新型コロナウイルスの感染拡大を受けて広がる、「新しい生活様式」。

 働き方についても、テレワークの拡大が求められ、これまで当たり前に行われてきた「ハンコや名刺交換」も、本当に必要かどうかという議論が起きています。

 ハンコや名刺を扱ってきた業界では、突然の逆風に戸惑う声があがる一方、新しいサービスも生まれています。

■リモートワークなのに“ハンコ出社”…不要論が続々

 日本の職場では欠かすことのできない「ハンコ」。ところが、いまその「ハンコ」がやり玉に。

<SNS上の声>
「ハンコ出社なんて他人事みたいに思っていたら、結局さっきハンコ出社してしまった。取引先の発注書に必要とな」

「緊急事態の中、明日ハンコ押印の儀のために出社します。命をかけてハンコを押すために出社するのです」

 在宅勤務にもかかわらず、書類の決裁や承認で印鑑を押すためだけに、会社へ行かなければならない。そんな「ハンコ出社」を嘆く声が続々と。

 同様の声は街でも…。

男性:
「押し忘れた時に、また戻らないといけない。(Q.リモートワーク中にも?)ありました」

別の男性:
「ハンコは正直、あまり好きじゃない。(Q.ハンコ出社は?)していました。最終的に出す書類に、『ハンコ押してください』と言われてしまって、また会社に行くっていう」

また別の男性:
「(Q.テレワーク中にハンコ出社することについて)それは馬鹿馬鹿しいですね。必要ないかと思います」


■「不思議とともに悲しい…」ハンコ会社は“最大の試練”

 ハンコ文化への疑問。業者はどう受け止めるのでしょうか?

 名古屋市中区の「中日印章」。

中日印章の林克己社長:
「最大の試練を与えられている。『印鑑不要論』みたいな話になって、ネット上なんかだと、輪をかけてどんどん広がっていますもんね、その話が。なぜ急に、こういう印鑑のバッシングがあるのかなっていうことが、不思議とともに本当に悲しいですね」

 業界にとって、まさに急転直下の大逆風。去年は、改元にあわせて作った「平成」の訂正スタンプと、新元号「令和」スタンプが大ヒット。

 ところが、新型コロナの流行で状況は一変。出店しているショッピングモールの休業が大きく響き、4月の売上は前年から6割減りました。

林社長:
「デジタル化の流れは止められないし、時代の流れなのでしょうがないと思う。やっぱりでも、ハンコじゃないとできない方って絶対みえるので、やっぱりその部分では、印鑑は必要だと思うんですよね」

■電子印鑑システム“申し込み10倍”に…手がけたのは“25年”も前

 一方、ハンコ業界大手の「シヤチハタ」。 

 エクスタンパーでおなじみの会社ですが、いま伸びに伸びているのが、「電子印鑑システム」です。

 パソコンやスマホからクラウド上の書類にアクセスし、あらかじめ登録した電子印鑑で捺印します。複数の人が全てオンライン上で捺印できるシステムです。

 誰がいつハンコを押したかや、上書きがあった場合に、どこがどのように変わったかの記録も残るため、なりすましや改ざんも防ぐことができ、社外との取引にも使用されるといいます。

 3月は1万5000件。緊急事態宣言で在宅勤務が広がった4月は、その10倍以上の16万件の新規申し込みがありました。

シヤチハタの担当者:
「業種だとか会社規模だとか問わず、全般的な範囲で問い合わせが来ている。われわれも想像できなかったくらいの数を、今、さばかないといけない状況になっている」


 コロナの時代の大ヒットサービス、しかし、シヤチハタは、1995年から電子印鑑の開発・販売を手がけていました。『近い将来、紙がなくなるのではないか』という危機感からだったといいます。

 実は、電子印鑑の開発は、ウィンドウズ95がブームになった25年も前のこと。パソコンの普及で、ペーパーレス社会が到来すると確信してのことでした。

 ところが、その後『e-Japan戦略』などと政府がどれだけ旗を振っても、電子印鑑はなかなか普及しませんでした。

シヤチハタの担当者:
「今までは準備ができましたよって、いくらアナウンスしても、多くの人は『機会があるときでいいや』って逃してしまっていたと思う。そんなに変化しない、というジレンマのなかで、今回の激変といいますか驚きですよね。こんなに一気に、世の中の体系が変わるというのは、想像していなかったところですね」

■“名刺”もデジタルシフト…業者は「だけど、これいるよねってのがあると思う」

 遅々として進まなかった、日本のビジネスのオンライン化を促した「新型コロナ」。それは、ハンコだけではありません。

 初対面の仕事相手との名刺交換。これも日本独自の仕事文化ですが、感染リスクを減らすため「オンラインで」と呼びかけているのです。

 名刺アプリ「Eight」。オンライン名刺交換のサービスが、5月にリリースされました。

 仕事相手とビデオ会議でつなぐと、QRコードが出現します。

 そのQRコードをスマホで読み取ると、相手の名刺情報が届くというサービスです。

 オンラインの名刺交換について、街の人は…。

女性:
「コロナの状況なので、それも一つの手段かな」

男性:
「それは余計なおせっかいだと思います。そんなところまで、指図してほしくない」

別の女性:
「オンラインでということなので、何かの間違いで流出してしまったりとか、大丈夫なのかな」


 街の声は二分していますが、もっと戸惑っているのが名刺の印刷業者です。

 名古屋市中区の「富士印刷」。

 創業60年。名刺などの事務用印刷物を扱う、従業員10人の町工場です。「名刺オンライン化」の受け止めは…。

富士印刷 崎山社長:
「『いやいや待てよ』という話。われわれ印刷所というのは、名刺というのがメインなので。『それをオンライン化!?はぁ?』って」

 在宅勤務の広まり、会議のオンライン化などの影響はすでにじわじわと。売上は、去年と比べ2割ほど減ったそうです。

崎山社長:
「コロナ後の世界というか、今、テレワークだなんだになって、『だけど、これいるよね』というのがあると思う。そういうもので、オリジナリティのあるものを提案できないかとか。その時代の求めるものを、我々は供給していく。チャンスととらえて、前向きにやっていかないと、ストレスで持ちませんので…」