甲子園で優勝経験もある名将、愛知黎明高校野球部の金城孝夫監督は、「心を育てる野球」を目指しています。

 夏の大会を終えて引退しても、なお続く3年生と監督との絆。監督のもとで心を鍛えてきた3年生は、人生の次の一歩を踏み出します。

■野球部監督が掲げる人間教育…「人として成長できれば、野球の結果もついてくる」

 愛知県弥富市にある愛知黎明高校。2020年の年末、トイレから側溝まで大掃除をする野球部員の姿がありました。

金城監督:
「ただきれいにするということだけではなくて、その中にもいっぱい人として成長できる要素が転がっていますから」


 愛知黎明高校の金城孝夫監督(67)が掲げるのは“人間教育”です。

 愛知黎明高校は、2020年の夏に行われた県の独自大会で破竹の勢いで勝ち進み、ベスト4に進出。12月に3年生は引退し、1・2年生が夏の甲子園を目指して練習に励んでいました。しかし、グラウンドにはこの春卒業する3年生の姿もありました。

 そしてグラウンドの片隅にある部室でペンキを塗っているのは、野球部のOB。卒業してもなお、金城監督のもとに集まる卒業生。

 金城監督は、「物心両面で、多くの方がチーム作りに協力をしてもらっている。ただ“やってもらって当たり前”というのはレベルが低い」と話し、現役部員にも人として成長することが大きければ大きいほど、野球のゲームの結果もついてくると伝えてきました。

■早く母親に恩返しがしたい…チームをけん引した生徒は監督からの指導を胸に春から仕事と野球の両立

 この日グラウンドの隅で練習していたのは、卒業する3年生。その1人、鈴木拳太君は2020年の夏、レギュラーとして活躍しました。

 夏の独自大会の初戦では、同点で迎えた延長10回裏のチャンスに、サヨナラヒット。さらに準々決勝でもタイムリーを打ち、チームのベスト4入りをけん引しました。

 卒業後は社会人の軟式野球部に入る拳太君。そのチームの監督から金城監督にメールが届いていました。

<金城監督に届いたメール>
「黎明から初めての選手ですから大切に育てます。楽しみにしています」


 金城監督は、このメールを拳太君に見せ「迎える側もそういう風なんだから、送る側もちゃんとやらんといかん。先生がお前らにうるさく怒るのは、そういうことだと」と伝えました。

 5人兄弟の拳太君。女手一つで育ててくれた母親に早く恩返しがしたいと、就職することを決断。母親の律子さん(47)は、これまで息子を支えてきました。

母・律子さん:
「『俺働く』って、2年生くらいの時からはっきり言っていたので…。本当にいいの?って言ってたんだけど。1人で野球はやれないから、入れてくれるところがあったら、まあそれがいいかなと」


 そんな母親を拳太君は…。

拳太君:
「生活していて辛いことの方が正直多いと思いますけど、それでも僕の前では笑顔でいてくれて、帰ってきたら“おかえり”って言ってくれるので最高の親です」

 春からは、仕事と野球の両立。拳太君は、「金城監督からメンタル面で注意されることが多いので、その面を意識してこれからの人生を歩んで行きたい」と語ります。

■甲子園優勝経験ある名将の信念「野球以外の部分を学んで社会で成功を」

 新年の練習がスタート。練習後、金城監督は練習始めの恒例行事として、選手たちにぜんざいを振る舞いました。金城監督の妻の手作りのこのぜんざいにも、監督からのメッセージが込められていました。

金城監督:
「チーム作り、先生だけでやっているんじゃない。母ちゃんの協力もあって、ここまでチーム作りがやれている。野球以外の部分で人というのは色んな事を学んで、社会で成功してもらわないといけない。人生で」

 今年も、人間教育を掲げるチームが動き始めました。