三重県津市で2018年、乗用車でタクシーと衝突事故を起こし、5人を死傷させたとして、懲役7年の判決を受けた男の控訴審が1日、名古屋高裁で始まりました。

 この事故で亡くなった津市の会社員、大西朗さん(当時31)の両親や婚約者はこの日、裁判に臨んだ後、取材に対し、被告への怒りや「危険運転致死傷罪」の適用を強く訴えました。

 事故が起きたのは、2018年12月。津市の国道23号で、ベンツを時速146キロで走らせ、飲食店の駐車場から出てきたタクシーと衝突し、乗客4人を死亡させるなどしたとして、元IT会社社長の末広雅洋被告(58)が危険運転致死傷の罪に問われています。

 一審の津地裁は量刑の軽い「過失運転致死傷罪」を適用、懲役7年の判決を言い渡し、検察側と弁護側の双方が控訴していました。

 1日の控訴審の初公判で、検察側は「制御困難なスピードであることは当然で一審の判決には事実誤認がある」と指摘。危険運転致死傷罪の適用を求めました。

「事故からもう2年。何としても、『危険運転致死傷罪』を勝ち取りたい。それが、遺族の使命」と裁判に臨んだという朗さんの母・まゆみさん(61)。

「あんな無残な形で強制的に(朗さんの人生を)終わらせ、自分がしたことの罪の重さを認めてほしい」という気持ちで背を丸めていた法廷の末広被告を見つめていたといいます。

「本人は即死だった方が楽だったかもしれない」と思いながら、事故に遭ってから亡くなるまでの6日間は、優しかった朗さんが家族や友達に「祈りの時間とお別れの時間をくれたんだなと。本当に頑張ってくれた」と当時を振り返るまゆみさん。

 今後、同じような悲惨な事故が起きないためにも「抑止力になる判決が欲しい。それが亡くなった人たちの意味。本当は一生(刑務所に)入っていて欲しいが、危険運転致死傷罪を勝ち取って皆さんに報告したいと思う」と力を込めました。

 一緒に裁判に臨んだ婚約者の牛場里奈さん(34)は、朗さんが亡くなった直後、集中治療室で1時間ほど2人きりで過ごした時のことを振り返りました。「体が温かいので、起きへんかなって体を揺すったり。その温かさがまだ忘れられていない」。あの日から時間が止まったまま、前に進むことができません。

「今回は危険運転が絶対に適用されて欲しい気持ちで来た」と話し、「末広被告がいくら反省しようが、謝られようが、一生許すつもりはない。朗の人生も、私の人生も返して欲しい。一生許さない。あとは、生きているだけで羨ましいなと思って。私達は結婚して子供産んでと、これからだったのに、この人は捕まっても家族いていいな。私はひとりぼっち。そんな状況でも家族がいるんだなと思った」と怒りを抑えませんでした。

 控訴審の判決は、来年2月12日に言い渡されます。