電車の線路の上を跨ぐような形で架けられた橋、「跨線橋(こせんきょう)」。愛知県にある国内最古の跨線橋が、6月5日で役割を終えて撤去されることとなり、連日100人以上のファンが訪れています。

 JR武豊線の半田駅にある跨線橋。クリームがかった白と、深い赤のツートンカラー。窓は傾きに沿って平行四辺形とモダンなデザインです。

 誕生したのは明治末期。それから110年もの間、駅のシンボルとして存在し続けてきました。

 移設されずに使われているものとしては国内最古となるこの跨線橋が、6月5日いっぱいでその役目を終えることに。線路の高架化に伴い撤去されることとなったのです。

『ごんぎつね』で知られる地元出身の童話作家・新美南吉は、当時の日記にこんな事を書き記していました。

<新美南吉の日記>
「駅へ走った。ブリッヂをあがるとき、エネルギーがなくなって足が鈍重になるのが感ぜられた」

 通勤のため毎日駅を利用していた南吉は、跨線橋を“ブリッヂ”という愛称で呼んでいました。急な階段を走って上がるのはずいぶんと体にこたえたようです。

 その跨線橋との別れを惜しむ人は、多い日は1日100人以上。ファンたちがその姿をカメラに収めようと連日訪れています。

男性:
「趣があってなかなかね。クラシックな感じがして」


夫婦:
「古いんだけど情緒があるというか、おしゃれな感じ」
「(スマホを見せながら)これが私のベストショットかなと思ったんですけど。寂しいなと思って、今駅にある姿を見たいなと思って」

別の男性:
「一番古いものなので、それが地元にあるのが自慢になったと思うので、寂しいですね」


 中でもとりわけ思いがあるのが、駅のすぐ目の前にある商店街の皆さん。

 104年続く老舗のうどん店「成田屋」。4代目の市野隆子さん(77)はこう振り返ります。

市野さん:
「朝日を浴びた跨線橋が一番良かったです。誇らしげに見えますね。年数見て改めて、おばあちゃんたちが(店を)やりだして時からずっとあったんだなと思って、すごいなと。もう本当に(店を)閉じると思います」

 跨線橋と同じ時代を生き抜いてきたこのお店。橋が役目を終えるのに合わせ、自分の代で畳むことも考えています。

 創業118年の老舗和菓子店「和菓子 松華堂」…。

 店で買い物をしてくれたお客さんに、武豊線の電車の焼き印を押したどら焼きを配っていました。

6代目の内田さん:
「最後なんだよ、実はっていう。地元のお店としてやれることはないかなと思って配ったら、興味を持ってもらえるんじゃないかなと思って」


 今の自分たちがあるのは跨線橋のおかげ…。改めて感謝の気持ちを抱いたといいます。

内田さん:
「人の流れが出来たがったのが鉄道のおかげなので。うちもやっぱり跨線橋に支えられてここまで続けてこれたと、感謝の気持ちはしっかりと持っていますね」

 ありがとう跨線橋…。橋は5日の終電をもって、その役割を終えます。

 今後は、産業遺産として市内で保存・展示されることになっていますが、最終日の5日は、商店街主催で跨線橋を渡るイベントなどが行われる予定です。