例年夏の帰省の手土産として人気の涼しいお菓子があります。愛知県半田市にある老舗和菓子店4代目が作る巨峰を使った水まんじゅうです。その丁寧な手仕事に迫りました。

■ほんのり甘酸っぱい夏の味…喉ごしさわやかな期間限定の「巨峰水まんじゅう」

 知多半島産の大粒の巨峰。それを一粒まるごと使った水まんじゅうは見るからに涼やか。口に入れると、つるりと喉ごしが良く、ほんのり甘酸っぱい夏の味です。

 作るのは和菓子職人の平野敬幸さん(70)。地元で採れる果物を使い、他にはない和菓子を作ります。

平野さん:
「素材そのものが美味しいものを使用して、和菓子なので季節感を特に強調して作品を作っております」

素材のおいしさを生かすのは手仕事。巨峰に合わせ、程よく弾力のある生地を練り上げ、他にはない絶妙な食感を生み出します。

■舌も目も楽しませたい…四代目が作る鮮やかな季節の和菓子

 愛知県半田市。かつての町の中心地、本町の一角に構える「丸初製菓本舗」。創業は明治26年。平野さんはその4代目にあたります。

 店先には季節の生菓子など20種類以上が並びます。そのほとんどが平野さんが考案したものです。例えば、「わらびクリーム大福」は夏に食べる冷たい大福として考案。抹茶やイチジクを使ったわらび餅を、ふんわりとした羽二重餅で包みました。

 地元産の果物を使った大福も人気。この時季は、大府産の最高級ぶどう”藤稔”を包んだ大福に、美浜産の朝摘みイチジクを使った大福が並び、舌も目も楽しませてくれます。

女性客:
「わらび抹茶クリーム大福が大好き。これは冷凍しておけばいいから。でもすぐ食べちゃう」

別の女性客:
「フルーツ大福を目当てに来てますね。今年は外に出ることができないと思うので、お家のなかで癒しにでもなればと買いに来ました」


■巨峰の瑞々しさを生かした味を生み出す…その真髄は手仕事

 今年は長引いた梅雨により地元の果物の成長が遅れ、例年通り商品を出せなかったと言います。その1つが、夏限定の「巨峰水まんじゅう」です。しかし地元の農家さんに大粒の美味しいものだけを厳選して持ってきてもらい、ようやく巨峰が揃いました。

 地元産の果物にこだわる平野さんの思いが詰まっている「巨峰水まんじゅう」。まずは一粒ずつ房から外したら、皮を剥きやすくするため、沸騰したお湯で軽く湯通しして冷水に移し、手で一つ一つ皮を剥いていきます。

日が経つときれいに剥けないため、プリプリした新鮮なうちに剥くことが大切で、薄皮が残った方が果汁が出にくくて美味しくなるといいます。

続いてタネと呼ぶ生地作り。巨峰の食感に合わせて、コシが強い奈良・吉野の最高級本葛粉を使います。白ザラメやグラニュー糖、水などと一緒にぶどうの果汁も加えます。

平野さん:
「(生地に)着色とぶどうの味を出したいので果汁を入れてます。(火を入れると)葛が固まってくるので、素早く練り上げる」

つるんとした食感に仕上げるには強火で一気に。焦げ付かないように短時間で練り上げます。しばらくすると葛粉のデンプンにより、徐々にとろみがついてきました。するとここで…。

白いんげんで作った、こし餡を入れました。一般的に水まんじゅうの生地に餡を合わせることはありませんが、これが平野さんのやり方です。食べた時に喉ごしよくぶどうを味わってもらうために、あえて生地に入れるそうです。生地に甘味をつけることで、甘酸っぱい巨峰の味が引き立つといいます。

ここから生地を巨峰の弾力に合わせ、やや硬めに仕上げます。

とろみ具合を見極めるため、手の感覚に集中。火を入れ過ぎれば硬くなり、足りなければコシがなくなります。

平野さん:
「生地の中にどれだけ水分を含ませるか、昔なら勘でやるけど」


程よくとろみが出たら、勘に頼らず秤にかけて、水分の抜け具合を確認します。生地の水分量は食感を大きく左右します。かき混ぜて水分を蒸発させ、目指す重さになるまで微調整します。

平野さん:
「喉ごしに一番重要なのは水分量。美味しいか美味しくないかはそこで差がでる。量っていれば必ず同じ水分量になるので。いつ食べても同じ食感で美味しくいただけるので、わざわざ量っています」


熱を持つうちに手早く専用のお猪口に落とします。半分入れたら巨峰を置き、さらに生地を落として包みます。

平野さん:
「夏菓子ということで、あえて冷凍します。半解凍した時に生地の食感と巨峰の硬さが合うように計算して仕上げてある」

■地域と一緒に繁栄する…地元の果物を使った和菓子で皆を癒したい

 地元の果物を使って、新しい和菓子作りを始めたのは31歳の時でした。

平野さん:
「私が入った頃は、最中や上用まんじゅうしか作っていなかった。何か新しいものを開発しないと生き残れないだろうと、いちご大福を開発しました」

最初に作ったのは、地元の大粒いちごを使った「いちご大福」。売り出すと、すぐ評判に。以来、果物が豊富な知多半島の地の利を生かし、ぶどうやいちじく、柿、みかんなどの季節の大福を作り、さらに夏の和菓子として考案したのが、この「巨峰水まんじゅう」でした。

平野さん:
「せっかく地域に美味しい素材があるので、地域と一緒に繁栄していくことを考えながら作ってます」


 平野さんのこだわりが詰まった「巨峰水まんじゅう」は1つ173円。

冷たくてつるりと喉ごしの良い絶妙な食感が来て、その後からほんのり甘酸っぱい味わいが口に広がります。まさに暑い日にこそ食べたい逸品。

女性客:
「食べ応えがあって、すごくさわやかな味で美味しいです」

男性客:
「夏に送ってあげると、『こんなモノあるの?』と結構喜んでくれるので」

平野さん:
「こんな時期ですので、地域のフルーツを使った色んなものを提供して、少しでも癒しになればと思って、毎日考えてます」