名古屋・栄の「ヒサヤオオドオリパーク」に去年オープンした書店「天狼院書店」は、単に書籍が並んでいるだけではありません。

 セミナーの開催や写真や散歩などのサークル活動など、お客さんが参加できる様々な企画があり、さらに店内にはあえて客が長居するようコタツまで置かれているなど、書店の概念をくつがえす仕掛けがありました。

「本のその先の体験までを提供する」。天狼院書店が目指すのは、大人が楽しく遊ぶ書店です。

■他の店と一線を画す書店…カフェスペースには象徴的な『コタツ』を設置

 「天狼院書店」は、2013年に東京・池袋に1店舗目をオープンすると、あっという間に全国に10店舗。電子書籍やネット通販の台頭により厳しい書店業界の中にあって、急成長を遂げています。そして名古屋には去年9月に開店。

女性客:
「イベントとかもされているので、他のところとは違うなと感じます」

他の女性客:
「いろいろな事が学べそうという期待がいっぱいある場所だなと思います」

男性客:
「都会な栄の中で、落ち着いた雰囲気で、子供もゆっくりできる、貴重な場かなと思っています」

 店内に入ると、左側は書籍が並ぶ本棚、右側はカフェスペースとなっています。そこには、コタツが置かれています。書店にコタツを設置したきっかけは創業当時、店に客が全く来なかったため、『ゆっくりしていって下さい』という狙いで置きました。

 一般的な書店では、立読みなどで長居すると煙たがられるイメージですが、天狼院書店では大歓迎。そのためにカフェやコタツを設置。1人ワンドリンク以上を注文すれば、何時間でも利用できます。

■本のジャンル名が「キャッチコピー」に…提案型の陳列棚

 書籍コーナーにも、他の店にはない特徴があります。本棚の上部に掲げられている本のジャンル名。例えば、「美容・ファッション」の棚は、あえて頭に「女子の生き様」と付いていたり、歴史本や時代小説が並ぶ棚には、「歴史と武将」と付いています。棚のジャンル名がキャッチコピーとなり、客に「どんな本があるのだろう」と興味を抱かせるスタイルです。

 「よみぐすり・本の処方箋」というジャンルの棚では、薬のようにその人の症状に合わせた本を提案しています。例えば、寂しい症状の人には、『心があったかくなる』のコーナーの本を。

 青春時代を思い出したい人には、『青春に浸る』コーナーの本を処方しています。

 『恋がしたくなる』コーナーで店長のおすすめの本は、「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。」(著・尾形真理子)です。

 「ふとした瞬間に思い出す恋。それが、試着室で何か着ている時に思い出したら、それは本気の恋」という話を含んだ短編集です。女子高生から50代、60代の女性まで、恋をしたことがある人には「刺さる」本だといいます。

■「日本一話しかける書店」を標榜…客との会話から客のニーズをくみ取る

 また、天狼院書店では「日本一話しかける書店」というスローガンを掲げていて、客とのコミュニケーションを大切にしています。

女性客:
「どんなのがいいか?とお聞きして、面白そうだと適当に買ってみて。自分の意見だと(読む本が)固定してしまうので」

 一般的な書店と違い、スタッフが積極的に声を掛けます。客の好みや要望を聞き、おすすめの本を紹介。こうして会話をすることで、書店としても市場リサーチをしています。

■黒いベールに包まれた秘密の本…店主が人には教えたくない本をタイトルを隠して販売

 更に変わった企画が、店頭に並ぶ黒い本です。黒いカバーでタイトルを隠して販売されているのは『天狼院秘本』です。1か月に30冊以上本を読む「本の虫」という天狼院書店の創業者・三浦崇典さんの考案で、ほれ込みすぎて「本当は教えたくない」と思った本をタイトルを隠して販売しています。

 秘本は、「タイトルは秘密です。返品はできません。他の人には教えないでください」の3つの条件を承諾した客のみが購入できます。

 なお販売されて数年経つと中身が公開され、過去には、伝説の花火師を描いた小説「白菊-shiragiku-」(山崎まゆみ 著)」や、人生のバイブルという人が続出したビジネス書「あたえる人があたえられる」(ボブ・バーグ 著)、4回号泣するという小説「コーヒーが冷めないうちに」(川口俊和 著)など様々なジャンルの本があります。

 中身が分からないワクワク感と、手にしたことがなかったジャンルの本との出会いもあり、人気です。

■「有益な情報全てを『本』と定義」…セミナーなど本のその先の体験を提供

 既成概念をくつがえす仕掛けで他の書店と一線を画す天狼院書店には、もう1つ大きな特徴があります。それは、本棚が並ぶスペースで定期的に開催されるセミナーです。

 セミナーが始まると、書籍コーナーには受講者以外、普通に本の購入に来た客も入れません。書店なのに、書籍コーナーに客が入れない。一般的な書店では考えられない画期的なことです。

 この日は「マーケティング講座」が開かれていました。

セミナーの女性受講者:
「マーケティングゼミとかって、通常受けると何か月、何十万もかかってというイメージがあったけど、ここだと8回受けても数万円。すごく受けやすいお値段で提供されていたので」

 比較的リーズナブルに短期間で学べることが評判で、他にもブログなどへの分かりやすく、注目されやすい文章の書き方が学べる「ライティング・ゼミ」や、写真を撮りながら市内を散歩する、サークル活動のような「名古屋フォト散歩」など様々です。

 なぜ書店が、セミナーやサークル活動を企画しているのでしょうか?

天狼院書店の店長:
「天狼院の裏ルールで、3人の人(客)が『これやって欲しい』と言ったら、叶えなきゃいけないっていうルールなんです」

 3人以上の客から寄せられた要望は実現する。様々なセミナーやサークル活動も客のニーズから生まれました。

同・店長:
「天狼院は、書籍だけに捕らわれていなくて、有益な情報すべてを本として定義をしているんです」


 書籍の先にある様々なイベントや体験も有益な情報として、本の1つ。あえて書店の枠を超えて客と一緒に企画を作り上げる。それが、厳しい書店業界の中でも躍進する「天狼院書店」の原動力です。

同・店長:
「天狼院書店って『人生を変える書店』だって言われているんですね。多くのお客様に少しでも『人生が変わった』と思ってもらえるような書店を作っていきたいと思っています」