新型コロナウイルスの感染再拡大で懸念される医療の逼迫。この感染者を受け入れる医療機関の病床数について、愛知県と名古屋市で認識が異なっています。

 愛知県は、速やかに新型コロナの感染者を受け入れられる病床が、県内に900床あると公表しています。このうち名古屋市内は297床ということですが、これに対して名古屋市は、市内の病床数は9日時点で202床だとしています。

 名古屋市の数字では、市内の入院患者は9日時点でおよそ160人なので、名古屋の病床は8割が埋まっているということになります。

 愛知県の数字は、医療機関に対して病床をどれだけ確保できるのかを調査し、積み上げた数字だということですが、コロナ患者の治療に当たっている愛知県がんセンター病院の伊東医師は、「愛知県公表の病床数と有効病床数は違う。医療現場の実態とかけ離れている」と話しています。

 この開きの理由や、なぜ計画人数を受け入れられないかについて、名古屋市の東部医療センターで新型コロナ患者の治療に当たる長谷川千尋医師に実態を聞いたところ、次のような答えでした。

長谷川医師:
「引き受ける患者数は重症患者数から判断している。入院患者が重症化するリスクを考えなければいけない」

 今、入院措置が取られるのは中等症以上か、高齢者あるいは基礎疾患がある人など、医師が入院すべきと判断した患者だけですが、こうした患者は入院中でも一定の割合で重症化するリスクがあるそうです。

 重症者には、人工呼吸器などの器材とそれを操れる医療スタッフが必要になり、まずそれに対する備えができていないと、やみくもに患者を受け入れることはできないということでした。

 もう1点、名古屋市は8日、実態の病床数について今後公表しないと発表しました。その理由は、愛知県から「県全体で入院調整をするので、一地域である名古屋の数字だけを出すと誤解を招く恐れがある」との指摘を受けたから。

 県としては、名古屋市内以外にもコロナ患者を受け入れられる病院があるため、県全体で病床数を見てほしいと言っています。ただ県全体の数字が医療現場の実態を反映しているかどうかには疑問符がつきます。

 県は、名古屋の医療提供体制が逼迫しているという印象を和らげたいのかもしれませんが、実態の数字を踏まえて対策を講じないと、必要な人に医療が届けられなくなる恐れもあります。

 こうした理由から、9日夕方、名古屋市の河村市長は「名古屋市が責任ある数字を出すことは必要」として、8日の発表から一転、今後も市独自の病床数を公表する考えを示しています。