夫:
「結構やってきたつもりではいるんだけど、妻のほうが多い…」

アプリを使って見て気づいたことを聞いてみると…?
夫:
「家事だと思ってないことが多かったですね。子供の衣類の購入とか、子供の準備とか食べさせるとか。トイレのタオルの交換とかも、当たり前のことだけど家事だとは思ってなくて」
以前は、奥さんから名もなき家事を頼まれると…。
夫:
「やるやる、って言ってやらない、あまりやってこなかった。面倒くさい。そこにテレビがあるしゲームもあるし、スマホのゲームもあるし、そっちにいっちゃう。男の人は大体そうだと思います。ハイハイって終わり、聞いてないし、頭に入ってない」
と本音もポロリ。
妻:
「こっちもやっぱり自分がやったほうが早いからっていうのがあって、後でやればいいなっていうのがあったんですけど、でも二人できればそれに越したことはない」
夫:「早いですね」
そこで夫婦で家事分担を見直して再び入力すると、結果は2人でする家事が18個も増えました。

「コンロの掃除をする」「子どもに手洗いうがいをさせる」などは、新たに夫が担当することに。

妻:
「もっと(2人でやる家事を)増やしたいよね、ここまできたらね」
夫:「お互いにね…」
■“片付けのプロ”は「名もなき家事」を仕組み化

しかし、このケースはあくまで夫が積極的に協力してくれる場合。「うちの亭主はグータラだから…」、そう思っている人もいませんか?
「片付けのプロ」はどうしているのか、愛知県岡崎市在住の香村薫さんに話を聞きました。
香村さん:
「名もなき家事って、なくすことはそんなに難しいことではないんです。『仕組み』を作ればいいんです」
『仕組みを作る』…例えば、よくありがちな「裏返しの衣類、靴下をひっくり返す作業」で考えます。
香村家では、裏返しのままの衣類はそのまま洗って収納。履く時に自分でやってもらうという方法です。これなら、表に返す手間も省けます。

夫のスポーツウェアもシワにならない素材なら、あえてたたむ必要もなしという考え方。ちょっとしたことですが、十分時短につながったといいます。

続いては「玄関でぬぎっぱなしの靴」。香村家の下駄箱では…。

香村さん:
「ポイントのひとつめは靴箱を開けっ放しにするということです」
扉が閉まっていると、それだけでしまうのが億劫になりがちなので、あえて開けておく。これだけで違うそうです。

また下駄箱の中に名前シールを貼って、学校の下駄箱のように戻す場所が「見える化」されていました。さらに、下駄箱の中にスリッパをしまえば、靴と入れ替えるだけ。自然と片付きます。ちょっとしたことで「名もなき家事」は減らすことができます。

香村さん:
「名もなき家事は、誰でもできる単純な作業がものすごく多いんですね。だからひとつひとつをこれは誰がどんな時にやろうってルールを決めることで、名もなき家事じゃなくなって“名前のある家事”にかわります。自分だけじゃなくてお父さんや子供たちにも手伝ってもらえる家事になるかなって思います」
香村さんは、自分がイライラする家事は苦手なものということで、それを家族に苦手だと伝えて、解決方法を相談すると「分担しよう」などと意外に話が進むのではないかとしています。