名古屋を代表する繁華街、栄の錦3丁目、通称「錦三」は、普段なら多くの人が行き交う活気溢れる街ですが、2021年2月、コロナの再拡大の影響で歩く人の姿はまばらに…。至る所に休業の貼り紙が目立ちます。

 そんな時短営業や休業要請に伴い、大きな打撃を受けつつも、踏ん張り続ける「錦三」の飲食店。そこには様々な人間模様がありました。

■老舗和菓子店の15代目「今までに経験ない事が起こっている」…相次ぐ店の廃業に懸念

 午前10時。開店準備をする店がありました。江戸時代から330年以上続く老舗の和菓子店「川口屋」です。錦三に店を構えて70年が経ちます。

15代目店主の渡辺賢司さん:
「本当に今まで経験したことのないようなことが、起こっていますね」


 休業や家賃が払えず廃業する店が相次ぐ「錦三」…。渡辺さんも、生まれて初めて見る光景です。店も客足が半減しました。コロナの影響で、自宅周辺で生活するスタイルが定着し、わざわざ錦に来る習慣が無くなるのでは、と渡辺さんは懸念します。

渡辺さん:
「昔の形にプラス今のやり方というのを、上手に合わせてやっていきたいなと」

 常連客に頼るだけでは伝統を守れない…。そう考えて老舗がSNSで商品を発信し、コロナ時代を乗り切ります。

女性客(70代):
「お茶を習っていて、教室は今は自粛期間中でなくって。だから自分で(お茶を)たてていただきます」


■バーが始めた“ランチ営業”…常連男性「本当は飲みたいけど今は我慢」

 お昼時。店先で弁当を販売する飲食店が増えました。錦三のランチ事情にも変化が。10年前から続くバー「梅家」。夜8時まで営業の時短要請を受け、1月からテイクアウトやランチ営業を始めました。手掛けるランチはパスタやカレーなど4種類。オーナーが一から考案しました。

Bar梅家オーナーの梅村さん:
「コロナの話ばっかりしてきた昨年でしたから…。これから前向きに、頑張って行ければいいかな」

 常連の男性客が、そのランチを目当てにやってきました。

居酒屋でアルバイトをする男性:
「飲むのが好きなので、(夜に)飲みに行きたいけど、やっぱり今は我慢ですね」

 このバーの近くの居酒屋でアルバイトをしている男性は、年末から店は休業となり現在収入はほとんどありません。

同・男性:
「貯金が尽きたら終わっちゃうので、仕事に復帰できるのかどうかというのもありますし…」


■30年経営したラウンジたたむも…「コロナなんかに負けたくない」和食店をオープン

 夕方。仕事を終え、足早に帰宅する人が目立ちます。夜の錦三、そこにかつての賑わいはありません。2020年12月にオープンしたばかりの、おばんざいを揃えた和食店を覗いてみました。

カフェRAN&おばんざい蘭 オーナーの佐久間さん:
「接客業を29年営んでいましたけど、さすがに2回目の時間短縮の時に、ちょっと心が折れちゃいまして…」

 オーナーの佐久間蘭さん(55)は、およそ30年前からラウンジを経営してきましたが、コロナの拡大で売上は8割落ち込み、2020年11月にラウンジをたたみました。この時期になぜ新しい店を出したのでしょうか。

佐久間さん:
「いずれは料理屋をやりたかったんです。5、6年後にはという気持ちでいました」

 夜は和食店、昼はカフェの業態で、前倒ししてオープン。

佐久間さん:
「錦という街が大好きですし、コロナなんかに負けたくない。もうひと踏ん張りやってみようという気持ちで」

 佐久間さんは、「お客さんと一緒にオリンピックを観戦したい」と店に大型テレビを取り付けました。コロナが収束し、活気溢れる店内でオリンピック観戦をするのが当面の目標です。佐久間さんは、そんな活気ある錦に戻ることを切に願っています。

■会社員「お店が継続していけるのか心配」…“憩いの場”を支える常連客

 仕事終わりのサラリーマンで賑わう店も…。

客の会社経営者:
「1時間2時間とかで切り上げないと。ここからどっかに行って飲みたいけど…。ここで酔っ払って帰るだけです」

客の会社員(50代):
「ちょっと飲んで、仕事の憂さを晴らしてサラリーマンのパターンになっていますから。かといってコロナ予防はしっかりしないとね」

受験生の子供を持つ会社員:
「玄関前で、全身(消毒を)してから家に入るという毎日ですね。本当に気を遣っています」

客の会社員:
「お店が、今後もちゃんとできるのか心配になります。僕らの憩いの場になっていますから」


 コロナ時代、常連客が飲食店を支えています。

■焼き鳥店女将「うちも電気消したら真っ暗に」…目抜き通りのビルで唯一営業を続ける

 「なんとか昔の錦三に戻ってもらいたい」、そう話すのは、焼き鳥店「鳥勢」の女将・伊藤綾野さん(45)です。

鳥勢女将の伊藤綾野さん:
「ここは錦通りに面しているので、うちも電気消してしまったらこのビル全部休業で、ほんとに真っ暗になってしまうので、何とか頑張りたいと」


 ビルに入る他の8店舗は全て休業に。街の灯りを絶やしてはいけないと、唯一営業を続けています。さらに、こんな理由もありました。

伊藤さん:
「父がオーナーなんですけど、いま病で休養していて。父から『頼むね』と言われているので」

 父親の突然の入院で、ピンチヒッターを頼まれた伊藤さん。その矢先にコロナが店を襲いました。元気に帰ってくるまで店を守り続ける覚悟です。

■ドレスショップ店主「何とか続けていきたい」…協力金が出ない中で営業を続ける店も

 午後8時、店じまい。ひっそりとした雰囲気になった錦三、街の灯は消えました。協力金が出ない中、営業を続ける店もあります。

ドレスショップの店主:
「働いている女の子たちも、出勤カットされたりとか、苦しい状況なので。それでも何とか続けていきたいなって思って」

生花店の店主:
「こういう時だからこそ、大切な人にメッセージをつけて贈っていただけたらと、営業は続けております」


 街燈に掲げられた「錦三」の旗は、医療従事者に“感謝を”込めて全て青色に…。

 再び、街に活気を。コロナ禍に見舞われた錦三には、苦境を乗り越えるため、闘う人たちの姿がありました。