味噌煮込みうどんの名店の1つ、名古屋の「まことや」。愛知県外からも客が訪れる人気店の味を守り続けているのが、2代目の横井宏幸さんです。

 “味が変わった”、“麺の切り方が雑”と客に言われるなど、様々な苦労を経て味を受け継いできた宏幸さんには「代が変わっても先代の味は絶対に変えない」という強い思いがありました。

■「麺は切りたてが一番うまい」…先代から受け継ぐツユによく絡むコシのある麺づくり

 名古屋市昭和区で40年以上続く「まことや」。よく知られる味噌煮込みうどんの名店です。

 コクがありながらもまろやかで後味のいいつゆに、コシはありながらも、もっちりとした麺がクセになります。味噌とのせられた海老天との相性も抜群です。

 名物店主でもあった山本誠さんが生み出し、一代で繁盛店としましたが、10年前に他界。

 現在は二代目の横井宏幸さんと、妻・真由美さんが、その味を守っています。

2代目横井宏幸さん:
「先代の味噌煮込みを、思い出しながら来てくれるお客さんがたくさんいるんですよ。少しでも先代の雰囲気を、伝えられればいいなと」


 午前7時。毎朝決まってこの時間に夫婦揃って店に出ます。宏幸さんはその日に出す麺の仕込みです。機械で練った生地を踏み、コシを出していきます。その生地を薄く伸ばし、切ると思いきや…。

宏幸さん:
「注文が入ってから切るようにしています。先代がよく言っていたのは、“ダシの出したて”、“麺の切りたて”、これが一番うまいって」

 切りたての麺の方が、しっかりとしたコシを持ちながら、伸びにくくつゆによく絡みます。

 真由美さんは海老の天ぷらを揚げ始めました。天ぷらも“揚げたて”ではないのでしょうか。

真由美さん:
「少し冷めたほうが入れたときに、つゆがよく染み込んで、馴染んでおいしくなるんです」

 揚げたてだと、衣がうどんのつゆを吸わないため、開店前に揚げて冷ましておきます。細部までこだわりがあります。

■「口当たりがよくあっさりした味わい」…店内に満ち溢れる味噌煮込みのダシの香り

 開店10分前。店先には既に開店を待つお客さんが。そして開店と同時に店内は賑わいます。もちろんお目当ては「味噌煮込みうどん」。

男性客:
「ちょっと寒くなってきたので…。妻が味噌煮込みが食べたいなって言い出したので」

別の男性客:
「(通い初めて)もう30年以上ですかね。ここのが一番」


 宏幸さんは注文を確認すると、注文が入った分だけ麺を切り分けます。その横では、店特製の味噌をダシで割ったつゆを作ります。このつゆこそが「まことや」の命です。

真由美さん:
「濃口だけだとちょっと辛めの味になってしまうので、まろやかな味にするために2種類。飲んだ後に、えぐ味などを残さないのが秘訣」

 使うのは熟成期間が短く、えぐ味の少ない濃口と薄口の2種類の味噌。混ぜ合わせることで口あたりが良くまろやかな味わいになります。そこへマイルドに仕上げるために生卵を。これは先代・誠さんが考えたテクニックです。

 甘みを出すために、みりんを足したら、鰹節にサバ、アジから取ったダシを加え混ぜ合わせ、まことや特製の味噌を作ります。サバやアジのダシを取ることで、濃厚な味噌の味の後に、あっさりとした魚介の風味が広がります。

 この特製味噌を、味噌を作るときに使った魚介たっぷりのダシでとき、つゆを作ります。ダシの香りが厨房に満ち溢れます。

 火の通りが早い雪平鍋で、つゆと具材を煮込み、沸騰したら麺を入れ、火を通します。土鍋に移し、もうひと煮立ちさせれば、名店まことやの味噌煮込みうどんの完成です。

 一番人気は鶏肉と生卵、さらに海老天を載せた「親子味噌えび」(1240円)です。注文が入ってから切った麺はコシを残しつつ、もっちりとした食感。それに自慢のつゆがよく絡みます。

男性客:
「ダシの味が効いているのがいいかな。割とあっさり食べられる」

別の男性客:
「後味がおいしい。他店に比べると、ダントツでおいしい」

女性客:
「まろやかかな。お父さんは、全部おつゆも飲んじゃう」

 中には、県外から来たという人も。

女性客:
「岡山から来ました。めっちゃ濃いと思っていたんですけど、後味もさっぱりしていて、食べやすくておいしい」

■「この店を終わらせてはいけない」…脱サラし見よう見まねで仕事を覚え義父の味を受け継ぐ

 午後3時。昼時を過ぎても、店内にはお客さんが…。大きな声で接客をする宏幸さん。実はこの接客も先代からの受け売りですが、味や接客スタイルを受け継ぐのには、並々ならぬ苦労がありました。

宏幸さん:
「私の中では、仕事を手伝いながら覚えた意識はあるけど、大将からこうですよとか教えてもらったことは1つもないです」


 元々サラリーマンだった宏幸さん。妻・真由美さんの父である先代の姿やお客の笑顔を見て、この店を終わらせてはいけないと思い、39歳の時に会社を辞め、店を手伝うようになりました。

 11年間、誠さんと一緒に働きましたが、10年前に誠さんが他界してからは、お店の経営とうどんの調理を一手に担うことになりました。

 「どう先代の味を守っていくかを考えながらやっていくのが、一番困った」と話す宏幸さん。客から“味が変わった”、“麺の切り方が雑”などクレームが入った時は、素直に謝る事しかできなかったといいます。

 客に満足してもらうため、先代の仕事ぶりを見よう見まねで覚え、麺を作る時の水や小麦粉の量を毎日メモして研究。試行錯誤を続けた結果、今の味にたどり着きました。絶対にその味を変えない。日々うどんと向きあいます。

 日が暮れても客は絶えません。代は変わっても「まことや」は名古屋指折りの味噌煮込みうどんの名店です。

宏幸さん:
「『20年30年ぶりに来たけど、全然味が変わらないね』って言ってもらえる、一番嬉しいと思います。少しでも先代の雰囲気を伝えられればと思っています」