様々なポージングで自らが育てた農産物をアピール。農家さんの名刺のようなカード「農カード」が、今SNSで話題になっています。

「農カード」は、2020年8月に、愛知県のトマト農家の2代目の男性が発案。現在、全国140の農業関係者が参加し、農業を盛り上げ、消費者に安心して買ってもらうためのツールとして注目されています。

■全国140の農業関係者が参加…名刺代わりにもなる顔写真・生産物・都道府県記載の「農カード」

 ビニールハウスの中で腕組みをする男性に、作業着姿でレンコンや柿を手にする男性…。脇には、キャッチコピー「農業が繋ぐ、食の未来」の文字。農家さんが、各々のポージングで写真に納まる「農カード」です。

 街の人に見せてみると…。

女性:
「カード見ただけで楽しいですね」

別の女性:
「顔がでるのはいい。誰が作ったかわかるように。イケメンが好きだし…」

 SNSを中心に話題となっているこの農カードは、2020年8月に、愛知県田原市でミニトマトの栽培をする農家の2代目の「おがわ農園」の小川浩康さんが発案しました。

 小川さんの農カードには、ミニトマトを持ち満面の笑みを浮かべる姿が。裏には各々の農園のホームページにつながるQRコードも掲載されています。「顔写真」「生産物」「都道府県」が掲載されており、名刺代わりに使う農家もいます。

小川さん:
「たくさんの農家のライバルがいる中で、農カードが販売における差別化に繋がればいいなと思っています」


 小川さんが作るのは、糖度が高く皮が柔らかい、「サマー千果」という品種。年間40トンを生産し、そのほとんどを地元の市場に卸していましたが、新型コロナの影響で出荷は激減。消費者と直接やりとりするネット販売は、去年の2倍に増えました。

 そこで、通販サイトで自分の作物を選んでもらえるようにと「農カード」を考案。注文を受けたら、商品と一緒に梱包して発送しています。

小川さん:
「売上の面で繋がってくれたらいいなと思いますけど、農カードをきっかけに農業界を盛り上がってくれたらいいなと思っています」


 コロナで厳しい状況の中、少しでも農業を盛り上げたい。その思いが届き、現在は全国140の農業関係者が参加しています。

■テレビで見た「漁師カード」の農業版を…参加希望者募ると予想を超える140の応募が

 きっかけは、既にあった「漁師カード」を知ったことでした。

「漁師カード」とは、約1年前に青森県の農林水産部が作ったカードです。「おいしい魚を捕るためには鍛え抜かれた肉体が必要」ということを伝えるため、カードに写っている漁師は、上半身裸の屈強な姿。イベントなどで水産物と共に配布し、広がりました。

「漁師カードの農業版を作ったら面白いかも」と思った小川さんは、SNSでその構想をつぶやきました。すると、顔見知りの岐阜県本巣市の柿農家・西垣さんと北海道余市郡のミニトマト農家の川合さんが反応しました。

 柿農家の西垣さんは、最初は「全く知らない農家のおじさんのプロマイドに、需要なんてあるのだろうか」と懐疑的でしたが、話をするうちに、お客さんに『なんだこれ?』って楽しんでもらえるかも、と考えるようになりました。

 将来の農家を担う30代の若手3人で、デザインや仕組みを考えました。ネットで参加希望の農家を募ったところ、すぐに70を超す応募がありました。2020年12月に、2度目の募集をかけると再び70近い応募があり、現在全国140の農業関係者が農カードを作り、野菜と一緒に消費者に送っています。

 小川さんも「正直、ここまで盛り上がると思っていなかった」とその反応に驚きました。

■カードに表れる生産者の「個性」…スーツ姿からコスプレまでバリエーション豊富の農カード

 140の農業関係者が参加しスタートした農カード、そのバリエーションも豊富です。みかんのコスプレをして、みかんよりも目立つ農家さんや、まるで選挙ポスターのようにスーツ姿できっちり決める米農家さんまで。皆さん、様々なポージングでアピールしています。

スーツ姿のカードを作った米農家:
「(コロナ禍で)何か面白いことをして盛り上げていこうと思って。距離が縮まる気がしますよね、消費者との」


 コロナ禍の今だからこそ、農カードで消費者との距離を縮めたい…。その思いは、しっかりと伝わっていました。

 すでに20枚以上の農カードを集めたという女性は、ネット販売を利用するうちにカードが増え、気付いたらカード集めが楽しくなっていたといいます。

農カードを集めている女性:
「どんな人が作ってくれるのかが、わかるっていう点では面白いですし、残さず食べようという気になりますよね」

 お気に入りは、満面の笑顔でポーズをきめている夫婦2人のカードです。

同・女性:
「なんか楽しそう。楽しくやっている人から買いたいじゃないですか」

 しかし、生産者と消費者を繋ぐ農カードですが、人気になればなるほど気になる問題がありました。

■「リピーターに同じカードが何度も届いてしまう問題」…追加撮影し4パターン揃えることに

 岐阜県海津市で、トマトを育てている「こでら農園」の小寺智恵さんは、既に農カードを作っていますが、別のカード用に新たな撮影を行っていました。

小川さん:
「(リピーターの客にカードを)入れながら、毎回入れた方がいいのか、もう要らないよなと思ったりとか…、すごく複雑…」

 問題は、注文をリピートしてくれる客に同じカードが届いてしまうこと。小川さんは、これまで1人1枚だったカードを追加で4枚までデザインできることにしました。小川さんも背景やポーズを変え、4パターンに。リピーターにランダムでカードを入れることで、集める楽しみを持ってもらえればと考えます。

 生産者と消費者を繋ぐために始めた農カードが、思わぬ効果も生んでいました。

こでら農園の小寺さん:
「消費者さんとの繋がりはもちろんですけど、農家同士の繋がりが勉強になることも多くて。色んな方の活動を拝見して、パワーをもらっています」

 
 生産者とのつながりだけでなく、農カードを通して農家同士のつながりも生んでいます。

 小川さんは、「最終的には『農カードチップス』のようなお菓子を作り、子供たちが少しでも農業に関心をもってもらえれば」との未来に思いを馳せています。