岐阜県中津川市に、江戸時代から続く老舗旅館があります。1棟につき1組限定で風情ある古民家に泊まれるということで人気ですが、ここにもコロナの影響がありました。

■かやぶき屋根の古民家にも“コロナ対策”

 岐阜県中津川市。ここにある老舗旅館「長多喜」。1万坪もある敷地にかやぶき屋根の古民家をはじめ、6棟が点在します。

長多喜 15代目 吉田将也さん:
「こちらは約400年前の古民家を移築した建物になっています。柱と梁を栗の木で作ってあり、“栗の木”で作った“かやぶき屋根”と限定すると岐阜県で1番古いものだそうです」

 江戸時代初期に建てられたという古民家は床を改修してあるものの、囲炉裏に梁に障子など、昔話に出てくる家そのものです。

 古民家が作り出す日本の原風景は、高浜虚子など多くの文人に愛されました。雑木林の向こうには恵那山も望むことができ、名古屋からわずか1時間ちょっとでタイムスリップ気分が味わえます。

 今年の6月、コロナでの休業中に改修しました。

 もともと宿泊は1棟に1組だけ。食事も部屋で取れるため、宿泊客は大浴場以外で他の客と接することはありませんでした。それでもコロナ対策のため、やや雰囲気は変わりますが、さらにユニットバスを付けました。

■上皇陛下も宿泊した築200年の古民家

 さらに築200年前後の料亭を移築した古民家も。上皇陛下が皇太子時代に宿泊された建物だそうです。

 1957年、当時中津川で大きな水害があり、その慰問のため上皇明仁様が皇太子時代に宿泊されました。そのすぐ横には大浴場があります。

 大きな窓の奥には林も広がりこちらも、情緒があります。こうした古民家を修繕する大工さんに話を聞くと…。

修繕を担当する大工:
「こういう、かやぶきの屋根や部屋はもう作れない、もう材料がないんです。それと昔の人の作りは長く持つようになっていますね」


 建物そのものが、とても貴重です。

■1棟を1組で…贅沢尽くしの宿だからこそ大変な維持管理

 かつては中山道中津川宿にありましたが、戦後、主が近隣の古民家を買い集めて今のようなスタイルになりました。

 1棟を1組の宿泊客が利用することから、静かに過ごすことができると、遠くは東京からも訪れる人気の宿です。

 ミニ会席を楽しむ昼のみの利用もできますが、やはりコロナの影響でほとんど稼働していません。

 緊急事態宣言が解除された6月以降、徐々に日本人のお客さんが戻り始めたところにやってきた第2波。その影響で現在はキャンセルが続いているそうです。

 宿を長く支えてきた先々代の妻で大女将の和子さんにも話を聞くと…。

大女将 吉田和子さん:
「一番嫌ですね。人生で一番嫌な時期でした。戦時中は身を守るので大変でしたが、今コロナには中々勝てないですよね。去年まではお客さんにたくさん来ていただいて、『こんないい年はないね』って喜んだぐらいでしたけど、あっという間でしたね」

 コロナの影響で集客は9割減まで落ち込んだといいます。それでも、掃除や維持管理を休むことはできません。6棟に分かれているため、掃除に手間が掛かります。

吉田さん:
「古民家ですと埃とか蜘蛛の巣がよくかかりますので、なるべく毎日掃除するようにしていますね」

 集客が少なく人が雇えず、掃除は15代目の吉田さん自らが担当。古い木も多く、落ち葉が多いため、広い庭の掃除も欠かせません。

■昔話に出てきそう…古民家に魅了され訪れる人たち

 それでも、この日は土曜日とあって2組の宿泊客がいました。

 滋賀県からやって来たというご夫婦に、この宿を選んだ理由を聞くと…。

宿泊客の男性:
「インターネットで見た時に、昔の一軒家を持って来られたと(見て)。大勢集まるようなところじゃなくて、ひっそりとした方がいいなというのもあります」

 混雑する場を避けようと、この宿に決めました。

創業400年を超える老舗の宿でも、コロナ禍で最大の危機を迎えていました。

吉田さん:
「コロナが終息するのが一番です。お客様に安心して不安なく来ていただけることが一番の望みです」

大女将:
「コロナは一刻も早く止めてもらいたいですね。もうすっかりお客さんございませんので。手洗いとか消毒とか、十分に気をつけております。お客さんに万一の事があるといけませんので」

 長多喜は、JR中津川駅からタクシーで5分ほど、車では中央道中津川ICから15分ほどのところです。