師走の名古屋の台所「柳橋中央市場」には、年末年始に人気の伊勢エビや数の子、タラバガニなど、全国各地の新鮮な魚介類が揃います。

 市場でこの時季最も活気があるお店の1つが、マグロを扱う専門店です。例年12月は1年で最もにぎわう時季ですが、今年はコロナ禍で飲食店の集客が厳しく、売上は激減していました。

 そんな中、様々な知恵を絞って年末の大売り出しを迎えるマグロ専門店を取材しました。

■店先で解体したての新鮮なモノを…スーパーでは手に入らないワンランク上のマグロを販売

 名古屋駅のすぐ東、柳橋中央市場にある「マルナカ食品センター」。魚介類のお店以外にも、だし巻卵の専門店に飛騨牛を扱う精肉店など、約50店舗が入ります。この時季に目をひくのは、マグロを扱う店舗です。

 創業40年の鮮魚店「大伸」。市場内の4軒のマグロ専門店の中でも、最も取扱量が大きいお店です。午前6時、大きなマグロが運ばれてきます。

 毎朝、熱田区の中央卸売市場から大きなマグロを数本仕入れて解体。この日仕入れたのは約60キロのキハダマグロです。

大伸の店主:
「今はこの千葉のヤツとかは、赤身だけど脂がのっていておいしいんですよね」

 店先で豪快に解体する光景は市場ならでは。切り分けて2~3キロのブロックで販売します。この日は2キロで約1万円。この時間帯は飲食店やホテルの仕入れ担当者が訪れます。

仕入れの担当者:
「モノがいいです。間違いないと思いますね。今までハズレがないです」

 今年は特に、商売に力が入っていました。

同・店主:
「3月からコロナの影響で10月、11月ちょっと戻ったかなと思ったら、またひどい状態に戻っちゃいましたね」


 去年60店舗入っていた向かいの水産ビルがなくなり、そこの客が流れて来た影響で一時売上が伸びましたが、結局コロナで散々だったと言います。

 午前7時。この時間になると一般客もやって来ます。主に料理人などプロを相手にしますが、一般客向けのパックも用意します。この日はキハダマグロが1パック(約100グラム)500円です。

女性客:
「ここが一番鮮度がよさそうかなと思って。家庭の料理なので値段と新鮮さと比べてちょうどいいかなと」

 土曜日には、和食店や寿司店に売り尽くせなかった「中おち」を、1パック1000円とお値打ちに販売します。

同・店主:
「『スーパーと値段が変わらないね』とか『高いね』と言われるけど、業者さんに売っている値段で一般の方がおいしいものが買えるのが魅力だと思う」

 激安とはいきませんが、ワンランク上の質の良いマグロが手に入ります。

■「量より質を。いいものだけを少しずつ」…主婦が声をかけやすい女性店主が営むマグロ専門店

 そしてもう1軒、マグロの専門店がありました。女性の店主が営む「うお圭」です。ホテルなどの大きな顧客を持つ「大伸」とは違い、主に小売店や一般客を相手にします。

うお圭の店主:
「うちは家庭的な小料理屋さんとか。いいものだけを少しずつ、というお客さんが来てくださっています」

 扱う量では大伸にかないませんが、こちらも質の良さに自信があります。少し時間はかかりますが、鮮度を保つために、注文を受けてから客の要望通りサクに切り分けるのがこだわりです。

 この日は、キハダマグロのサクが100グラムほどで500円。中おちは400グラムほどで1000円。これらを目当てに多くの客が訪れます。

男性客:
「お値打ちにいいものを家で食べたいなと。色々回ってみて、声をかけていただいて買いやすかった」

 女性が店主だけに話かけやすいと、主婦も多く訪れます。店主は「量よりも質をモットーに。うちのマグロを、もう一度食べたいと思ってもらえると嬉しい」と話します。

 午前8時半。この日はどちらの店も全て完売。店じまいです。

■家庭での解凍も簡単…年末の市場では生でなく「冷凍マグロ」がオススメ

 年末を迎え、柳橋市場が1年で最もにぎわうのが「歳末謝恩大売り出し」です。今年も12月27日から大みそかまで予定しています。今年は安心して買い物ができるように、入口での検温にマスクの着用など、感染予防を徹底します。

大伸の店主:
「市場って『いらっしゃい』とか活気があるんですけど、今年はこんな状態なので大きな声は出すなと…」


 そこで活気の良さを事前に録音しておき、当日流す案も…。コロナ禍で、知恵を絞って客を迎えます。

 年末のオススメは「冷凍マグロ」。“お正月にはいいものを”と生のマグロを買いたくなりますが、仕入れによっては値段が上がることも。

 一方、冷凍マグロは年末でも値段が安定しているためオススメです。水揚げされてすぐに瞬間冷凍するので、鮮度は折り紙付き。大伸では注文に応じて切り分けてくれます。

 解凍の仕方は、ボウルに水を張り5分ほど表面を溶かしたあと、自然解凍で良いそうです。

大伸の店主:
「初詣と一緒で、年末市場に来て魚を買うのが家族のイベントになっている方もいるみたいですし、みんなでこの市場が盛り上がるように頑張っていかないと」

 苦労が絶えなかった今年、それでも市場の人たちはがんばって年末を迎えます。