岐阜県飛騨市古川町に、たこの代わりに飛騨牛が入ったたこ焼きをモチーフとした「ぎゅうまる」が人気の移動販売車があります。

 考案したのは、飛騨牛を扱うレストランに勤める46歳の女性です。「身近な食材・飛騨牛で街を元気づけたい」と話すこの女性が、秘伝のタレで作る飛騨牛のすじ煮が入った「ぎゅうまる」は、多くの人たちの間で人気を呼んでいます。

■たこの代わりにA4ランク以上の飛騨牛を…レストランが始めた「ぎゅうまる」

 岐阜県飛騨市古川町にある、最高級の飛騨牛を扱う地元で人気のレストラン「山勇牛一貫」には、「鉄板焼きサーロインステーキ」(100g 5000円)に、「陶板焼き飛騨牛カルビ」(900円)など、A4・A5ランクの肉を堪能できるメニューが揃います。

 その駐車場に現れた移動販売車で売られているのは、たこ焼きのたこの代わりに、牛すじの煮こみを具にした、その名も「ぎゅうまる」(6個500円)です。このレストランが3月に始めました。

 使っている肉は、A4、A5ランクの飛騨牛。中でも「山勇牛」という特別な高級肉です。山勇牛とは、月齡29か月以上の雌牛で、A4・A5ランクのみを30日間以上熟成。一般的な飛騨牛の倍の時間と手間をかけています。

 それを使った「ぎゅうまる」は、6個500円。飛騨牛のすじ肉が入ってワンコインとお値打ちです。

■休業中に移動販売に着目…お年寄りなど移動できない人にこちらから届ける

 この「ぎゅうまる」の移動販売を考えたのは、レストランで企画・販売を担当している田尾千春さん(46)です。

田尾千春さん:
「古川祭も高山祭も中止…。そうなると、出店でものを食べるという楽しみもないわけじゃないですか」

 緊急事態宣言を受け、田尾さんが勤めるレストランも自主休業。田尾さんは外出が制限される中、移動販売に着目。一人暮らしのお年寄りなど車が無く移動できない人たちに、こちらから届けにいこうと考えました。

 そして考案したのが、大人も子供も好きなたこ焼きをモチーフにした、「ぎゅうまる」だったのです。

■飛騨牛の熟成肉を秘伝のレシピで…近所で評判の「田尾家の味」で味付け

 これまでたこ焼きを作ったことがなかった田尾さん。「ぎゅうまる」を完成させるまでには、様々な苦労がありました。移動販売のオープン10日前。田尾さんは、レストランの厨房で山勇牛のメス牛を仕込んでいました。

田尾さん:
「サーロインなどを使えば美味いものができるのですが、気軽に食べていただくことを考えたら…。すじ肉といっても、飛騨牛ですし、熟成肉ですから」


 そして味付けは、近所の人に美味しいと評判の、田尾さん独自の秘伝のレシピです。

 3時間ほど煮込むと、具となる飛騨牛のすじ煮が完成。子どもにも大人にも評判が良い、地元で代々暮らす田尾家の味の完成です。

■オープン10日前に2つの課題…業務用のたこ焼き器に悪戦苦戦

 問題はここからでした。この日は本番を想定した「ぎゅうまる」の試作。これまで1か月ほど、自宅で家庭用のたこ焼き器を使って練習しましたが…。

田尾さん:
「なんかすごく入れにくい。寒くなってくるとすぐに(肉が)くっついちゃう」

 外で調理すると気温の影響もあり、牛すじ煮を均等に入れることができないばかりか、思うようにひっくり返せません。勝手が違う業務用の鉄板に苦戦する田尾さん。オープン10日前にして2つの課題が浮き彫りになりました。

 オープン前日。牛すじを均等に入れられなかったことを解消するため、田尾さんが取り出したのは、すじ煮の煮こごり。ゼラチンが多いすじ肉は、冷えると固まってしまうことを逆手にとりました。

 煮こごりで塊にすることで、同じ大きさに切り、均等に手早く入れられるようになりました。あれから毎日、最低鉄板2枚は焼いて練習。焼く手つきもずいぶんよくなりました。

■「街の人を活気づけたい」…オーナーもお墨付きの「ぎゅうまる」完成

 社内で試食会も実施。「さっぱりした味の方が、大人も子供も食べやすくなる」との意見から飛騨ねぎの「ねぎしょうゆ」をかけることにしました。レストランのオーナーに、最終チェックをしてもらいます。

「山勇牛一貫」のオーナー:
「ねぎしょうゆ?さっぱりしている。肉の臭みが無くてうまい、これいいよ」


 無事、お墨付きをもらいました。オーナーは「コロナで滅入っている飛騨の街の人たちを、身近な食材・飛騨牛で活気づけたい。採算は度外視」とその目的を話します。

 オーナーも田尾さんも思いはひとつ。飛騨地方を元気づけたい。いよいよオープン当日を迎えます。

■150パック目標が170パック販売…「販売車で色んな所に行き飛騨牛を広めたい」

「ぎゅうまる」の移動販売初日。設営を済ませた田尾さんは、練習の成果もあり、手際よく「ぎゅうまる」を焼いていきます。事前に近所に新聞の折り込みチラシを入れ、PRもバッチリ。150パックは売りたいと意気込みます。

 そして正午。オープンと同時に、お客さんが次々とやってきました。

女性客:
「牛肉のうま味が、たこ焼きにバッチリ合っています。おいしい」

男性客:
「なかなか買えるところが少ないので。移動販売があると買いに行こうかと」

富山から名古屋への向かっている途中の男性:
「行きすがら。美味しそうと思いまして」

 地元の人はもちろん、通りがかりの人も立ち寄り、順調に売れていきます。お客さんから自然とこぼれる笑み。田尾さんは、休むことなく「ぎゅうまる」を焼き続けます。

 午後4時、無事閉店。「ぎゅうまる」は、目標を超える170パックが売れました。

田尾さん:
「(お客さんが)喜んでくださったのもだし、ありがたいなって…」


 手応えをつかんだ田尾さん。「移動販売車で色んなところに行って、ますます飛騨牛を広めていきたい」と目を輝かせています。