名古屋市千種区の精肉店に、一度食べたらやみつきになる絶品の焼き豚があります。先代より受け継いだ秘伝のタレに漬け込み、炭火でパリッと焼いた逸品は、50年以上愛される店の看板商品です。

 その噛むごとに溢れでる肉汁、香ばしくてジューシーな絶妙な焼き加減を引き出すのは、77歳の職人の技と勘です。

■味と価格に遠方からも客訪れる…香ばしくジューシーな焼き豚

 名古屋市千種区今池。今池公園の南、繁華街から少し離れたところに「肉の水野」はあります。昭和32年から続き、現在は2代目の水野一郎さんをはじめ、約10人の職人が働きます。

 ショーケースには精肉の他に、手作りのローストビーフやローストポーク、そしてイベリコ豚の角煮など、惣菜も並びます。

 中でも、先代が考案し50年以上続く看板商品が「自家製 炭焼き 焼き豚」(100グラム345円)です。香ばしくてジューシー。味だけでなく、その価格も魅力の遠方からもわざわざ客が訪れる人気商品です。

女性客:
「おうちでも食べるし、お土産にも持って行くしね。美味しいから喜ばれる。よそでは買わん」

別の女性客:
「出来立ての温かいのを、すぐラーメンに乗っけてごらんなさいよ。すごくおいしいですよ。パーフェクトです」


■時代に合わせ客の要望に応える…先代から続く秘伝のタレを“濃いめ”に改良

 その味と製法を守るのが青山吉勝さん(77)。専属で焼き豚を作り、50年以上続く味を守るエキスパートです。

 2代目も絶対の信頼を寄せる、青山さんの焼き豚作り。まずは肉の仕込みから。様々な部位がある中、柔らかくジューシーという、三河豚のもも肉だけを使います。

 脂は多すぎると食感や風味を損なうため、余分なものを取り除きます。包丁でさばき、30分ほどで30本以上に切り分けました。それをタレに漬け込みます。

青山さん:
「タレは企業秘密になるから言えないですけどね。しょうゆベースで他のものが色々と入ります」

 先代が考案した秘伝のタレ。青山さんはこれを2代目と相談し、客の好みに合わせ少しだけ変えました。

水野さん:
「味を濃くしたんですよ。焼き豚のタレをつけての販売を親父が許してくれなかったので、改善するには濃くした方ができるかなと」

 先代の頃は今よりも薄味で、タレを求める客が多くいました。そこで漬け時間を長くし、味を濃くしました。漬け込んだ肉は一晩寝かせます。

■香ばしく焼き上げるために…職人だけが知る絶妙な火加減でじっくり2時間

 翌朝午前6時。炭焼きの準備を始めます。先代から受け継いだ炭焼き用の窯。今では製造されていない年代物です。使う炭は岩手産のナラの木。

青山さん:
「柔らかい炭の方が、火力が一気に上がってくる。先代の時からこの炭。ポイントは火力、一番難しいのが火力」

 しっかりとタレがしみ込んだ肉に、金具を取り付け、窯に吊るします。そこへ、火のついた炭を並べていきます。火柱が立つまで、うちわで風を送ると…。ここから2時間ほどかけて、じっくりと焼きます。

 途中、数十分おきに炭を足し、火力を調整。火力が強すぎれば表面が焦げてしまい、弱いと生焼けに。どれだけ炭を足すかは、長年の経験から得た職人の勘です。焼き上がるまで、細心の注意を払い続けます。

■先代から叩き込まれた“火力こそ焼き豚の命”…体で覚えた熟練の技

 青山さんは中学卒業後、洋食店のコックを経て名古屋市千種区のスーパーで調理を担当しました。その店が閉店となった時、先代の孝四郎さんに誘われ「肉の水野」に入社。その先代が何より力を入れていたのが、焼き豚作りでした。

青山さん:
「先代が朝早くからやってみえて、先代も年をとってきてえらい(辛い)から、『お前さんは板場をやっていた経験があるからやってくれ』ということで」

 先代の手伝いをしながら、当時既に人気商品だった焼き豚作りを体で覚えました。特に指導を受けたのは、やはり…。

青山さん:
「一番印象的だったのは炭の火力。火力ひとつで真っ黒になったり…。まず経験ですね。いきなりはできない」

 やはり火力こそが命。職人だけが知る絶妙な火加減で、肉は香ばしさと、食欲をそそる色をまとっていきます。

■焼き加減は触って確認…自慢の焼き豚は先代から受け継いだ「宝物」

 焼き豚作りもいよいよ佳境。仕上がり具合は、肉を触り指先に伝わる感覚で見極めます。

青山さん:
「熱いけど、自分で触ってみて硬くなっていれば焼けている。柔らかくなっていれば焼けていない」


 焼き続け何十年、やっと触るだけで焼き加減がわかるようになりました。最後に中の焼き上がりを、温度計で確認。

 こんがりと焼きあがった表面に包丁を入れると、あふれ出る肉汁。外はパリっと、中はほんのり赤みを帯びた、絶妙の焼き加減です。

 噛むごとに肉とタレの旨味が広がります。先代の味を受け継ぎつつ、時代に合わせた「肉の水野」の自家製焼き豚は、100グラム345円。大きな1本で1500円前後と価格もお値打ちです。

2代目の水野さん:
「良いものを、うちの父が遺してくれたなと。青山さんがやっているから間違いない。今までそういう風できました」

青山さん:
「先代が必死になってやりあげたことを受け継ぐのは、稀じゃないかと思いますよ。こんなものを受け継がせてもらえたっていうのは。宝物を受け継いだようなものですからね」