2018年12月、三重県津市の国道で時速146キロの乗用車でタクシーに衝突し、5人を死傷させた男の裁判の判決が、16日に言い渡されます。男の運転が過失運転より罪が重い、危険運転にあたるのか問われています。

結婚を控え、31歳で亡くなった津市の会社員の大西朗さん。判決を前に遺族らの思いを取材しました。

■友人から愛され、両親の自慢の息子…結婚を目前に突然の事故

大西朗さんの婚約者:
「年明けからどこに住むとか、どういうアパート、住む場所どこにしようかとか。式はいつごろ、どこで、沖縄かなとか、そういう本当に具体的な話をしようと…」

 楽しみにしていた結婚について話す女性。しかし、その相手はもういません。

女性の婚約者は津市の会社員・大西朗さん、当時31歳。一般道を猛スピードで走る車に追突され、6日間生死をさまよい、帰らぬ人となりました。

遺影は女性が撮影した写真です。

 朗さんの母親、まゆみさん。朗さんは「朗らかな子」だったと話します。

朗さんの母親:
「彼女と付き合い始めて初めて御在所へ出かけて、彼女の作ってくれたおにぎりをバクっと食べて、海苔を歯に貼ってニッと見せるんですって。葬儀場のマネージャーさんに『ちょっと、ふざけてますかね?』という感じで聞いたら、もう断トツ一番(良い写真)ですって言っていただいて。『朗』という名前の如く、ホントに朗らかな子でした」


 妹や弟の面倒をよく見る、責任感の強い3人兄弟の長男だった朗さん。

友人からも愛され、両親にとっても自慢の息子でした。

■4人の命を奪った凄惨な事故…法定速度60キロの道路を“146キロで走行”し衝突

 朗さんの命を奪った事故が起きたのは、暮れも押し迫った2018年12月。

事故を起こした車を捉えたドライブレコーダーの映像には、右側の第3車線を、猛スピードで走るベンツが映っています。時速は146キロに。

ベンツはこのあと客を乗せたタクシーと衝突。朗さんはそのタクシーに乗っていました。

4人が死亡、1人が大ケガをしました。

 ベンツを運転していたのは、元IT関連会社の社長・末広雅洋被告(58)。

法定速度60キロの道路を146キロで走行し、タクシーと衝突した「危険運転致死傷罪」に問われています。

当時、朗さんは津市の国道23号線沿いにある飲食店で、勤め先の同僚と忘年会をし、2次会へ向かおうとタクシーに乗車。

タクシーが反対車線に出ようとしていたところ、末広被告の車が右側面に猛スピードで突っ込んできました。一瞬の出来事でした。

 時速140キロを超える速度で走り、事故を起こしたことは、「過失運転」か、それとも「危険運転」か。

朗さんの父親:
「私と嫁さんと妹と弟と…12月29日からみんなで(朗さんが生死をさまよった)6日間はつらかったな。脚が腐って切断せいとかさ。バイクここ(家の前を)通るやろ、朗のことがな」

朗さんの母親:
「バイクでな、通勤しとったもんで、朗が帰ってきたような気がするってね」

■「危険運転」か「過失運転」か…被告は高速運転を繰り返し過去に“8回の事故”

 父・正晃さんは、被告の行為は過失運転致死傷罪ではなく、より罪が重い危険運転致死傷罪が適用されるべきだと考えています。

被告に危険運転の認識はあったのか、これまでの裁判で末広被告は「進行の制御ができなかったと思っていない」として、危険運転致死傷罪は成立しないと主張。

弁護側は「タクシーを直前でよけようとしていた」として、過失運転致死傷罪の適用を主張し、懲役3年6ケ月、執行猶予付きの判決を求めました。

 一方の検察側は、「被告が普段から高速運転を繰り返し、これまでに8回事故を起こしていた」と指摘。「速度が速すぎて車を制御できておらず、危険運転致死傷罪が適用される」として、懲役15年を求刑しています。

朗さんの父親:
「(ドライブレコーダーの)すごいスピードで走っているビデオが裁判で放映されたわけさ。あの人はスピード狂みたいな感じだな。事故が8回とか…あれが社長やったら情けないなとは思ったけどもね」

朗さんの母親:
「危険運転致死傷罪にしてもらって、最高の刑を与えてもらわんことには、これは使命やと思います。そういう風にして亡くなった息子たちの使命やと思います。本当に(スピード超過の死亡事故を)無くしたいから、できるだけ重い刑に処してほしいですね」

過去の判例では、飲酒や薬物の影響がなく直線道路での速度超過による危険運転致死傷の適用は数が少ないのが現状です。

しかし遺族はこのような悲しい事故を2度と起きないよう、危険運転致死傷罪で20年の懲役を望んでいます。

判決は16日、津地裁で言い渡されます。