環境や経済、貧困や差別など社会が抱える様々な問題について17の目標を掲げ、2030年までに達成しようという取り組みSDGs。その目標の1つに「つくる責任、つかう責任」があります。

 イギリスやイタリアと並び、毛織物の世界三大産地といわれるのは、愛知県の尾張西部を中心とした尾州です。安い外国製品に押され苦境が続く中、その尾州ウールが今、サスティナブルな「再生ウール」として見直され、世界のファッション業界の注目を集めています。

■パリコレでも紹介…世界の注目集める尾州の「再生ウール」

 廃材や重機が並ぶスクラップ工場が舞台となった2021年秋冬のパリコレクションで、世界の注目を集めたのが“再生ウール”です。茶色のジャケットや白いニットは、尾州の特別な技術で作られました。

 その名は「毛七(けしち)」。尾州では60年前から作ってきた“再生ウール”です。

 一宮市の毛織物会社「大鹿」の彦坂雄大さん(33)は、「毛七」のブランド化を進めています。「毛七」の名前の由来はウールが70%、その他が30%。毛が7割から「毛七」と呼ばれています。

彦坂さん:
「すごく見直されていて、それ(毛七)を使って生地を作りたいというご要望が殺到している」

■戦後に生まれた再生技術「毛七」…古着を色ごとに仕分けしリサイクル

「毛七」は、戦後貧しかった時代に生まれた技術で、尾州では古着の糸くずなどを集め、羊毛を7割、合成繊維を3割使った再生技術が発達しました。そこには輸入に頼っている高価な羊毛を捨てることなく使い切りたいという、日本人の「もったいない精神」がありました。

 尾州では昔から分業制で織物を作ってきました。紡績、撚糸、染色、織り、修整など…。複雑な工程を別々の工場で分業しています。尾州にいる世界に誇る職人たち。その高い技術と品質を彦坂さんは伝えています。

 この日、愛知県一宮市の繊維工場では、全国から集められた古着のセーターの仕分け作業が行われていました。

彦坂さん:
「色ごとに分け、もう一回綿に戻すんですね。染色をする必要もなくコストメリットもあるし、環境にも優しい」

 毛七の原料は、主に全国から集められた古着のセーターや、裁断くずなど。生地の色をそのまま生かすため、染色の工程がなく大量の水や電力も使いません。商品のタグやボタンは手作業で取り除きます。

■生地を少しも無駄にしない…熟練の職人による「修整」でサスティナブル

 続いては、尾州ならではの特別な技術“修整”と呼ばれる工程。機械では見つけることができない生地にできた細かい傷を、熟練の職人がチェックして手直しします。

 彦坂さんは「高価な尾州の生地を、少しでも多く修理して出荷したいという文化が昔からある」といいます。織りあがった生地を少しでも無駄にしないために…。尾州では昔からあったサスティナブルな技術です。

■築88年のレトロビルで尾州織物を伝える…サンプル商品を格安で販売し魅力発信

 一宮の中心部にあるレトロなビル。このビルでは毎月初めの週末、尾州の織物を格安で販売しています。

女性客:
「あまり触ったことのない、織物の生地が新鮮」

別の女性客:
「手触りとか質感とか見て…。いろいろ見られるのが本当に楽しい」

 築88年、かつては繊維協会の建物で、近代化産業遺産に指定されています。老朽化で取り壊しが検討される中、5年前に改装。生地や雑貨、スーツの販売など、尾州の伝統を伝える場として生まれ変わりました。

 店内に並ぶ織物の数は3000種類。ほとんどが生地を作る時に出る提案生地と呼ばれるサンプルで、一般的には廃棄されてしまうものです。

尾州織物を販売する女性:
「こんな素晴らしい生地をこの地元で作っていたのって。廃棄するのはもったいないと、たくさんの人に伝えたい」

 尾州織物を販売する女性は、「多くの人に尾州、この街を誇りに思ってもらいたい」と話します。

■「今何かしないと終わってしまう」…危機感から若手が集まりセレクトショップ

 彦坂さんも新たな取り組みを始めています。愛知県一宮市に4月にオープンした尾州のセレクトショップ。

 彦坂さんは毛織物工場を改装し、製造現場を見学しながら、尾州の生地や服を買うことができる場所を作りました。

 彦坂さんは2年前「尾州のカレント」というチームを結成。外国産に負けない尾州の織物の魅力を発信し、後継者不足を何とかしたい。そんな思いで普段は別の会社に勤める若手が集まりました。

彦坂さん:
「この産地はこのままいくと間違いなく無くなるし、僕らも仕事を失ってしまう。今何かしないともう終わっちゃう」

「産地と自分たちを守るラストチャンス」と彦坂さんはいいます。

 この日は、「びしゅうのズボン」(1万2000円~)の受注会が行われていました。20種類ほどの生地の中からオーダーメードで作ります。生産者は直接消費者に尾州の魅力を伝えます。

注文した女性:
「生地が良くて滑らかで、落ち感もきれいでした」

別の注文した女性:
「写真で見ていると全然わからないのが、触ればいろいろわかるので来てよかった」

 世界に誇る技術と品質。生産者の思いを未来へ繋ぎます。

「大量に作るのではなく、オンリーワンの商品だからこそ高いという考えをするためにも、まずはしっかりと売れるものを作ることがサスティナブルなものづくりだと思う」と彦坂さんは話します。