名古屋のテレビ塔に、フレンチの名店が1日オープンしました。店舗で料理を彩る陶器の「うつわ」を手がけたのは、愛知県瀬戸市の女性陶芸家。繊細で美しい職人技を取材しました。

 1日、名古屋のテレビ塔にオープンした「グリシーヌ」。名古屋市天白区から移転したフレンチの名店です。

グリシーヌの辻村料理長:
「こちらはディナーのセットになります。松茸やハモを使ったものだったり、キャビア、ブリ、非常に甘みの強いエビを使ったりとか、そういうものを使っております」

 三重県産の秋サバなど、こだわりは“地産地消”ですが、それは食材だけではありません。

辻村料理長:
「コンセプトが地産地消というのがあります。食材だけでなくうつわも使って発信しています。すごいな、こんなうつわがあるんだ、ぜひこれに盛り付けてみたいということでやっています」

 バラの花のような、うつわ。瀬戸市の陶芸作家・柳本美帆さん(45)が手掛けました。

「グリシーヌ」の料理に花を添えるうつわは、繊細な技法で生み出されています。

 窯から出された陶器の釉薬が割れる音…。うつわが冷めるにつれて、模様が浮かび上がります。

柳本さん:
「氷裂貫入という名前がついていまして、その模様から氷が裂けたような貫入が入っているということで、名前がついています。最近はばらの花びらみたいといわれているので、『薔薇貫入』という言い方もします」

 焼くと縮む陶器の特徴を生かした、この技法。縮む割合を見定めるための、土の配合や釉薬の厚みの調節に、繊細な技術が求められます。

柳本さん:
「本当に本当に難しくて、最初のころは窯全滅が当たり前ぐらいな感じで。氷裂貫入の美しさをみんなに見てほしいという理由で作りました」

 大分県で生まれ、愛知県安城市で育った柳本さん。進学した名古屋芸術大学では油絵を学んでいましたが、フランス留学を機に、陶芸家を目指し始めました。

柳本さん:
「(帰国後)日本で陶芸を始めたんですけど、その時は散々好きなことやって親にも迷惑をかけていますし、陶芸で食べていこうとか、そんなことは現実的じゃないと思って。まずは趣味から初めてみようという形で」


 陶芸家を生業にするのは難しく、一度は一般企業に就職しましたが、8年前、陶芸の専門学校に入学。プロの陶芸家となりました。

 柳本さんがフレンチの名店「グリシーヌ」のうつわを手がけることになったきかっけは意外なものでした。

柳本さん:
「フェイスブックに個人ページとは別にアーティストページを持っているんですけど、そちらの方にメールをいただいて、最初ドッキリかなにかだと思って。テレビ塔のお仕事ということになるわけじゃないですか」


 1年前、グリシーヌの料理長が、たまたまネットにアップされていた作品に一目ぼれ、直接新店舗で使う作品を依頼しました。

柳本さん:
「テレビ塔の最初の思い出は、恥ずかしいんですけど、高校生の時にダブルデートで行って。10代のときに憧れていた場所がリニューアルされてホテルとフレンチレストランになって、そこにまさか私のうつわがなんて、本当にうれしいですし感激です」

 名店の料理長が魅せられた、バラ模様のうつわ。「グリシーヌ」で、料理を彩っています。