愛知県常滑市の有名フレンチレストランのシェフ、渡辺大佑さんが学校給食に挑戦しました。

 常滑市が新型コロナの影響で学校行事などを諦めた子どもたちに思い出を、と渡辺さんに依頼。特別な給食は、地域の栄養士の手助けも借りながら、4か月かけて完成しました。地元食材を生かした本格的な味に子供たちは笑顔です。

■いつもと違う給食を児童たちに…メニューを考えたのは地元の有名フレンチシェフ

 愛知県常滑市の西浦南小学校。子供たちが楽しみにしている給食の時間ですが、この日は特別です。

女子児童:
「いつもとテイストが違って、すごいおいしい」

男子児童:
「大人の味を感じました」

 美味しいはずです。メニューを考えたのは有名なフレンチのシェフ、渡辺大佑さん(41)です。

 渡辺さんがオーナーシェフを務める「ル・クーリュズ」。名古屋のビストロで腕を磨いたあと、3年前に常滑市にオープンすると、知多半島などでとれた旬の地元食材を使った料理が評判を呼び、人気のフレンチレストランになりました。

 名店のシェフが給食メニューを作った理由は、新型コロナの影響です。楽しみにしていた学校行事が中止になるなど、我慢することが多かった子供たち。そこで常滑市が子どもたちの思い出に残る特別な給食をと、渡辺シェフに白羽の矢を立てました。

 子供たちのために、渡辺さんが考案したメニューは、脂が甘いと評判の知多豚と地元の野菜を酢とはちみつで甘く煮込んだ「知多豚と根菜のビネガー煮込み」。

渡辺さん:
「できるのかなって、相反することが多いので」

■香りを楽しむフレンチとお腹いっぱいにする給食…限られた予算の中 その溝をどう埋めるか

 フレンチの手の込んだメニューを子供たちの給食にアレンジ。まずは学校給食を支える栄養士の皆さんに、渡辺さんの料理を試食してもらいます。

栄養士の女性:
「煮れば煮るほど柔らかくなるんですか」

渡辺さん:
「5時間6時間とか煮るとホロホロになるんで。お肉のサイズ感と野菜の色合いだけで、見た目はなんとかなる。多分、ポイントは酢とハチミツ、ソースのバランスだけだと」


 しかし、味わえば味わうほど…。

別の栄養士の女性:
「これにどこまで近づけるか…。でも近づけたいですね、こんなにおいしいなら」


 味、盛り付け、香りを楽しむ“フレンチ”と、限られた予算でお腹いっぱいにする“給食”との大きな溝を痛感。難しいのは承知の上、栄養士の皆さん、ここからが腕の見せ所です。

■「大きすぎると1年生が噛めない」…フレンチシェフと給食のプロが目指す理想の味、量、大きさとは

 常滑市の南学校給食共同調理場。この日、渡辺さんと栄養士の皆さんで試作品の調理です。メニューが決まればあとは理想に近づけるだけ。全員がこだわったのが今回の主役、知多豚の大きさです。

渡辺さん:
「大きくできるならギリギリ大きいほうがいいですかね」

栄養士の女性:
「あまり大きいと1年生が噛めない、歯がなくて。10g、この大きさでいきます」


 給食は、ナイフとフォークではなく箸やスプーンで食べるため、大きすぎれば食べにくく、小さすぎれば物足りない。給食のプロの経験から、2センチ角がベストと判断しました。

 直径1メートルを超える窯で、香ばしさを出すための焦げ目を作るため、丁寧に焼いていきます。

 肉に焦げ目がついたところで、野菜を入れて煮込んだら、さっそく味見。しかし、肉が硬かったようです…。手早く進めようと、肉と野菜を一緒に煮込んだためです。

 そこで、渡辺さんは肉だけを事前に長くブイヨンで煮込んでおいて、給食の時間が来たら人参など野菜を入れるのが一番いいとアドバイス。肉を柔らかくするために、当初の予定より手間と時間は随分とかかりますが、それも子供たちのため。

渡辺さん:
「だいぶいい。だいぶいいけど、子供的に、はちみつの量が多い方がいいかも」


 どんどん理想に近づいてきました。

渡辺さん:
「限りなく不可能に近いくらい大変なことだけど、子供たちのために、少しでもおいしいものをと皆さんやってくれたので…」

■教室に広がる笑顔…有名シェフが考案した「知多豚と根菜のビネガー煮込み」に子供たちは

 ついにこの日がやって来ました。

給食当番の男子児童:
「これ渡辺シェフのやつ?絶対うまいやん」


 有名フレンチシェフが考案した給食。地元産の豚肉を、蜂蜜と黒酢で甘く煮込んだ「知多豚と根菜のビネガー煮込み」です。

女子児童:
「うまっ、まじうまい」

男子児童:
「初めてこんな味食べて、とてもおいしかったです。作ってくれたシェフに、とても感謝です」


 子供たち、皆笑顔です。

渡辺シェフ:
「よくできてると思います。会話しながら食事もできないし…。いろんな体験事がなくなっている中で、もっと大人が頑張って“見て食べて感じて”そういう体験をさせてあげなきゃいけないなって思います」