暑い中でも今年は手放せないのが「マスク」です。着け心地もよく涼しく使える「夏マスク」を取材しました。伝統をいかした、「極上の夏マスク」です。

■「甘い」デザイン?伝統工芸「有松絞り」を施したマスク

 ホイップクリームを絞り出したような、思わず触りたくなるデザイン。7月20日に発売されたばかりの「夏マスク」です。

マスクの端に施されたのは、名古屋が誇る伝統工芸、「有松絞り」。

手掛けたのは、今も絞り工場が立ち並ぶ名古屋市緑区の山上商店です。

3代目の山上正晃さんがこだわったのは、絞りの凹凸の美しさ、コーディネートができるようなマスクにすることです。

 江戸時代から庶民に親しまれ、国の伝統的工芸品にも指定される「有松・鳴海絞」。

布を糸で括って染めあげるデザインは、およそ100種類あります。

そのうちの1つ、生地の根元から突起を作るように糸を巻き上げる「蜘蛛絞り」と呼ばれる技法です。

より絞りの美しさを強調できると、夏マスクにも採用しました。

 およそ100年続く山上さんの商店は、代々有松絞の生地を使った商品を販売していましたが、5年前、現代のファッションにも取り入れてほしいとアパレルブランド「cucuri(ククリ)」を設立。

モダンなデザインが評判となり、名古屋だけでなく東京のデパートからも声がかかるほどの人気ブランドになりました。

ブランドの愛用者から「夏に使えるマスクを」との声も多く、通気性が良くサラサラとした肌触りのポリエステルを使っています。

■「有松絞り」×「浴衣」の夏マスクも製作…木の模様を表現する「杢目(もくめ)絞り」

 さらに今回は男性にも使ってほしいと、男女兼用で浴衣の生地を使った夏マスクを製作。この白地のマスク、よく見てみると木の模様が凹凸で表現されています。「杢目絞り」という技法を取り入れています。

気になる付け心地も、中がガーゼになっていて、口元の肌触りもよく、夏に最適です。

山上社長:
「素材を薄くしたストレッチ素材のものを、夏のほうで展開しようかなと思っています。職人さんたちが一生懸命、括りをやってくれている状況ですので。いろんな人に知ってほしい」


■「エルメス」からオーダー受ける糸メーカー…日本一の毛織物産地の商店が開発したマスクは「最高級シルク」

「伝統」を活かした夏マスクはほかにも。何の変哲もないように見えますが、1日150枚の生産体制を上回る注文が殺到した、人気商品です。

追求したのは『付け心地』。素材のベースは、肌触りを重視して耳にかける部分まで最高級のシルクです。

手掛けたのは、愛知県一宮市にある糸メーカー「長谷川商店」。

一宮は、糸作りから生地が完成するまでのすべての工程を地域でまかなう「尾州産地」と呼ばれる日本一の毛織物の産地。

「長谷川商店」は創業40年ですが、天然繊維を使った糸作りにかけては、『尾州』の中でも一目置かれる存在です。

「エルメス」がオーダーする糸もあり、社長の長谷川さんは糸の加工で他社ではできず、使う人が欲しいとい思うものを作りたいと話します。

 自慢の糸の中から、夏にピッタリの素材を厳選したのが「野蚕(やさん)」と呼ばれ、山で生息する貴重な、天然の蚕から採れる糸です。

長谷川社長:
「非常に高いです、糸値として。(通常のシルクより)5割くらい高いですね。段々、希少になってきている」

一般的な飼育された蚕からとれる糸と比べ、野蚕は太いにも関わらず軽く、伸縮性もあり、紫外線をふせいだり、防臭効果もあります。

できあがったこの夏マスク、形にも快適さの秘密がありました。

■「ヨーロッパでまねできない加工のノウハウ」に自信…今後は「手に取りやすい値段」目指す

一般的な布マスクは平面に作られているため、口にくっつき、呼吸がしづらくなります。

そこで長谷川商店が目指したのは、顔にフィットしながらも口の部分にゆとりを持たせた、立体的な形です。

一役買ったのが、立体的なニット帽子などを編み上げるための、最新の機械です。この機械を使うことで、隙間なくフィットしながらも呼吸がしやすい「立体夏マスク」が完成しました。

編み方と素材にこだわった、尾州ブランドの夏マスクは、肌触りもよく口元に空間があり、夏を乗り切れそうです。

 カラーは、洋服とコーディネートできるようにと、全部で6種類。洗濯して何度も使うことができます。

長谷川社長:
「ヨーロッパでできない糸の加工ノウハウで、今後もいけるんじゃないかな。もっと手に取りやすい値段で使ってもらえるようにしたい。いろんなものに合わせられるようなものを、作っていけたらと思うんですよね」

長谷川商店と山上商店のマスクは、オンラインショップで購入できます。長谷川商店の商品は、一宮市の工場に併設されている直売店でも買うことができるということです。