2020年2月に岐阜県岐阜市にオープンした鰻店「鰻 英(うなぎ・はなぶさ)」の経営者は、イタリア料理のシェフから転身した異色の経歴です。
元イタリアンシェフが作る極上の「うな丼」は、東京の百貨店で開かれたイベントで、1日100食のヒットを記録しました。
うなぎ店の修行は一切しない、タレは継ぎ足さない、常識を覆す型破りの発想で挑戦を続ける、若き主を取材しました。
■あえて継ぎ足さない…常識覆す「1週間で作り替えるタレ」が素材本来のおいしさを引き立てる

JR岐阜駅から北へ車で20分。緑に囲まれた静かな場所に、「鰻 英」はあります。

古民家を改築した、落ちつきがある店内でいただく鰻は多くの美食家の舌をうならせます。

「うな丼(上)」(2700円)は、表面はカリっとしていながらも身はふっくらで、見事なテリが食欲をそそります。

2020年9月、東京新宿の百貨店で開かれた全国の美食を集めたイベントに出店。7日間で669食、毎日約100食が出るほどの人気ぶりでした。

経営者の片野嵩幸さん(32)は、慣れた立ち振る舞いから、鰻や日本料理の腕を磨いたのかと思いきや、イタリア料理のシェフから転身した異色の経歴です。

その味の秘密は、全国から集めた厳選された材料だといいます。

鰻は、脂のノリが良いとされる鹿児島産を使用。焼くのには炭の最高級品・紀州の備長炭。

そして店の味を決めるタレには、完全無農薬で育てた大豆に昔ながらの製法で仕込んだ醤油、地元岐阜で3年熟成させたみりんを使っています。

片野さん:
「タレの味わいは、全く違うアプローチしています。鰻の脂がのってくるほど、脂が蓄積してくるので、重たくなるかなというタイミングで変えます」
蒲焼きのタレといえば、継ぎ足しながら何年も使い続ける店が多い中、片野さんはあえて1週間で作り替えます。

片野さん:
「タレでごまかさない。キレイな醤油、きれいな醸造家たちのものを使って、鰻本来の味わいとして、楽しんでいただける。そこを大事にしますね。生きている素材を大事にしたい」

生きている素材こそが一番と片野さんはいいます。口にした人は…。
男性客:
「今までとは、違った感覚の鰻です。継ぎ足しのタレがくどい時があるけど、それがないのであっさりして食べやすいですね」
女性客:
「他の店では食べたことがないくらい、ふわふわです」

あえて、継ぎ足さないタレだからこそ、鰻のおいしさが引き立ちます。
■“串打ち3年”の世界だからこそ違うアプローチ…イタリア料理店から鰻店へ型破りな発想で挑戦

自動車関連の会社に勤めていた片野さんは、5年前に脱サラし飲食業に身を転じました。

片野さんの型破りな発想の原点は、異国の地で見た何気ない風景。旅行が趣味で、中東にあるドバイに行った時のこと…。

片野さん:
「(現地の)19歳がフェラーリとか高級車に乗ってて、びっくりして。カルチャーショックが起きましたね。“こうだと思ってた”固定概念ですよ。海外だと違ったりするので、自由さの加減であったり」

一念発起して脱サラ。本場イタリアでパスタを学ぶと、岐阜市内にイタリア料理店を開きました。

ところが、その繁盛店をわずか3年で閉めて鰻店に。

しかも、鰻店の修業は一切していないという片野さん。縁のあった福岡の有名寿司店に監修を依頼し、米の炊き方やタレの味付けなど、和食の基本を学んでいきました。

串打ちだけで3年は修業が必要とされる世界ではまさに異色。常識から大きく外れています。

片野さん:
「職人さんの固定概念、そういうところはリスペクトをするんですけど。新しいモノをつくることに対して、チャレンジをしてきている5年なので」

長い修業が必要な世界だからこそ、他と違うアプローチをすればチャンスがある。そんな思いから、この世界へ飛び込みました。
■客「エンタメ強すぎ…でも食べると旨い」…高級食材もふんだんに食材を目の前で見せる料理ショー

そんな彼だからこそ思いついた、おもてなしがありました。1枚板のテーブルをカウンターに見立て、客の前に立ちます。

片野さん:
「佐賀県の夢しずくっていうお米。ご飯の炊きたてを大事にしているので、開けると金色に光っています」

炊き立てのご飯など使う食材を目の前で見せ、その魅力を紹介しながら提供する、ちょっとした料理ショーです。他の鰻店に無いものを目指したら、このスタイルに行きつきました。

懐石料理のコース(1万1000円)には、破天荒なメニューが。白焼きに高級食材キャビアを合わせた「藁焼 鰻の白焼きキャビアのせ」。

しかも、キャビアは1人につき1缶、客が自身で鰻の上に乗せていただきます。

蒲焼きに、トリュフを贅沢に乗せた「鰻の蒲焼 蜂蜜・トリュフかけ」。高級食材をふんだんに使った料理が揃います。サービス精神も破天荒です。

男性客:
「『やりすぎでしょう、エンタメ強すぎじゃないですか』って思いつつ、食べるとうまいって」

多くの人の舌をうならせる絶品の鰻に、高級食材をふんだんに使ったショーのような料理の数々。

それを提供する料理人は、常識にとらわれないやり方で、その先を見据えていました。

片野さん:
「鰻屋やる時に、方向性変えて面白くやっていこうかなという舞台型にしていますね。自由にやって良いよっていう時代になりました。それをみんなに、揺さぶりたいところはありますね」
「鰻 英」は、JR岐阜駅から北へ車で20分のところにあります。