丸く光沢があり、火を灯すのがもったいないほど美しい、まるで惑星のようなキャンドル。この蝋の独自の模様を生み出すのは、三重県の36歳の蝋工家の職人の技です。

 独自に編み出した手法で作られる、そのオリジナルのキャンドルには、全国から注文が入ります。

■様々な実験を積みかさね…試行錯誤の上に生まれた個性豊かな『キャンドル』

 三重県鈴鹿市。海から近くの所に、アトリエ兼店舗「ワックス ワーク」はあります。

 鉱石をモチーフに、蝋を積み重ねて削りだした「オーア キャンドル」(S1050円 M1850円)や…。

“ジェルワックス”という特殊な蝋を使い、ガラスのように透き通る「クリスタル キャンドル」(1450円)など、個性的なキャンドルが並びます。

女性客:
「どこの角度から見ても柄が違うので、きれいだなと。ステイホームが長かったので、遠方の人に贈ったり…。家から出られないので癒しになったって言ってもらって…」

 これら個性溢れるキャンドルを生み出すのは、蝋で造形物を作る蝋工家の行方兵伍さん(36)です。

行方さん:
「色んな実験して積み重ねた結果、色んな技法ができあがって、それを一つ一つ使ってどんな作品を作るのかっていうのが僕の作り方ですね」

 自身が納得したものしか販売しない、と話す行方さんの代表作が、惑星をモチーフにした「プラネットキャンドル」(M4800円)。

行方さん:
「星を見たり、惑星とか宇宙とか銀河とかの写真を見るのが好きで、心を惹かれるものをキャンドルの中に閉じ込められないかと思って」

■自然に出た柄が絶妙な風合いに…独自の手法で生み出される世界で一つしかないキャンドル

 材料は、“パラフィンワックス”といわれる一般的な白い蝋。まず、これを熱して溶かします。続いて手にしたのは、ドイツから取り寄せた丸い型。

行方さん:
「既製の型があると、みんな同じキャンドルになってしまうので、普通ではやらないようなやり方でないとオリジナルのキャンドルはできあがってこないので」

 行方さんの他の作家とは違う独自の手法とは、型の使い方と色の付け方です。

 まずは、キャンドルに色を付けるためのオイルの染料を作ります。この日は、地球をイメージし、ブルーのベースにバイオレットとイエローとブラウンの4色を用意。青の染料を少し溶けた蝋に混ぜ、海の青となるベースカラーを作ります。残りの3色は、少しだけ棒の先に付けました。これで、準備完了です。

 100度近くまで熱した薄い青になった蝋を型に注ぎ、そこへバイオレットの染料を入れ、型をぐるぐると回し始めました。

 こうすると、温度が下がり固まった蝋が型の内側に貼りつきます。回し方を微妙に変えながら、色の濃い部分と薄い部分を作ります。続いてイエローとブラウンの染料をポツンと付けたら、再び蝋を注ぎ回すことで、色が滲んでいきます。

行方さん:
「雲とかガスとかが、こういう風に流れているだろうとかイメージして、手作業で色や柄をコントロールする。緻密に回すスピードであったり」


 蝋の温度、つける染料の量は、正確に測っているといいますが…。

行方さん:
「どうしても意図しているところ以外に、出てくる自然の模様みたいなもの、コントロールできない部分がオンリーワンにつながっている」

 意図的に濃淡を付けつつも、意図的にならない部分もあり、それが絶妙な風合いを生み出します。気付けば、地球らしくなってきました。柄ができたら、型いっぱいに蝋を詰め、固まるまで置きます。

■趣味で作ったキャンドルがギフトとして喜ばれる…「蝋工家」になるきっかけに

 小さな頃からモノ作りが好きだった行方さん。大学で建築を学び、名古屋市内の設計事務所に入社します。建物の模型を作る毎日は充実していましたが、次第に、ある思いを抱くようになりました。

行方さん:
「建築はいろんな方が関わって初めて完成するんですけど。ずっとどこかに自分1人で完結させたものを作って、それで人に喜んでもらいたいって思いがあった」

 9年前に思い切って脱サラした頃、行きつけのバーに趣味で作ったキャンドルを置いてもらったところ、お世話になった人へのギフトとして買ってくれた人がいたそうです。

 それをきっかけに、蝋工家となりました。日々独自に技法を探求する中で、生まれたものの一つが「プラネットキャンドル」でした。

■気分が落ち込んだ時にリセットの手助けを…独創的なキャンドルで癒される

 丸いキャンドル作りも佳境に。型をはずし、取り出します。

行方さん:
「概ね思った通りに、雲・陸地・海に分かれてくれたって感じですね」


 ここから、ハンダゴテやカッターで表面を滑らかにしていきます。最後に、艶を出したら出来上がりです。
青の染料で海を、塗料を薄くした部分は白い蝋が出て雲を。黄と茶の染料で、陸地を表現しました。

 行方さんの独創性が生み出した「プラネット キャンドル」。火を灯すのがもったいないほどの美しさ。この模様は、2度と作れない一点ものです。行方さんは、気分が落ち込んだ時に少しでも気分をリセットする手助けができればと、自らのキャンドルに思いを込めます。

行方さん:
「自分なりの表現の仕方とか研究成果を出さないことには、作家業として成り立っていないと思っているので。妥協せずに突き詰めたいなというのはありますね」